東海道・関宿で130余年を数える「桶重」4代目の服部健さん

東海道・関宿で130余年を数える「桶重」4代目の服部健さん

2019/10/31

県の指定伝統工芸品に登録されている「関の桶」。特に明治15年創業の桶重(おけじゅう)で生まれる花手桶は、機能性と美しいたたずまいで高い人気を誇っている。関宿の目抜き通りに面した店で腕を振るう4代目・服部健さんは、代々引き継いできた手仕事の技を、今日も惜しみなく桶に注ぐ。

中広

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「関の桶」の伝統を守る桶重の職人

東海道五十三次の宿場町として栄え、往時の雰囲気を現在も残す関宿。国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたまちの一角で、桶を手がけるのが、桶重4代目の服部健さんだ。とにかく気さくで明るい職人の存在感は、関宿の中でも際立っている。

桶づくりをもの珍しそうに見る観光客には「今日だけ特別に見せるわ」と声をかけ、取材班には「気に入ったお客さんだけ入れてあげるんや」と冗談をこっそり耳打ち。桶の板がぴたりと収まる様子に驚嘆すれば、「商売でやっとるから!」と鮮やかに突っ込みを入れる。

木の温もり、桶の素晴らしさを伝え続ける、ユニークかつ熱き職人

【服部健(たけし)さん】桶重4代目。桶職人としての気概は誰にも負けず、「一から十まで昔のやり方を踏襲する桶屋は、全国でも数軒」と胸を張る。修理依頼に対しても、決して「できない」といわない姿勢を貫く

桶重が開店したのは、明治15年。長き137年の歴史の中で、4代の職人が技術を紡いできた。創業当時、桶は生活必需品だった。種類は、風呂桶、半切桶(寿司桶)、伊勢びつ、和菓子桶、漬物桶、磯桶、神事用などさまざま。高度経済成長期のころから安価なプラスチック製品が使われるようになり、需要を奪われてしまった。

桶重
店先には、歴史を感じる看板がかけられている

時代の荒波に揉まれても関の桶が生きながらえたのは、桶重代々の確かな技が全国の人を魅了してきたから。桶の底板ひとつを見ても、長きにわたり研鑽を重ねてきた職人の妙技がうかがえる。

明治時代ごろの台帳をめくると、かつてオーダーされた伊勢の名店・赤福に卸した桶の設計図が。「口」(口径)、「丈」(高さ)の記載が読み取れる。これほどにも桶は生活に密着していたのだ

「底板は円型に見えるけど、実際は卵型。側面の板からかかる圧力を受けて、きれいな円になるように計算しとるんや」。細かな年輪を刻んだ底板の横面(木口)は、「底回し」と呼ばれる特殊なカンナで削る。続いて用いるのは、台がなく、槍の穂先に似た独特な槍ガンナ。あらかじめ溝を彫っておいた桶に、水を塗って滑らせつつ、木槌を使って巧みに追い込んでいく。底板が見事にはまると、木槌をたたく音が変わる。「さっきよりやわらかい音になったやろ」と、服部さんは表情を和らげた。

仕事場には、数十本のカンナ、桶の側板を削ってアールを出す銑(せん)、各種ノコギリがずらり。手水桶は、短く見積もっても40年は使っているという。桶は顧客のオーダー次第のため、商品はほとんど並んでいない
特殊な形状のカンナ「底回し」を使って、底板を調整。毎朝、超精密に研ぎ上げるという鋭利な刃物を使用するだけに、サンドペーパーは不要。ペーパーは木の繊維を荒らしてしまうため、かえって傷みやすくなるそうだ

竹からこだわり生み出される本物の桶

桶職人にとって最大の難関となるのは、桶を支える竹製の「タガ」づくり。竹を削って細くするだけなら、ある程度習熟すれば誰にでもできる。一見すると簡単そうな作業にこそ、桶職人ならではのこだわりが詰め込まれている。

「タガを作れない桶屋は、まねごとや」といい切る服部さん
絶妙な手さばきで桶の寸法通りに編み込んだタガは、大人の力でも動かないほどに締め込む。木槌はカンナで削り上げた桶表面を傷つけないよう、角を落としてある

服部さんは、自ら管理する竹林でマダケを切り出しているという。「竹は、年に6回ある八専(暦の上で、吉凶が増幅するという日)のうち、11月の八専が終わってすぐのマダケに限る。12月は水を吸い始めるから、すぐに虫が湧いてしまうんや」

7尺強(約212センチ)の寸法に切り分けた竹は、断面が三角形になるように削る。桶の寸法に合わせて丸く編み込んだ時、凹凸を少なくするための工夫だ。編み込みの手際の美しさに、思わず見とれてしまう。

桶の最下部に入れるタガは、一番締まりがきつく、はめ込みにくい。職人泣かせの難しさゆえに「泣き輪」と呼ばれている。すでに4本のタガをはめ込んである。「泣き輪」を省いてもよさそうなものだが、服部さんは首を横に振った。このタガが、桶の質を決める。そこには、常に本物の桶を志す、桶職人の決して曲げられぬ心意気があった。

全身を駆使して最後のタガ「泣き輪」を締める服部さん。もっとも難しいというこの工程には熟練の技が必要。職人の表情にも気合がこもる

近年は、伝統技術を新しい商品に活用することも多い。しかし、服部さんは桶づくりにこだわる。「桶には桶の決まりがあって、別の商品には、その道のプロがいる。そういうものには携わらない代わりに、桶に関する仕事ならどんなものも断らん」。まっすぐに職人街道を歩んできた手練れのひと言には、ずっしりとした重みがある。

先代から学んだ技法をもとに、顧客の求める桶をつくり続け、ただ一心に自然の温もりを伝える。誰にも真似のできない生真面目さと、長い年月をかけて築き上げた確かな技能があるからこそ自信に満ちた笑顔に、魅せられる。

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中広

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