ロシア横断! 9800kmを移動しながら造った世界初の日本酒

ロシア横断! 9800kmを移動しながら造った世界初の日本酒

2019/11/29

幻の店とも称される「クロッサムモリタ」のオーナーシェフ・森田隼人さんによる、新たな挑戦。それは日本〜モスクワを移動しながら、日本酒を醸造するという奇想天外なものだった。約1万1500キロもの距離を経て誕生した、たった24本の日本酒の物語をお楽しみください。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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世界初! ロシアで生まれた「旅する日本酒」とは?

知る人ぞ知る、神田の立ち食い焼肉店「六花界(ろっかかい)」(※住所は記事最下部に掲載)をはじめ、幻の店とも称される「クロッサムモリタ」を手がけるシェフ・森田隼人さん。無限に溢(あふ)れだすアイデアでさまざまなサプライズを届けてきた彼が、またまた動き出した。

ウラジオストク〜モスクワという、約9800kmの距離を軽トラで移動しながら、荷台に積んだタンクの中で日本酒を醸造するという試み!
本企画は森田シェフがプロデュースする酒蔵と人を繋ぐプロジェクト「SAKE EXPERIENCE(酒エクスペリエンス)」の第3弾。日本〜ロシア・ウラジオストク〜日本酒ができるまでの120日間を振り返ろう

その新たな試みは、日本〜モスクワを軽トラックで移動しながら、荷台に積んだタンクの中で日本酒を醸造するという世界初の挑戦。その距離は、トータル約1万1500キロにもおよぶ。森田シェフいわく、ベースとなったのは「地球がテロワール(土壌)」という考え。「それをどこまで実現できるかな、というのがテーマでしたね」と話す。

冷凍冷蔵車のなかでも耐性力があるものを選定して購入後、東京を出発。酒蔵がある岩手を経由〜鳥取(境港)からフェリーに乗り〜韓国を経由〜ウラジオストクに入港、といったルートを旅した
モスクワで行われた日本酒お披露目会の様子(詳細は記事後半にて紹介)

\森田シェフの物語を読む前に/ロシア・ウラジオストクってどんなところ?

東京からの距離は、飛行機で約2時間半! 「日本から一番近いヨーロッパ」とも言われるロシア・ウラジオストクは、極東ロシアに位置する田舎町。モスクワとつながるシベリア鉄道の始点でもあり、レトロな街並やその手軽さから、近年は日本人の旅行先としても人気の町(ベストシーズンは4〜10月)だ。

世界初「地球を土壌にした日本酒」への挑戦

冒頭でも紹介した「六花界(ろっかかい)」を筆頭に、予約の取れない店として数多くのメディアに取り上げられる「クロッサムモリタ」など、それぞれコンセプトの違う6店舗を都内に構え、肉と日本酒の楽しみ方や可能性を日々提案し続けている森田隼人シェフ。

「地球がテロワールの日本酒を造りたかった」という思いから、今回のチャレンジは生まれた。

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「いま僕らは、地球の一部である小規模なところにに捕われすぎてしまっている。例えばワインなら、ロマネコンティで取れたブドウをサッシカイアを作っているイタリア・ボルゲリ地区に持っていっても、ロマネコンティともサッシカイアとも言わない。でも日本酒は、例えば兵庫県を代表する米・山田錦を使った日本酒なら、どこへ持っていっても地酒と呼ばれますよね。それはおもしろいな、と。そんな考えから、地球がテロワールの日本酒を作ろうと思いました」
森田シェフはなぜロシアで日本酒を造ろうとしたのか? これからお届けするのは、そこに至るまでの物語。12月には、今回醸造された“幻の日本酒”を飲めるYahoo!ライフマガジンとのコラボイベントも開催
森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「料理を楽しむときは、『食べもの』と『飲みもの』がセットになっているじゃないですか 。食べ物は『たなか畜産』の田中さんと開発した僕らオリジナルのブランド牛『もりたなか牛』を作ることができているけれど、飲み物ではそれができていなかった。つまり、誰かが作ったものを仕入れるしかなかったんですが、今回その壁を突破しましたね」

なんとも奇想天外なこの挑戦。そして森田シェフ、そもそもなぜロシアを選んだのでしょうか?

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「ギャラクシー(銀河系)規模で見ていくと、地球自体がもうテロワール(土壌)だよね、と。でも、場所はどこでもいいわけじゃなかった。地球をテロワールと考えるにあたって、まず2つの課題があったんです」

森田シェフが直面した2つの課題

1.移動は陸路であること
2.法律の問題

「陸路じゃないとテロワールじゃない」と車で走りながら日本酒を造った

1.移動は陸路であること

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「人の移動手段としては、陸、海、空がありますよね。でもやはり、陸路じゃないとテロワールとは言えないでしょう。なぜかと言えば、その土地の自然界にある酵母菌が入ってくれる環境じゃないと、ダメなんです。そしてそれを取り入れるためには工業地帯ではなく、できるだけ自然に近いところじゃなくてはいけない、というのが一つ目」

2.法律の問題

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「二つ目は法律です。世界のほとんどの国ではアルコール度数が1%に上がると酒造免許が必要なうえ、特定の場所でしか作れないという法律があります。その兼ね合いも含め、ありとあらゆる国を調べた結果、ロシアは自家醸造が認められているかつ、2011年までは法律でアルコール10%未満は清涼飲料水と同じとみなされていたという、おもしろい国なんです」

一般的な日本酒の醸造行程

念の為ざっくり説明すると、一般的な日本酒の醸造は下記の行程で行なわれる。

精米→洗米→浸漬→蒸米→麹造り<蒸米に麹の菌糸をふる>→酒母造り<米麹に蒸米と水を足し、酵母を育てる>→醪造り<酒母に麹米と蒸米と水を足し20〜30日かけて発酵をすすめる>→搾り→日本酒完成

森田シェフのたちの挑戦に、現地メディアも注目。さまざまに取材も入った
森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「さらに端から端(ウラジオストク〜モスクワ)までの距離約9800 km は、日本酒ができる時間と相性が良かった。シベリア鉄道での移動時間はだいたい12日〜15日。もろみをウラジオストクで発酵させたとすれば、二次調整の発酵までに15日かかるので、ちょうどモスクワに着いたタイミングでお酒が出来あがる。そんな背景もあったから、そこでお披露目パーティーをしたらおもしろいなと。こうしたストーリーが浮かびました」

旅する日本酒「トライリウム」

今回のチャレンジを経て誕生した旅する日本酒「トライリウム」。完成まで全120日、移動距離約1万1500km、総費用はなんと約1000万円! 決して容易ではないこの旅、途中さまざまなトラブルもあった。

旅の安全と無事の醸造を願って出雲大社を訪れた

はじめはシベリア鉄道での移動を考えていた森田シェフだが、自身が保有するタンクが大きすぎたため、鉄道に乗ることができないと判明! タンクが小さくても発酵にバラつきが出てしまうため、鉄道の冷蔵コンテナに積み込む案が出されたが、コンテナに出入りができないため、これも断念。

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「もう万事休すですよ。が、冷凍冷蔵車だったらいけるんじゃないかと思って。ロシアで買おうとしたんですけど、住民票がないと僕のものにならないから、日本で購入しました。大きい車は手続きが大変なので、750cc の軽トラックになったんですよ」
冷蔵庫を購入し荷台に積んだ軽トラを「とらべえ」と名付け、ウラジオストク〜モスクワまで32日間を走りきった

この車を森田シェフは「世界一小さな酒蔵」と呼ぶ。思わぬところから誕生したこの酒蔵だが、いったいどんな風に日本酒を作っていったのか。

移動しながらどうやって醸造したの?

「日本酒を作るすべての工程が、このトラックの中で行われていった。つまりのところ、世界最小の酒蔵ですね」と森田シェフ。法律の関係で、日本から持っていけた素材は米のみだという。

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「日本で米に麹菌を振り、麹を作りながらフェリーで搬送しました。ウラジオストクに着いた時に麹菌ができ上がっているというスケジュールを組み立てて」
「移動している間に麹菌がはぜて、ウラジオストクで麹菌がふわっと浮き上がるようなイメージです。水はウラジオストクの水。70リットル入れて、温度管理をしながら発酵がスタートします」(森田シェフ)
森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「つまり現地に着いたらすぐ、(トラックの中で)酒蔵を作らなきゃいけないんですね。ちなみにロープやビニール手袋などはすべて現地調達なので、3日ほどウラジオストク中を回って買い出しをしました。そろったらマンションの一室を借りて、車の中や全てのものをを熱消毒。最後に出雲の神様の方向を向いて祈り、酒蔵としてのスタートを切りました」
旅は出発日から数えて、トータル120日。13名のメンバーで世界初の試みに挑んだ。「水と麹、酵母、少量の乳酸を入れ、発酵する可能性を信じ、醸造をはじめていきました」(森田シェフ)

「旅する日本酒」ができるまで

<第一発酵(並行複発酵)>

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「まずは米を糖分に、それがアルコールに変わるというサイクルを繰り返します。赤ちゃんに例えると、歩けるようになるまで育ててあげるイメージですね。 期間は10日ほどで、その間に何かがあってはいけないから、車でウラジオストク市内を走り、動き回っているという感じでした」

<発酵が落ち着いたら9800 kmの旅へ>

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「アルコール度数が上がる準備ができたら、温度を管理しながら9800 kmの道のりを出発。運転を交代しながら、人類史上&世界ではじめて地球の約1/4の距離を移動しながらの日本酒造りがスタートしました」
ウラジオストクを出発! 日本から数えるとモスクワまで約1万1500 kmの移動 。「向こうは昼は庫内の温度が急激に上がる。夜とは温度差が昼間と20℃くらいあるので、温度管理が大変でした」と森田シェフ

「あくまでも冷気は外気から取り込むので、できるだけ排気ガスが少ない、綺麗なところを走りました。でも道路がでこぼこで走りづらい。モグラが掘ったように穴が空いていて、真っ直ぐ走れないんですよ」と、道中ではさまざまな苦労があったという。

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「日本酒を醸造するうえでとても大事な『櫂入れ(かいいれ)』(酒母やもろみをかきまぜる行程)という作業をしない代わりに、タンクに酸素を触れさせないことが必要でした。発酵するとアルコール度数が上がり、液面からフタまでの間が二酸化炭素でフタがされるんですね。しかし車の揺れで酸素が入ると酸化する可能性がある。なので、いかに二酸化炭素が出ないように走るかが重要でした」
ロシアの国道沿いの風景
ソビエト連邦の初代指導者、レーニン像の前で撮影「少し大きめの街に行くと必ずレーニン像があるんですよ(笑)。この街のレーニンはインパクト強!」(森田シェフ)
「ロシアでは食の物価が安い! スーパーで売っていた丸鶏グリルは長旅のご馳走でした」(森田シェフ)
ロシアとモンゴルの文化が入り混じる地区にて出会った仏像職人。写真の仏像は彼が5年かけて創り上げている
「現地でパーティーをする日程が決まっていたので、それに間に合うスケジュール管理も大変で。 32日間、ホテルには1日も泊まっていません。車中泊で交代しながら車を走らせ続けました」(森田シェフ)

再びトラブル勃発

森田シェフ率いるメンバーは発酵タンクを積んだ、世界一小さな酒蔵「とらべえ」とそれに帯同するレンタカーの2台で旅を続けた。

今回のチャレンジを一緒に過ごしたメンバーと夕食。ほっとするひととき

するとその途中、ゴールのモスクワまで残り1800kmというところで、またしてもトラブルが起こる。

「走行中、ガシャポンガシャポン音がするな〜と思ったら、エンジンがかからなくなって止まっちゃったんです」と森田シェフ。

世界一小さな酒蔵としてロシアを旅した「とらべえ」にトラブルが!
森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「朝の5時に山の中腹で止まっちゃって、電波も弱いなか、なんとか日本のロシア大使館に連絡をして、 現地の村・クルガンから人が助けにきてくださいました。本当に感謝しかありません。部品が壊れていたんですが、日本製なのでロシアでは手に入らない。エンジンオイルも尽きて、移動もできず。その時点で残り6日でした」
壊れて動かなくなった「とらベえ」を現地の人たちが助けてくれた
「この時点で、もろみを日本酒と酒粕に分ける『搾り』をしなければいけなかった。タクシーで移動、シベリア鉄道に乗る(満席で断念)などさまざまな案が出たものの、すべてダメで」(森田シェフ)
クルガンの自動車工場にて。彼の左手にある部品を直したことで「とらべえ」が復活! 「このトラブルの際は本当にロシア大使館の方にお世話になりました」(森田シェフ)
現地の村で出会った人たちと。「ロシア人は寡黙そうに見えて、愛情深くて世話好きの方が多く、我々のためにこんなにも多くの方に迎え入れていただきました」(森田シェフ)

結果、市役所の方が冷凍冷蔵車を手配してくれ、再びモスクワへ向かった森田シェフ一行。ぎりぎりのタイミングでモスクワに到着し、スタンバイしていたスタッフと「搾り」の作業に取りかかった。

透明な日本酒になるよう、シーツを幾重にも重ねしぼっているところ
醪が日本酒に生まれ変わる瞬間。自重でポタポタと滴り落ちる雫一滴一滴
森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「最後の甘みの発酵が欲しかったから、到着してから温度を上げて、最終的に出来上がったのはイベント当日の朝でした。瓶を現地で購入し、煮沸消毒をして生酒を入れるんですが、今度は火入れをしなければいけなくて。もう酒蔵で行なうことをすべてそこでやってきました。みんな寝ずに、4日間ほど徹夜でしたね」

24本の日本酒が完成

出来上がったお酒には特別な思い入れが。たくさんの人に支えられてついに旅する日本酒が完成!

もともとは「一升瓶20本分ほどの量を取れたら」と話していたそうだが、結果は米がよく溶けてくれてよい甘みが出たうえに、トータル24本分もの”旅する日本酒”「トライリウム」ができたという。

ロシアのメディアも注目したイベントの全貌

車の故障により到着が遅れたため、急遽その日オープンだったレストラン「IZUMI」がパーティー会場に。パーティーでは、ロシアの郷土料理であるボルシチやビーフストロガノフをはじめ、森田シェフ自慢の肉料理と、完成したばかりの日本酒「トライリウム」がふるまわれた。

モスクワでも「肉と日本酒」のペアリングを!
森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「日本とロシアの方が共同経営しているお店だったんですが、すごく親身になってくださって。今回の旅を理解してくれ、現地の取材陣も呼んでくれることになりました」
約9800kmの移動を経て出来上がった日本酒「トライリウム」を自らサーブ
美味しいお酒にお料理でとても盛り上がりました!

「製麺機を借りて肉うどんも作りました。麺がプリプリしていておいしいと、評判良かったですね。ロシア料理にも日本酒って合うんですよ」と森田シェフは笑う。

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「料理はこの旅のストーリーが乗っかるように、ロシアの料理に和のテイストを融合させました。ボルシチには昆布のダシを入れたり、ビーフストロガノフには絞った酒粕を加えたり。ビーフストロガノフは、香りがすごく良かったな」
モスクワでのパーティで肉寿司を披露する森田シェフ
「日本食に喜んでくださったのと、日本酒を飲んで『今まで私たちが飲んだ数少ない日本酒とも違う。ロシアの文化が中に入ったお酒だと思うと感動しました』と言っていただいて嬉しかったですね」(森田シェフ)

長い道のりとロシアの人々との交流、さまざまな経験を経て、世界初であるロシアメイドの日本酒「トライリウム」はできあがった。森田シェフの食と日本酒へのあくなき想いは、まだまだ溢れ出す。次はどんなエクスペリエンスを届けてくれるのだろうか。

【旅する日本酒が飲める!】12月、世界に24本だけの日本酒が飲めるイベントを開催!

「こうした事例が今までなかったのでリーガル的にクリアしなきゃいけないことはいろいろあったんですが、最終的に税関で申告をし、残りの日本酒を日本に持って帰ってくることができました」と、森田シェフもしみじみ。

その旅する日本酒「トライリウム」を飲むチャンスはあるんでしょうか? 森田シェフ!

森田隼人シェフ
森田隼人シェフ
「せっかくなので、日本のみなさんにもぜひ飲んでいただきたいですね。『クロッサムエキスポ with Yahoo!ライフマガジン』と題して、12月23日(月)、24日(火)の2日間、トータル20名限定のイベントを開催しようと思います!」

「今回の旅をすべて味わえるように、映像を見ていただいたり、プロジェクトチーム『トライリウム』のスタッフとタッグを組んで今年完成した『クロッサムモリタ 醗酵ラボ』にもご案内します。量が限られ申し訳ないですが、『トライリウム』はお一人90ml飲んでいただけます」と森田シェフ。

イベントは12月23日(月)・24日(火)に開催が決定(詳細&申し込みは記事の最後に)! いまだかつてない、さまざまなストーリーが込められた一杯。年の瀬にぜひ、この日だけの特別な時間を味わってほしい。

■イベント詳細
クロッサムエキスポ with Yahoo!ライフマガジン
開催日:12月23日(月)・24日(火)各18:00〜
会場:クロッサムモリタ(東京都内。場所の詳細は参加者のみに通知)
参加費:5万円(税別、飲み物代込み)
人数:各日10名(計20名)

お申し込みはこちらから!

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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