パンの最新トレンド「サワードウ」世界的ブームを呼んだ魅力とは

パンの最新トレンド「サワードウ」世界的ブームを呼んだ魅力とは

2019/09/21

近ごろ世界中のパン・ラバーズを魅了している「サワードウブレッド」を知っていますか? いま食べておくべき話題の食事パンを谷中で焼き上げる若きベイカー(パン職人)の魅力を、1万個以上のパンを食べ歩いたパンマニアの片山智香子さんがご案内!

Yahoo!ライフマガジン編集部

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世界を旅したベイカーが焼く“サワードウ”にパンマニアも夢中!

取材にうかがった谷中の「VANER」(ヴァーネル)では、サワードウの生地を使ったパンを主に手づくりしている

コッペパンや食パンなどが再評価され、長蛇の列ができる名店が数多く登場するなど、パンの人気は絶賛加速中。次なるパンのトレンドはいったい何? というわけで今回は、世界を旅して1万個以上のパンを食べ歩いたパンマニアがハマる、最新パンのトレンドについて聞きました。

\本日の案内人/
片山智香子さん

新たなパンとの出合いを求めて知らない街を訪れては、パンのお店をはしごするスタイルで旬の情報を収集・発信。フォロワー2万人を超えるFacebookのコミュニティ「パン屋さんめぐりの会」の管理人も務める
片山さん
片山さん
「いま『サワードウブレッド』と呼ばれるパンが世界中で人気を集めています。3000年以上の歴史を持つ原始的な製法のパンなのですが、野生の酵母と乳酸菌を使い、低温で長時間発酵させてから焼くため、もっちりとした舌触りと爽やかな酸味を楽しむことができるんです」

「サワードウブレッドを日本で食べるならここ!」と、片山さんが案内してくれたのが谷中にある「VANER(ヴァーネル)」

昭和13(1938)年造の古民家をリノベートした複合施設「上野桜木あたり」に店を構える。扱うパンは5種類のみだが、国内外のパン好きから注目されている
片山さん
片山さん
「『ヴァーネル』は、サワードウブレッドの本場である北欧のノルウェーで修業した宮脇司さんが、2018年の夏に開業したお店。ノルディックスタイルの味が体験できると、パンマニアの間で大きな注目を集めています」
3軒の古民家と路地からなる「上野桜木あたり」には、「ヴァーネル」のほか、クラフトビールの「谷中ビアホール」や、塩とオリーブオイルの専門店「おしおりーぶ」などが営業している

\片山さん注目の品がコチラ/
「サワードウ ブレッド」(ホール1200円/ハーフ650円)
「サワードウ ブレッド バンズ」(400円)

写真左のホールと右のバンズの材料は同じだが、焼き時間が異なるため個性も若干変化する
「サワードウ ブレッド」のホールの断面。長時間発酵させることでクラム(パンの内部)がモチモチで滑らかに焼き上がる
片山さん
片山さん
「ヴァーネルのサワードウブレッドは、しっかり焼き上げられたクラスト(皮)が香ばしく、クラム(内部)は水分をたっぷり含んでいるのでもっちりみずみずしくて……どストライク! 粉の主張が強いパンが好みですが、これは毎日でも食べたくなるおいしさなんです」
写真左がホール、右が小ぶりなバンズ。スライスするとホールのクラスト(皮)の方が厚いことがよくわかる。もちろん好みで選んで大丈夫
片山さん
片山さん
「パンの種類は大きく分けて、クロワッサンのようにバターや砂糖、生クリームなどを使った『リッチなパン』と、粉・水・酵母・塩といった最小限の材料でつくる『リーンなパン』があります。サワードウブレッドはリーンなパンの代表選手で、つくり手の技量がより試されるんです」

パンマニアを夢中にさせるサワードウブレッドを作っているのが、「ヴァーネル」のヘッドベイカーである宮脇司さんです。

フランスの地方を旅しながらパンづくりを学び、自分流のサワードウブレッドのノウハウを世界に広めたチャド・ロバートソンに憧れてこの世界に入ったという宮脇さん

宮脇さんが理想とするパンの食感は、“舌の上でほどけるような滑らかさ”。また、焼けた小麦の香りを凝縮したクラスト(皮)のきれいな旨味が、ずっと口の中に漂うパンを目指しているそうです。「そういう意味では、より長い時間窯の中で焼くホールがおすすめ」なのだとか。

ヴァーネルのパンに使われる穀物たち。写真左下がスウェーデン原産の古代小麦の「オーランド種」。写真右下の「スヴェーシェ ライ麦」はコーヒーやダークチョコレートに似た複雑な甘みが特徴

生地に使う粉にも並々ならぬこだわりが。スウェーデン原産の古代小麦のオーランド種と、スヴェーシェライ麦を主に使っているのだといいます。

片山さん
片山さん
「スヴェーシェライ麦というのは珍しいですよね」
宮脇さん
宮脇さん
「16世紀にノルウェーに移住したフィンランド人が持ち込んだとされるライ麦なんですが、絶滅したと思われていました。ところが1970年代に考古学者が粉挽き小屋の床下から9粒の種を見つけ、そのうち7粒だけが発芽して現代によみがえったものなんです」
片山さん
片山さん
「ということは、このサワードウブレッドはその貴重な7粒の子孫ということ……。ロマンがあってステキです!」
「そのままでもおいしいですが、オーリーブ油と塩を添えても。ノルウェーではサラダやゆで卵、スモークサーモンやクリームチーズ、ハムなど、好みの具材をトッピングして楽しんでいました」(宮脇さん)

今では世界中から注目されるベイカーとなった宮脇さんですが、そのキャリアは実にユニーク。

宮脇さん
宮脇さん
「現代のサワードウ・カルチャーの中心が『Tartine Bakery(タルティーン・ベーカリー)』。そのオーナーベイカーであるチャド・ロバートソンに憧れて日本のパン店で修業を始めました。でも、なかなかパンづくりの工程に関われず『本当にベイカーになりたいのか?』と悩んだ末、お店を辞めてその日に片道のエアチケットを買い、サンフランシスコのチャドの店に向かったんです」
片山さん
片山さん
「その行動力はすごいですね(笑)」
ヨーロッパの街角にあるパン屋さんのように、カウンター越しにパンを選ぶスタイル。左手にはガラス越しに作業風景を見ることができる

タルティーンでパンを食べながら、「パン好きだからってパン屋になる必要もないかな」と気持ちを整理。一度日本へ帰国した後ワーキングホリデーでノルウェーに渡り、コーヒーショップで働き始めました。

宮脇さん
宮脇さん
「ある日お客さんから『日本では何をしていたの?』と聞かれて、『パン職人になりたかったけど諦めたんだ』と話したら、『自宅のオーブンで焼けばいいじゃない』と言われたんです。一理あるなと思って、『THE PERFECT LOAF』というブログを参考にして、趣味としてサワードウブレッドを焼き始めたんです」
食べ残してもラップフィルムでしっかり包めば冷蔵庫で1週間ほど保存できる。好みの厚さにスライスしてから3分ほどリトーストするとまた違ったおいしさに変身!

パンづくりは趣味と割り切ることにした宮脇さん。しかし、人と人との縁が再び宮脇さんをパン職人の道へ導きます。

宮脇さん
宮脇さん
「SNSでフォローしていた有名ホームベイカーの『illebrod(イルブロー)』がオスロで開業すると聞いて、初日から通っていたら『人手が足りないから手伝って』と雇ってくれたんです。その後も世界各国のベイカーを訪れましたが、だれもが『ベイカーはファミリーだからなんでも聞いて』と、ノウハウを惜しげもなく教えてくれました」

オープンなベイカーたちとの交流を経て帰国した宮脇さん。彼らから学んだノウハウを日本の環境に置き換えてパンを焼いているのだと話してくれました。

店内には宮脇さんが敬愛する伝説的ベイカーである、ジョシー・ベイカーやチャド・ロバートソンの著作が飾られる

さて、パンマニアを魅了するのは、プレーンなサワードウブレッドだけではありません。「サワードウ シナモンロール」は片山さんが絶対に食べて欲しいという逸品。また、スウェーデン発祥のペストリーで、ノルウェーでもポピュラーな「カルダモンロール」も気になります。

パンマニアの固定概念を覆す味わい
「サワードウ シナモンロール」(300円)

トッピングはアイシングではなくザラメを使ってよりシンプルに仕上げている
片山さん
片山さん
「実はシナモンロールってあまり得意ではなかったのですが、あまりに評判がいいので試してみたんです。ほどよくキメのつまった生地を噛みしめる度に、甘味に負けることなく主張する粉の味を感じられ感動。『アイシングの甘味でごまかさないシナモンロールがあるんだ!』と、イメージが根底から覆されました」

カルダモンが爽やかに香る
「サワードウ カルダモンロール」(300円)

カルダモンロールはシナモンロールと並び、ノルウェーではポピュラーなペストリーなのだとか
片山さん
片山さん
「今回どうしても食べたかったのが『サワードウ カルダモンロール』。以前シナモンロールの情報をポストしたときに、フォロワーさんから『カルダモンロールも必食です!』と突っ込まれてちょっと悔しかった(笑)」

カルダモンが生地に練りこまれ、柑橘やサイダーにも例えられる爽やかな香りが漂います。実はシナモンロールにも少し練りこまれており、どちらも焼き上げるとヨーグルトのような爽やかさが生まれるのだそう。

取材時にはカルダモンロールの仕込みが行われており、店内はカルダモンの爽やかな香りに包まれていました
写真上のカルダモンの実を手でほぐし、取り出した種子(写真下)を生地に練り込む。「クセがなくて、まるでラムネのようにスーッとする清涼感です!」(片山さん)

パンの魅力を最大限に引き出すマニアの楽しみ方、教えます!

片山さん流のパンの楽しみ方「外パン」のお供には、「サワードウ シナモンロール」(写真左300円)と「サワードウ カルダモンロール」(写真右300円)をチョイス

おいしいパンをゲットしたところで、お店の前の休憩スペースでパンマニアの片山さんならではの楽しみ方を教えてもらうことに。

片山さん
片山さん
「パンって焼き立てがおいしいですよね。それに、長い時間持ち運ぶと形がくずれてしまうことも。なので、お目当てを買ったらすぐに公園などの“お外”で、最高のコンディションのパンを心ゆくまで楽しむ、つまり“外パン”がおすすめなんです」

外パンお作法その1:「香りを楽しむ」

「袋から出したら反射的に香りをかいでしまうもの。それでいいんです」(片山さん)

外パンお作法その2:「写真を撮る」

「おいしいパンはSNSでシェアしたいもの。太陽の自然光の下で撮ると自然な写真になります」(片山さん)

外パンお作法その3:「断面をチェックする」

カルダモンロールの断面。固すぎず柔らかすぎない絶妙な生地の様子はパンマニアならずともチェックしたい。「切るときには木のお皿などを用意すると便利ですよ」(片山さん)

外パンお作法その4:「食べる」

「誰にも邪魔されずじっくりとパンを味わいたいので、パン屋さんめぐりは一人で行くことが多いです」(片山さん)

「ヴァーネル」で手に入れた逸品たちを外パンスタイルでパクリ。大満足の様子の片山さん。

片山さん
片山さん
「カルダモンロールは粉の存在がしっかり出ていますが、水分量が絶妙なせいかモッサリ感は皆無。そして、シナモンロールは何度食べてもおいしい! 甘さの中にも粉の主張がしっかり感じることができて本当に大好きなんです」
谷根千といえば街猫たち。上野桜木あたりで見かけた猫もなかなかいい顔をしていました

\ぴったりのコーヒーもあるよ/

「今日のコーヒーはコロンビア産。華やかな酸味と柑橘のような爽やかさ、甘味を両立しているのが特徴です。発酵による自然な酸味があるサワードウブレッドとも良く合います」(ヴァーネル・吉田友翔さん)
片山さん
片山さん
「ヴァーネルではサワードウブレッドによく合う『Fuglen Coffee Roasters』のコーヒーもテイクアウトできます(フグレン今日のコーヒー・360円)。北欧スタイルのライトロースト(浅煎り)のコーヒーは明るく華やかな果実感があり、サワードウブレッドと相性バツグンでした」
「上野桜木あたりにはクラフトビールをテイクアウトできる『谷中ビアホール』もあります。サワードウブレッドには小麦のビール『アウグスホワイト』(900円・税別)を合わせても面白いですよ」(片山さん)
築80年を超える日本家屋とノルディックスタイルが自然と調和している

つい先日、宮脇さんがパンづくりの基礎を学んだブログ「THE PERFECT LOAF」を主宰するmaurizio氏が来日した際、ここ「ヴァーネル」を訪問。宮脇さんの焼いたサワードウブレッドを食べ「いいパンを焼いているね」と言ってくれたのだそう。宮脇さんは「『あなたのおかげでパン職人になれたよ』と、お礼を伝えることができた」と話してくれました。

片山さん
片山さん
「質の高いパンのつくり手には語るべき物語があり、一本筋が通ってブレがない。平成生まれの宮脇さんのつくるパンからはますます目を離すことができません」

この秋には再びノルウェーのベイカーたちを訪れ、最新のアプローチを学びに行くという宮脇さん。「よりサワードウブレッドのクオリティーを上げたい」という若きベイカーに今後も大注目です。


取材メモ/「全身を使い、生地の感触を手のひらで感じることのできるパンづくりは瞑想のようなもの」と言う宮脇さん。日本でも自宅でパンを焼くホームベイカーのカルチャーやコミュニケーションが広がってほしいと話してくれました。

構成・取材・文・写真=杉山元洋

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