「大衆酒場の楽しみ方」<br />
酒場詩人・吉田類さんインタビュー

特集

「吉田類の酒場放浪記」人気の秘密を徹底解剖

2016/03/15

「大衆酒場の楽しみ方」
酒場詩人・吉田類さんインタビュー

毎週月曜日の夜9時から放送され、全国の愛飲家たちから「俺たちの月9」として支持されている、BS−TBSの人気番組「吉田類の酒場放浪記」。番組の収録やプライベートで全国の酒場を求めて旅を続ける酒場詩人・吉田類さんに大衆酒場の楽しみ方や番組への想いについて話を聞いた。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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「大衆酒場」の定義とは?

今回の吉田類さんへのインタビューは浜松町にある「秋田屋」にておこなった(店舗データは下記参照)

――「大衆酒場」という言葉は「酒場放浪記」を見て知った方も多いと思うんですが、そもそも「大衆酒場」とはどんな定義なんでしょうか? 

東京の下町に行けばお店の看板などでいたるところに「大衆酒場」と書いてあるのに、少し前まではそのことを誰も認識していなかったんです。昔はみんなまとめて「居酒屋」と言ってましたよね。

居酒屋はテーブル席に座って仲間内で飲むというスタイル。個室で飲むという楽しみ方もある。一方、大衆酒場の特徴はコの字カウンター。お客さん同士みんな顔が見える。ある意味異質な酒場文化。ひとことで言うと、大衆酒場は飲食店でありながら、他の人たちとの交流を前提としているんですね。


大衆酒場との出会い

——そもそも、大衆酒場の成り立ちとはどういうものだったんでしょうか?

大衆酒場とは東京の下町で生まれたものです。戦後の復興期、首都の再建のために主に東北の人たちが単身赴任や集団就職などで東京に来られたんですね。当時そういう人たちの住む場所はみんな下町だった。

復興が進むにつれ、下町エリアに人口がどんどん増えていった。江戸城の東側あたり、いまで言うところの城東エリア(葛飾区、墨田区、江東区、江戸川区、台東区)に東北の人たちが集まったわけなんです。単身者が多いから、食事を楽しんだり、故郷を懐かしむ場所が必要だった。そこから生まれたのが大衆酒場なんですね。

——つまり、大衆酒場を営まれているのは東北出身の方が多いわけですか?

圧倒的に多いです。関東の北の方の県も含めて。東京よりも北側の出身の人たちが多数を占めます。とても真面目で我慢強い人が多くて、そういう人たちが首都の復興を支えた人たちです。

——類さんと大衆酒場との出合いはいつ頃から?

僕が東京に出てきて「大衆酒場」を珍しいと思ったのはいまから30年ほど前。「これはいったいなんなんだろう?」と。それから下町文化に興味を持つようになって、下町を歩いてルポを書き始めたんです。イラストを描いて文章を添えて。こんな面白い場所ってほかのどこにもないって。

——大衆酒場は全国にあるんですか?

基本的にはないです。先ほど話した通り、戦後の復興期に生まれた東京のスタイルが手本です。だから東京を知らないところは大衆酒場とは言わないです。あくまで東京のオリジナルですね。

常に自然体なところも類さんが人気の秘密

吉田類さん流
大衆酒場の楽しみ方

——「酒場放浪記」を観ている方で、「類さんのように大衆酒場を楽しみたい」という人は多いと思います。初心者向けに大衆酒場の楽しみ方を教えていただけますか?

まずは食べ物でいうと、わかりやすいのはモツ煮込みポテトサラダ。この2品はたいていどの店にもあって、いわば大衆酒場の定番。注文すればパッと出てくるし、お店の味の個性はこれで判断できます。

お酒はその店ならではのお酒を頼むといいですね。ここ(取材で訪れた「秋田屋」)では「『高清水』を熱燗でちょっとちょうだい」という風に。

そして大衆酒場には基本的にはカウンターがある。カウンターがないと一人客が入れないから。なので、一人で行ってカウンターに座ってみるといいですね。

カウンターから見える大きな煮込みが入った鍋は大衆酒場の名物(写真は「秋田屋」)

大衆酒場は
一人で行った方が楽しい

——番組の中で毎回類さんはご常連と楽しくやりとりされていますが、どうすればわれわれもお店の方や常連さんと楽しく会話できるようになるんでしょうか?

それはね、やっぱりお店に入るときは笑顔で入らないとダメですよね。黙ってぶすっとしてお店に入ったら「税務署の人間かな?」とか思われちゃうでしょう(笑)。常連さんが隣の席にいたら「何がおすすめなんですか?」と尋ねるといいですよね。
 
それで目の前に店主が来たら「今日は初めてなんですよ」と正直に言えば、みんな喜びます。常連さんなんかはおすすめを尋ねられたりしたら「俺、頼られてるんだな」ってうれしくなるわけです。「この人は初心者だな」と思うと、みんなで守ってやらなきゃって思いますよね。なので、こちら側は謙虚に「今日は初めてなんです。よろしくお願いします」という風な態度でお店に行くといいですね。

大衆酒場は一人で行った方が大切にされます。一人で行くことがむしろ楽しい。人の優しさや愛情を感じられるから。

「初めての酒場を訪れる際は笑顔で入ること」と類さん

酒場で人生の短期留学ができる

——大衆酒場っていろんな勉強ができる場所なんですね。

人と人との縁、初めての縁というのがそこで始まる。そういう体験ができる場所はなかなかない。酒場に出入りしたら、人間の対応の仕方がわかるようになる。酒場は人間力が試される場所であると同時に、磨かれる場所なんです。酒場にいる人たちが守ってくれるし、鍛えてくれる。大衆酒場に行けば「人生の短期留学」ができる。
居酒屋に行って個室に入ってしまうと、そういう冒険はないわけですよ。もちろん、居酒屋は居酒屋の楽しみ方もありますが。


俳人・吉田類流
酒場俳句の作り方

——「酒場放浪記」を見る際の楽しみのひとつに、類さんが毎回詠まれる酒場俳句があります。あれはどういうきっかけで生まれたんですか?

日本人には平安時代から歌を詠むという優雅な文化がありました。現代人は平安の世のように歌を詠む時間はないけれど、俳句なら詠めるんじゃないかと。
俳句はある意味瞬発力というか、閃き、そういうもので表現できる文学。だから飲みの席にはぴったりじゃないかと思ったわけです。

俳句そのものは子供の頃から親しんでいたので、酒場に行くたびに一句詠むことを恒例にしたら面白いんじゃないかなって。

——これから酒場俳句に挑戦してみたいという人にアドバイスはありますか?

「あの酒場で自分は何に感動したんだろう」と記憶のアルバムを開いて、それをもとに降りてきたものから考えるということが正解じゃないかと思います。自分が感動したことを詠む。そして、初めは俳句というよりも川柳で考えた方がいい。

——川柳ということは、つまり最初は季語を意識しなくてもいいというわけですね。

そう。最初は自分が酒場で面白いなと思ったことを五七五の調べで詠めばいいです。まずは川柳で表現することに親しんで、それから季語を勉強して俳句にしていけばいい。酒場に行く際に小さな手帳を持参して、五七五でメモるだけで自分が何に感動したのかが心に残ります。飲み方もその方がセンスのいい飲み方になっていくと思います。

取材中、類さんの姿を見かけた人たちから記念撮影を求められる

「酒場放浪記」を通して
伝えたいこと

——全国の酒場を訪ね歩いた、類さんだからこそ感じられたことがあるんじゃないかと思うんです。

よく「東京にはもう人情なんかない」と言う人がいます。でも、そんなことはない。どんなに街が発展しようが、そこには店主がいて、常連たちがいる。「人情がない」なんて言えないですよ。人間は情もなく無機的な場所には住めない。どんなに近代的になろうとも、人情というものがあるからやっていけるんですよ。僕はそこが大事だっていうことを、これからも「酒場放浪記」を通してみなさんに伝えていきたいです。

吉田類/高知県出身。酒場詩人。日本各地で酒場や旅をテーマに講演する他、新聞、雑誌にエッセイを連載。4月からはNHKラジオ深夜便『ないとガイド~酒で綴るにっぽんの旅』(月1回放送)が始まる

今回の取材で吉田類さんと訪れたお店

秋田屋

開店前から多くの人が訪れる人気店

JR浜松町駅から徒歩約2分、昭和4年創業の東京を代表する老舗酒場のひとつで、もつ焼きが自慢。連日開店前から行列ができる人気店。ひとり1串限定の肉だんご「たたき」のファンも多い。

「大衆酒場は経営者もお客さんも東北出身の方が多い。例えば、「秋田屋」は初代店主が秋田県出身で、お客さんも秋田県出身の人が多かった。ここにくれば秋田のお酒が楽しめるし、店内では秋田の方言が聞こえてくる。故郷への懐かしさや、自分たちの守ってきた伝統というか、そういうものに出会る場所なんですね。それが大衆酒場なんです」(吉田類)

にこみどうふ(500円・税別)、生ビール(中・550円・税別)
ひとり1串限りの肉だんご「たたき」(220円・税別)はこちらの名物

秋田屋

住所:港区浜松町2-1-2
電話:03-3432-0020
営業時間:月〜金曜15:30〜21:30、土曜15:30〜20:30
定休日:日曜、祝日、第3土曜日

※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

「吉田類の酒場放浪記」 

「吉田類の酒場放浪記」 

BS−TBSにて毎週月曜21:00より放送

酒場詩人・吉田類が東京エリアを中心に全国各地の酒場を訪ね、その魅力を紹介する。2003年9月のスタート以来、愛飲家のみならず多くの層に支持されている。

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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