犬養裕美子のお墨付き!アルザスの食を淡々と伝えて11年

犬養裕美子のお墨付き!アルザスの食を淡々と伝えて11年

2019/11/09

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第76回浅草橋「ジョンティ」

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

フランスの地方食文化が東京の下町になじんだ!

2009年5月、浅草橋から徒歩5分、周辺はまだ殺風景な問屋街が広がっていた。その一角にブルーの壁、黄色のひさしというカラフルな外観の「ジョンティ」がオープンした。「ジョンティ」とは、フランスとドイツの国境・アルザス地方で飲まれている郷土ワイン。

アルザスの家はどこもカラフル。下町・浅草橋の一角にアルザス色のレストランが登場。築100年以上の物件をリノベーション

オーナーの富田裕之氏は、フランスでも「特別食いしん坊」と言われるアルザス地方の料理とワインに出会い、独立するならアルザスの味を伝えようと決めていた。当時、ワインバーやワインレストランは数多くあったが、アルザス専門はここだけ。珍しいだけに注目も浴びたが、同時にそんなマニアックな店が成り立つのか、という声も多かった。

2015年にフランス・アルザスのワイン組合から頂いた「レジオン・ドヌール・アルザス シュバリエ」。アルザスのワインの普及に貢献した人物に与えられる

ところがアッと言う間に10年が経った。最初は富田氏と料理人2人でスタートしたが、今ではスタッフ総勢6名。人手が足りなくて困っている店が多いことを考えると、かなりの充実体制だ。だからこそ1、2階、合わせて28席が昼夜満席になってもスピーディなサービスが可能になっている。

右手間がオーナーの富田氏、右後ろ青葉一幸さん、左後から前に土屋弘太さん、石井啓介さん、手前・斉藤光シェフ

この店が薀蓄を好きなワインマニアの店ではなく、食いしん坊の店に成長したのは、レストランとしてサービスの基本がまもられているからではないだろうか。予約なしで来店した客にも素早く席を作る。声がかかれば「はい、伺います」と反応も適切。安い、美味しい、量がある料理も魅力だが、レストランとしてもっとも重要なサービスが徹底している。

シュークルート レギュラー2000円、ハーフ1200円。魚のシュークルートもある。キャベツの追加は100g500円

その一方でこの店のクオリティをお客がどれだけ解かっているかといえば、おそらく90%は理解していないと思う。「美味しいもの食べたいな〜と思った時行きたくなるのはなぜかおしゃれなフレンチではなくて、ここの素朴な料理」というのが大方の意見だろう。富田氏はアルザス色を徹底させてきたけれど、決して性急に押し付けることはない。気が付くとこの店にリピートする顧客が増えたのは、料理もワインにも富田氏ならではの味付けがなされているからに違いない。

黒板にはアルザスの郷土料理がズラリと並ぶ。10年間でメニューは増えるばかり。ここでアルザスに興味を持って、実際に現地に旅した人も

アルザス料理の代表といえばシュークルート。塩だけで発酵させたキャベツとソーセージや豚の塩づけなどの肉類を一緒に盛り合わせ、マスタードをつけて味わう豪快なひと皿だ。このキャベツの酢漬けの味でその店の個性が出ると言われる。

ビブレスカス。フレッシュクリームチーズのじゃが芋添え1300円。誰もが虜になる、チーズとじゃが芋もの組み合わせ

フランス現地でも業務用に仕込まれたシュークルートを使う店が多いが、富田氏はすべて店で仕込む。「うちのは酸味も塩味もマイルドに仕上げています。市販のものはどうしても塩と酢が強くて、日本人にはちょっとあいません」。同じように、どの料理も、塩、脂を控え目にしたあっさり味で食べやすいのは、富田氏の考えでレシピを決めているからだ

タルト・フランベ トラディショネル レギュラー1200円、ハーフ800円。小麦粉の生地の上に玉ねぎやベーコンをのせて焼くフランス版ピザ
グラス・オ・マール600円。デザートはすべて600円。アルザスの蒸留酒をたっぷり使ったスフレのアイス

また、ワインリストは他店とは全く違う、生産者別リストになっていて、ボトル4000~5000円の価格帯が充実している。「価格が安いからか、とにかくワインがよく出るんです。女性でも一人1本は飲んで行かれます」。

基本は白ワイン。なので、赤い印が赤ワインということ。作り手は40前後、ワインの種類は200種も揃う

どのテーブルにもワインがある。それでこそ、アルザスの食卓の風景なのだ。「これからも変わりなくやっていきますよ」という富田さん。変わらないように見えて、実はメニューも、お客も着実に増えている。「アルザスの味」を知りたければ、浅草橋へ!

左から。ローレンツのピノ・ノワール5800円、レフレのピノ・グリ5500円、店名にもなっているヒューゲルのジョンティ3800円、ローヴのリースリング5800円

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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