精神科医が551蓬莱の行列に並ぶのも悪くないと感じた理由

精神科医が551蓬莱の行列に並ぶのも悪くないと感じた理由

2019/11/01

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

曖昧さに耐えるということは大切なキーワードです

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

話をする、ということと向き合うために、飛騨高山と大阪に行きました。そこで得たのは「曖昧さに耐える」ということの大切さ。これが、大阪からの帰り、551蓬莱の行列に並ぶのに役立った気がしました。今回はそんな話です。

  

【目次】
1. 飛騨高山から551蓬莱まで
2. 曖昧さに耐えるということ


1. 飛騨高山から551蓬莱まで

・初めての飛騨高山

人生で初めて飛騨高山に行きました。

  

高山にある「ひるねこ」という就労継続支援B型事業所のイベントに招いて頂いたのです。

就労継続支援事業所というのは、何かしらの理由で一般的な就労をすることが難しい状況の人が通い、日中の作業などをして生活の糧を得たり、居場所にしたりするところです。

A型とB型があり、A型の方が作業や通所日程がハード、B型はA型と比べて、利用する人のペースで続けられるようになっています。

「ひるねこ」は、寄付された布をほぐして、そこからものづくりをするなどの作業が日々されていたり、疲れたらじっくり話をしたり、休んだりできるところです。

ゆったりしたペースで生活する人の居場所になっています。

  

僕が招かれたイベントは、お話の会でした。

会場は、高山にある寺の本堂。

広い本堂にテーブルを並べて、

「コミュニケーション」

「生きづらさ」

「普通ってなに?」

「ジェンダー」


の4つの場所がつくられていました。

参加者は恐らく30〜40人程度。
それぞれのテーブルを行き来して、話したいことを話したり聞いたりします。

  

・分かれて話した後は

4つのテーブルでしばらく話をして盛り上がった後は、休憩を挟んで全体の振り返りや、さらに話を深める時間。

全員が輪になって、なんとなく話し始めます。

僕は、その話のきっかけになるような話をする役で、4つのテーブルを回って思ったことや、普段の自分の仕事で感じていることなどをザザーっと話しました。

この時間の後には皆で歌うという時間があったため、いくつか打楽器が置かれていたのですが、その中にワニの形をしたギロという打楽器がありました。

ワニのちょうど背びれのような部分を棒で撫でて音を出す仕組みです。

・輪になって、ワニ持って

そのワニを回しながら、ワニを持っている人が話し、ワニを持っていない人は話を聞くという形が自然に出来上がりました。

  

まさに、
輪になって、ワニ持って
スタイルです。

話の内容は、それぞれが思ったこと。

簡単に答えが出るような話題ではないため、きっと一人で考えているとモヤモヤしてしまうような内容ですが、そのモヤモヤとした曖昧な状態をみんなで共有することで、曖昧さに耐えるということができたと思います。

  

・翌日は大阪へ

イベントが終わり、とても素敵なひるねこのスタッフさんたちとたくさん酒を飲んで、朝イチで大阪に向かいました。

  
  

大学の同級生が、「もしバナ」ゲームというカードゲームを使って、もしもの時の話をするという活動をしています。

  

もしもの時というのはつまり、縁起でもない話なわけですが、もしも余命半年〜1年と言われたとしたら、自分はどんなことを考えるのだろう、ということを、カードゲームで深めるワークショップです。

4人1組になってそのゲームをするのですが、なかなか自分がどう考えるかなんて決められません。

それは、1つ理由はこれがゲームであって、現実の話ではないからだと思いますが、もう1つ大きいのは、人間には色々な言葉にならない考えがあって、なかなか大事なことが決められないのが本当のところ、ということだと思います。

このワークショップの見学をして、これもまた、自分の考えがはっきりするまでの間、曖昧さに耐えるということだなぁ、と思いました。

  

・豚まんが食べたい

ワークショップが終わり新大阪駅。事前に友人から頼まれたミッションとして

551蓬莱の豚まんを買って帰る

  

というのがありました。

店舗は新幹線の駅の近くにある、とワークショップの会場で聞いたので、探したところ、

アルデ

という場所に行列ができていました。

  

「アルデ」って、絶対、ここに「あるで」やん!駄洒落やん!

心でツッコミを入れながら、行列に並ぶか迷います。

・行列に並ぶこと以外することがない

行列に並ぶ時って、携帯みたりするわけですが、あとどれくらいだろう、とか、列進まないな、とか気になって、結局何もできないまま時間が過ぎるような気がします。

  
  

つまり、曖昧な時間を過ごすことになるわけです。

これまで僕は、行列に並ぶのが好きではありませんでした。というか、今でも好きではありません。

ただ、2日間、曖昧さに耐える、ということの良さを体感していただけに、なんとなく、行列に並ぶという曖昧な時間を過ごしても良いのではないか、と考えました。

  

・551おばちゃんのアドバイス

それにしても結構長い……。

  

曖昧さ、曖昧さ、と思いながら並んでいると、551のおばちゃん店員が

「新幹線に乗る? あったかいのじゃなくてチルドでいい? それでいいなら、新幹線の駅の中に店舗があって、そっちはレジが4つだからここより早いで」


といったことを教えてくれました。「早いで」と言ったかどうかは、曖昧ですが。

そのアドバイスに従って、早速駅構内に。

そして、見つけました、551!

キャァ!!

超並んでる!!

  

さっきの倍以上の行列がズドーンと目に飛び込んできました。列を整理するおっちゃんの声も、もはや枯れています。かわいそう……。

・でも早い!

そのしゃがれた声に導かれて列に並びます。

いつまでかかるんだろう、とかなり不安でしたが、意外にもどんどん前に進みます。

それもそのはず。

そこはおばちゃんの言った通り、メニューがチルドのみで、豚まん、シュウマイ、ちまきのみ。

そして、先ほどの「アルデ」にあった店舗はレジが1つだったのに対して、

  

構内の店舗はレジが4つ。

  

この2つの条件で単純計算すれば、4倍以上の行列をさばけることになります。

無事、曖昧さにも耐え、豚まんを手に入れ、帰って美味しくて、一件落着。

  

2.曖昧さに耐えるということ

・人のことはなかなか分からない

「対話が大事」と色々なところで目にするようになりましたが、対話というのは実は簡単ではありません。

相手と自分は色々な部分で異なります。

  

話のペース、言葉使い、考えがまとまる時間、口から出まかせ具合、などたくさん違う部分があるのです。

そして、色々な話題において、これが自分の考えだ、と自分で気づくまでにも時間がかかります。

一つのことを考える時、なんとなくの答えに行き着くまでに、いくつもの考えが浮かんでくるのです。

  

その様子は目には見えないので、向き合う人が何を考えているか、頭の中でどんな考えが交錯しているのか、分かり切ることは恐らく無理です。

・話を聞く時

だから、話を聞く時、相手が口ごもったり、なかなか意見が出てこないような時でも、「要するにこういうことだよね」など聞いている側が焦って勝手に分かったような気になることは、何も良い結果を生みません。

相手には違和感が残るから、後で何かを付け足したくなるか、不満を抱いたままになることが多いし、自分は理解した気になっているかもしれないけど、その理解は相手からすれば正しくないのです。

これでは、極端な話、対話をする意味がなくなってしまいます。

・曖昧さに耐える

だから、なかなか答えが出ない曖昧な状況、不確実な状況に耐えることが必要なのです。

  

耐える、というと苦行のような感じがしますが、それが普段通りの状態と捉えることで、ある程度相手のペースに合わせられるようになります。

早さ、合理性が良しとされることがとても多い世の中ですが、そればかり追い求めていると、なんだか空虚になってしまうような気がします。

じっくり、曖昧な時間を過ごしてみるのも良いものですよ。

  


文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

星野概念(ほしのがいねん)

精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

権田直博(ごんだなおひろ)

画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

星野 概念 が最近書いた記事

おすすめのコンテンツ