すきやばし次郎・小野二郎と山本益博が語る「本物のお鮨とは」

すきやばし次郎・小野二郎と山本益博が語る「本物のお鮨とは」

2019/12/19

11月6日(水)、料理評論家の山本益博さんが主宰する「Masuhiro Juk -未来への教室-」が開催されました。第2回は「すきやばし次郎本店」の鮨(すし)職人・小野二郎さんからお鮨を学ぶ会。そのイベントの様子をお届けします。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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料理人や職人から料理哲学を学ぶ小さな塾「Masuhiro Juk」

今回は、東京・西麻布にあるレストラン「エネコ東京」で開催された

料理評論家の山本益博さんが主宰する「Masuhiro Juk」は、料理人や職人から料理哲学を学ぶ小さな塾。哲学といっても、高尚な学問というよりは、生活的教養に近く、彼らから、料理に対する情熱、信念、使命感をうかがうもの。優れた同時代人から生きるヒントをいただく「未来への教室」でもあります。

第2回は、「いまだ、鮨の夢を見る」と題して、「すきやばし次郎」の鮨職人・小野二郎さんと山本益博さんがお鮨について語ります。

Vol.2 いまだ、鮨の夢を見る

二郎さんと益博さんの話を聞くために約80名が集まった

\お鮨について語るのはこちらのお二人/

山本益博(やまもとますひろ)

山本益博(やまもとますひろ)

料理評論家

小野二郎(おのじろう)

小野二郎(おのじろう)

鮨職人

お二人のトークが始まる前に、益博さんが二郎さんとの出会いについて語りました。

「すきやばし次郎」を初めて訪れた時はお金がなく、6つしか食べることができなかったという益博さん
益博さん
益博さん
「私が初めて『すきやばし次郎』に行った時、二郎さんはお鮨を握ってくださいませんでした。二郎さんがしてくださったのはお勘定だけ。2回目にお店に行った時も二郎さんは握ってくださらなくて、お会計の時に『今度来た時は二郎さんが握ったお鮨が食べたいです』と言ったんです。それで、3回目に訪れた時に初めて二郎さんにお鮨を握ってもらいました。後々聞いたら、私のことを鮨職人が味見をしに来ていると思っていたそうです(笑)」

いつ訪れても行列ができているという「すきやばし次郎」。益博さんは、人が少なくなる時間帯を狙い、閉店の5分前に店を訪れていたそうです。

益博さん
益博さん
「1925年(大正14年)生まれで、10月27日に94歳を迎えられた二郎さんですが、こうして大勢のみなさんの前でお話をされる機会はなかなかありません。今回、二郎さんのお話を聞いたらきっとお鮨を食べたくなるはずです」

それでは、二郎さんと益博さんの鮨トーク、スタート!

小野二郎が追求したおいしいお鮨

二郎さんは、おいしいお鮨を提供するために60年以上にわたって試行錯誤を繰り返してきたという
益博さん
益博さん
「江戸前鮨の代表というと、あかみ(まぐろ)、こはだ、あなごですね。まぐろはただ買ってくるだけだと思っている人もいるかもしれませんが、食べごろを見極めるのが難しいんですよね?」
二郎さん
二郎さん
「まぐろによって味が違うから、土台のシャリも変えなければならないんです。私のお店のシャリは人肌で握っています。普通の家庭で刺身を食べる時は、米を炊いて、温かいご飯で食べますよね。でもそれが鮨になるとご飯が冷たくなる、鮨屋に行ったら温かいご飯が食べられないっておかしな話でしょ?」
益博さん
益博さん
「でも、ご飯がアツアツでは握れませんよね?」
二郎さん
二郎さん
「アツアツのご飯では鮨がおいしくないから、人肌にして鮨ダネに合うシャリにしています。私はそのほうがおいしいと思ってそうしています」
益博さん
益博さん
「数年前、開店前に二郎さんを訪ねて行ったことがありました。話をしている途中で二郎さんが立ち上がって、調理場に入ってしばらくして戻ってきました。何をされているか尋ねたら、『だんだん肌寒くなってきたから、夏の鮨飯の酢の量を減らしたらいいのかなと思って…夢に見たんだよ。次から酢の量を減らさないと』とおっしゃったのを覚えています」
二郎さん
二郎さん
「そういうのは絶えず頭の中に入っていますから、布団で寝転がっていても常に鮨のことを考えているんです」
益博さん
益博さん
「24時間、お鮨のことを考えてらっしゃるということですか?」
二郎さん
二郎さん
「そうでもないとは思いますけど、他に考えることがないのでしょうね(笑)」
益博さん
益博さん
「今でもお鮨を握る夢を見ることはありますか?」
二郎さん
二郎さん
「今はもう鮨を握る夢は見なくなりました。60年以上鮨屋をしていて、頭の中で考えていることは現実でできていますからね」

東京で一番歴史ある魚は「こはだ」

二郎さんが取り上げられたドキュメンタリー映画も放映された
益博さん
益博さん
「あかみ、こはだ、あなごのうち、東京のお鮨で一番古いのはこはだと言われています。今から200年ほど前に華屋与兵衛さんという方がこはだを見つけました。こはだのお鮨が見つかって200年、二郎さんの人生は94歳。こはだの半分くらい生きてらっしゃるということになりますね」
二郎さん
二郎さん
「こはだは歴史がある魚だけど、鮨以外に使い道のない魚。他に何をしてもおいしくないんですよ」
益博さん
益博さん
「相当前のことですが、二郎さんのお店で、酢締めしたこはだを全部捨てちゃったのを見たことがありました」
二郎さん
二郎さん
「油臭かったから。魚の脂ではなくて、機械の油の臭いがしたんです」
益博さん
益博さん
「締めた後でないとわからないのですか?」
二郎さん
二郎さん
「こはだは生じゃ食べられないからね。だから酢締めが終わった後に試しに食べてみるんだけど、その時に油臭いと感じてお客さんには出せないと思ったんです。1つ食べるだけのお客さんならそれくらいわかんないでしょって言う人もいたし、そんなことやってたら店がつぶれちゃいますよって言われたこともありました(笑)」
益博さん
益博さん
「ハハハ。台湾の方がお店にいらした時、二郎さんが最も大切にしている鮨ダネはなんですか?と聞かれて『こはだ』と答えていました。二郎さんが一番好きなお鮨はなんですか?と聞いたら『こはだ』とおっしゃっていました。二郎さんは子どもの頃からこはだが好きだったんですか?」
二郎さん
二郎さん
「そうですね」
益博さん
益博さん
「でも、生臭いのに一度あたった人は食べられなくなっちゃいますよね」

あなご嫌いの美空ひばりさんも唸った鮨

自信があるものしかお客さんに出さない。それが二郎さんの職人哲学
二郎さん
二郎さん
「そうなんですよね。だから私は言うんですよ。『他の店で出たものがおいしくなかったからダメじゃなくて、食べてみなきゃわかんないでしょ』って。それが一番顕著だったのが美空ひばりさんです。あなごをよそで食べておいしくなかったから食べたくないって言うから、騙されたと思って食べてみなさいと言ったんです。それでも嫌だって言うから、半分だけ切って渡しました。もしダメなら俺の手の上に出せって言ったんですよ。そしたら、もう1個ちょうだいって言ったんです(笑)。店によって味が違うんだから、1回食べてダメだからって全部食べたくないって言うんじゃなくて、どこの店がいいか自分で食べてみてほしいんですよ」
益博さん
益博さん
「その後、ひばりさんがいらした時に、いきなり『あなごを3ついただくわ』と言ってましたね」
二郎さん
二郎さん
「あなごから食べたいと言い出してね。実は、亡くなる前に入院した時にあなごを食べたいと言ってうちの店に取りに来たんですよ。だから、ひばりさんはうちのあなごを食べて死んでますよ(笑)」
益博さん
益博さん
「そんなことありますか(笑)。でも、二郎さんのあなごは口の中に入れると溶けてしまいますよね。よく握れているなと思いますね」
二郎さん
二郎さん
「自信があるから言いますけど、1回食べてダメなら出しませんよ
益博さん
益博さん
「鮨職人はみんなお魚のことばかり気にしますよね」
二郎さん
二郎さん
「どうしてもそうなりますよね。魚がおいしくなかったら鮨にしてもおいしくないけど、その土台になるシャリがおいしくなかったら元も子もないでしょう。だいたい鮨はご飯を食べるものでしょ?」
益博さん
益博さん
「そうですね」
二郎さん
二郎さん
「昔は、飲んだり食べたりした後に鮨を食べていましたけど、うちの店では今でも最初から最後まで鮨しか出しません」
益博さん
益博さん
「昔のお鮨屋さんはお鮨しか出ませんでしたからね。それから、飲み物はお酒ではなくお茶だけ。二郎さんのお店でおつまみを出さないのは、やっぱり握りを食べてもらいたいからですか?」
二郎さん
二郎さん
「鮨に合うおつまみを作れないからじゃないかな?(笑)」
益博さん
益博さん
「ハハハ。二郎さんは、お刺身を切って出したほうがよっぽど楽だっていつも話していますよね」
二郎さん
二郎さん
「1個ずつ出せばいいだけじゃないですか。飲んでるお客さんに、つまみとしてシャリと海苔と刺身を出すのは楽だと思います(笑)。でも、それだけしていたら今頃店はつぶれていますよ」
益博さん
益博さん
「理想は握りだけでということですか?」
二郎さん
二郎さん
「それが鮨屋なんです」

鮨ダネだけでなく、シャリ、海苔、お茶にこだわる理由

益博さん
益博さん
「握りだけで勝負できているお店は世界中で1軒だけだと思います。それから、海苔とお茶にもこだわっているのに、みなさんはあまり気がつかないんですよね」
二郎さん
二郎さん
「海苔なんか今はほとんど機械で作っていますが、昔は手で作っていたのでもっとおいしかったんですよ。今は海苔屋さんも電気で焼いています。だけどうちの店では今でも炭火で焼いています。パリパリにしないとおいしくないんですよ」
益博さん
益博さん
「香りが立たないということですね?」
二郎さん
二郎さん
「昔は、どの家庭でも海苔を食べる時は焼いていたでしょ?」
益博さん
益博さん
「火鉢であぶっていましたね」
二郎さん
二郎さん
海苔は、焼いて初めて本当のおいしさが出るんです」
益博さん
益博さん
「あとは、たまにですが、お茶がおいしいですねと言う方もいますね」
二郎さん
二郎さん
「私は静岡の出身ですからね(笑)。お茶にはこだわって、ぜいたくに出しています」
益博さん
益博さん
「お鮨屋さんをやってらっしゃる方、お鮨屋さんに行かれる方も、お茶がおいしいと思ったらほめてあげるとお鮨屋さんのお茶のレベルが上がっていくのかなと思いますね」

「すきやばし次郎」のこだわりについて語ったお二人。ここまででも十分、二郎さんの職人哲学に触れることができましたが、実は、ここからが本題。二郎さんがおいしさを追求してきた鮨ダネについて、改めてひも解いていきます。

小野二郎がおいしさを追求した鮨ダネ厳選6種

二郎さんの職人哲学は「鮨 すきやばし次郎〜JIRO GASTRONOMY〜」や「匠 すきやばし次郎〜JIRO PHILOSOPHY〜」などの書籍でも知ることができる

1. 「くるまえび」は握る寸前にゆでる

益博さん
益博さん
「今から30年以上前のことですが、二郎さんはいつの日からかくるまえびを握る寸前にゆでるようになりました。きっかけは何だったのでしょうか?」
二郎さん
二郎さん
「とあるホテルで出されたえびがきっかけで食中毒が起きて新聞に載ったんです。すると、えびを食べるお客さんがいなくなってしまいました。その頃は、朝買ってきたえびを全部ゆでて開いて冷蔵庫に入れておいて、それを出して握っていました。でも、食中毒が起きた後はえびだけはいらないと言ってみんな食べなくなりました。どうしたら食べてくれるんだろうと考えた末、私は、生きているえびをカウンターに置いておいて、注文を受けてからそれをゆでてお客さんに出しました。お客さんが目の前で見たら、生きているえびを食べたのがわかるでしょ。すると、とたんにえびが売れるようになったんです」
益博さん
益博さん
「私が聞いた話によると、どうしても食べてほしい人がいたそうですね」
二郎さん
二郎さん
「そうですね。それまではえびを開いて置いていたので味噌(みそ)が食べられなかったんですが、生きたものを使うことによって味噌を使えるようになったんです。そうするとえびがもっとおいしくなる。そのやり方は現在までずっと続いています」

2. 「あわび」は香りを残すために温める

益博さん
益博さん
「えびをゆでているということは、お鮨の中でも温度が高いということですね。お鮨は冷たいものだと思っている人が多いと思います」
二郎さん
二郎さん
「かつては、鮨はお土産にして持って歩くものだったから、冷たいのが当たり前だったんですよ」
益博さん
益博さん
「二郎さんのお店では、くるまえびとあわびが温かいお鮨ですね。二郎さんが握るあわびはとても甘い」
二郎さん
二郎さん
「冷たいまま出すのが江戸前のやり方だったので、東京に出てきた時は冷たいまま出していましたが、あわびの香りが残らないなと思ったんです。それで自分でやり方を変えました。温度をつけたほうが香りがいいんですよ。あわびの作り方は私が変えたと思います。あわびは香りを出さないとおいしくないと思うんですよ」
益博さん
益博さん
「20年くらい前のあわびは、冷めてても切りつけてても香りが漂ってくるものでした」
二郎さん
二郎さん
「生のあわびは違うんです。でも、最近はあわびが獲れなくなってしまいました。海水温が高くなり、海藻が育たないんだそうです。あわびは海藻で育つのですが、エサが良くないから大きくなりにくい。そんなあわびをなんとか昔のような味にしたいなと思って作っています」
海水温の上昇や台風の影響などであわびが育たなくなってきているという

3. 「たこ」は1時間もんで香りを出す

益博さん
益博さん
「これからの季節、出るか出ないかわからないけど、たこ。二郎さんはたこで相当苦労されましたよね」
二郎さん
二郎さん
「ふふふ。明石のたこはおいしいんですよ。26歳頃から3年ほど大阪で店をやっていた時にたこの味を覚えました。東京に戻って来て食べたたこはおいしくないなと思って…。いろいろ考えて今のたこを作りました」
益博さん
益博さん
「いろいろというのは?」
二郎さん
二郎さん
「たこにはぬめりがあって、塩をかけて2〜3分もむとぬめりがとれます。塩を入れるとたこが硬くなってしまうので、何も入れないでもんでいたけど、それではダメだと気づくまで3年かかりました。30分もんだり、50分もんだり、1時間で試してみたり。その中で一番いいのが1時間くらいもんだ時だったんです」
益博さん
益博さん
「1時間もむとたこはどうなるんですか?」
二郎さん
二郎さん
「“もむ”にもいろいろありますけど、たこをもむと香りが出てくるし、歯ごたえもいいんですよ」
益博さん
益博さん
「たこと言えば、故ジョエル・ロブションさんを思い出しますね」
二郎さん
二郎さん
「あの人はたこが嫌いだったね」
益博さん
益博さん
「二郎さんのお店にロブションさんを連れて行った時、ロブションさんが小さい声で『俺、たこが大嫌いなんだよ。スペインで新鮮なたこをゆがきたてで食べても硬くてゴムみたいで味がしない…』とおっしゃっていました。でも尊敬する二郎さんが握ってくれるということで、粗塩を少しかけて口の中に入れたのですが、噛んでいるうちに、目をまん丸くして『いせえびの味がする』と言ったんです」
二郎さん
二郎さん
「たこのエサといせえびのエサは似ていますから同じような味がするのでしょう。でも、たこを食べていせえびの味がすると言ったのはロブションさんだけです。あんなに味がよくわかる人はいませんね」
益博さん
益博さん
「二郎さんのたこを食べて、明石のたこですか?と聞くお客さんはいませんでしたか?」
二郎さん
二郎さん
「1人だけいましたね。神戸から来たお客さんで、私が握ったたこを食べて『これ、明石のたこでしょ?』って言うから、違いますよと答えましたけど、『明石のたこと味が同じですよ』と言われました。それ以来、自信を持ってたこを出しています」

4. 「いくら」は一番おいしい時期に1年分漬けておく

益博さん
益博さん
「次はいくらです。苦手な人は臭いが気になるようですね」
二郎さん
二郎さん
「いくらは、旬の9〜10月頃は生を買ってきて漬けることができます。これが1年中となると続かないわけです。漬けられたとしても、せいぜい11月くらいまで。いくらを1年中出すためにはどうしたらいいか考えました。1年中、生で提供しているのはうちの店だけだと思います」
益博さん
益博さん
「一番おいしい時期に1年分作ってしまうということですね。二郎さんは、漬けたいくらを急速冷凍に入れていますが…」
二郎さん
二郎さん
「そこから先はヒミツです(笑)」
益博さん
益博さん
「二郎さんのお店では、当然、養殖や冷凍物を使うはずがないのですが、昔の築地、今の豊洲がベースですから、全てその日使うものだけ買いつけてきて仕込みをしてお出ししています。でも、いくらだけはわざわざ冷凍にして、その日の分だけ解凍してお出ししているんですね」
昔のやり方を今も続けているのがおいしさを保つ秘訣なのかもしれない

5. 「かつお」はワラであぶって冷凍室に入れる

益博さん
益博さん
「かつおはワラであぶっていますね」
二郎さん
二郎さん
「私が田舎の料理屋にいた頃にやっていた方法をかつお用に変えただけなんです。ワラというのは、昔は農家で縄を作ったりしていたから値段が高かった。私が東京に出てきた頃は田舎まで車で行って、友だちからワラをもらって、夏場のかつおを使う時だけワラであぶっていたんです。ただ、他の人はワラが手に入らないし、どうしたら香りが残るかもわからなかったんです。だからワラを使っているのはうちの店だけだったんですね」
益博さん
益博さん
「かつおは表面の皮目にクセがあるので、どうしても焼かないといけないのですが、ガスのような強い火であぶると焼き魚になってしまう可能性があるので、それを柔らかいワラの火であぶるとワラの香りも一緒につくんですね。他の料理屋さんでは、火であぶったかつおを氷水につけています」
二郎さん
二郎さん
「うちの店では、焼いたらすぐ冷凍室に入れています」
益博さん
益博さん
「冷凍室に入れる。ここがポイントですね」
二郎さん
二郎さん
「冷凍室に入れないと脂が抜けちゃうんですよ」

6. 「あじ」は昔のやり方で酢締めをする

益博さん
益博さん
「二郎さんが工夫した最近のお鮨の一つにあじす(あじの酢締め)があります。二郎さんの鮨ダネの中では一番新しいですね。私が子どもの頃にはどこのお鮨屋さんにもありましたが、最近は見かけなくなりました。二郎さんはなぜあじすを作ろうと思ったんですか?」
二郎さん
二郎さん
「酢締めをする時はだいたいさばを使うんですが、いいさばが入らないんです。季節がちょっとずれるとさばが入らなくなる時があります。あじの旬は夏なので、さばの空白期間を埋めるために出しているんです。酢締めのやり方は昔やっていた方法でやっています。海水温が高くなっているから魚が獲れなくなっています。そのため、昔出していたものをやらないとダメなんですよ」

「すきやばし次郎」におまかせコースしかない理由

益博さん
益博さん
「15年ほど前から二郎さんのお店では、どのお客さんにも同じ『おまかせコース』を出していますね。あれを思いついたきっかけはフランス料理だそうですね。前菜と主菜が出てきて、メインのお肉は後のほうに出てくる。だから、お鮨のおまかせコースにもそういうのがあってもいいんじゃないかと」
二郎さん
二郎さん
「それとね、私はもともと和食の料理屋で修行していますが、和食も最初からメイン料理を食べないでしょ?だから、和食やフランス料理からヒントをもらいましたね」
益博さん
益博さん
「味の淡いものから味の濃いものを食べていくということですね。ところで、おまかせコースの並び順にこだわりがあるそうですね」
「すきやばし次郎」のお品書き(2019年10月のもの)
二郎さん
二郎さん
「旬のものが真ん中にあり、前後は昔からあるようなものをうまく入れています」
益博さん
益博さん
「かれい、すみいか、あかみ、こはだで締めるところが第1部で、伝統的なお鮨ですね。そして、第2部はあわびから始まってあじすまで季節のお鮨。最後に、軍艦巻きや二郎さんの得意技であるあなごがある。この並び順はいつ考えるんですか?」
二郎さん
二郎さん
夢に見たりするんです」
益博さん
益博さん
「昔はお客さんのお好みでお鮨を握っていましたね」
二郎さん
二郎さん
「今それをやっていたら間に合いませんよ。外国人のお客さんが増えていて、わざわざ日本にお鮨を食べに来ているのに断るわけにはいけませんから。できるだけ多くのお客さんに食べてもらおうと思っていますが、そのために私はいつまでも働いていないといけないわけですね(笑)」
益博さん
益博さん
「先ほど、魚介類が獲れなくなっているとおっしゃっていましたが、これからお鮨屋さんはどうなるのでしょうか?」
二郎さん
二郎さん
「これからの人は苦労するでしょうね。昔は、2等品、3等品くらいだったものが、今の特等品くらいになっていますね」
益博さん
益博さん
「それでもお鮨屋さんはなんとかお鮨を握らなければなりません」
二郎さん
二郎さん
「昔は季節のものがほしくて市場に行けばあった。でも今はないから、現物を見てどれがいいか探して仕入れてこなきゃいけないんです」

94歳の二郎さんはいつまで鮨を握る?

益博さん
益博さん
「まだまだ二郎さんはお仕事を続けますよね?」
二郎さん
二郎さん
「もうやりたくないよ(笑)」
益博さん
益博さん
「この間、外国人の方が『二郎さんはいくつまでお鮨を握られますか?』と聞いていました。私は横で聞きながら、100歳って言うのかな?オリンピックの年までって言うのかな?と思っていたのですが、『息をしている間』と答えていました。やっぱりお鮨を握っている時は楽しいですか?」
二郎さん
二郎さん
「調理場に入ると楽しくてやってるんですけど、終わったら疲れるんです。90歳を過ぎたら疲れるようになったんですよ」
益博さん
益博さん
「二郎さんの口から疲れるという言葉は、10年前には聞いたことありませんでしたね。でも、世界中の人が待っていますから、これからも丁寧なお仕事を続けていただきたいですね」
二郎さん
二郎さん
「もう十分でしょう(笑)」
益博さん
益博さん
「もう十分と言いながら、まだやるぞという目をされています。二郎さんは『自分の好き嫌いで仕事を選ぶんじゃない』と言い続けてきましたね」

小野二郎の職人哲学「教わったことをやっているだけでは見習いと同じ」

おいしい鮨を追求してきた二郎さんだが、仕事に対しても厳しい人だったという
二郎さん
二郎さん
「自分が選んだ仕事は自分が好きにならなきゃいけないんですよ。与えられた仕事も自分の仕事だったら好きにならなきゃいけない。60年以上店をやってきて、見習いで来た人はたくさんいました。来たらまず掃除をやらせるんだけど、『俺はこんなのをやりに来たんじゃない、鮨を覚えに来たんだ』って必ず言うんですよ。じゃあ何ができるかって、立ってるだけ。3日目になると『疲れたから辞めます』と言ってね。じゃあ仕事をしてる人はどうするんだ?って聞くと、『あれは自分が好きでやっている。私は鮨屋になろうと思って来たんです。掃除をしに来たわけじゃないから辞めます』と、そういう人が多いんですよ。私は独立して60年以上になりますけど、うちから出て独立した人は15人くらいしかいません」
益博さん
益博さん
「私たちが聞いていても耳の痛いお話なんですが、すばらしいお手本があるのにもったいないなと思いますね」
二郎さん
二郎さん
「だから言うんですよ。調理師学校は月謝代を払って行くものだけど、うちの店は給料をもらって覚えられるんです。そういうのを全然考えていないですよね。いろいろと覚えて一人前になって自分で店を持って、家族を養わなきゃいけない。教わったことをやっているだけでは見習いと同じ。俺がこの店をやってやるんだって気持ちで頑張ってほしいですね」
「もう鮨を握るのは十分」と言う二郎さんでしたが、イベント後はやはりお店に向かったのでした

お鮨の話からはじまり、仕事の話までトークを繰り広げたお二人。二郎さんが握るお鮨にはおいしさの秘密が散りばめられていることがよくわかり、「すきやばし次郎」に行ってお鮨を食べたくなったのではないでしょうか。

現在、「すきやばし次郎」は二郎さんとともに長男の禎一(よしかず)さんが店に立ち、お鮨を握っているとのこと。電話予約は行っていないそうですが、なんとかして二郎さんが握るお鮨を食べてみたいものです。

\二郎さんのお店はコチラ/

第3回は2020年2月20日に開催予定!

バレンタインデー後ということでチョコレートをテーマに、「アマゾンの料理人」の著者であり料理人の太田哲雄さんと、ショコラティエの三枝俊介さんから料理哲学を学びます。

取材・文・撮影=シーアール

この記事を書いたライター情報

Yahoo!ライフマガジン編集部

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グルメ、おでかけ、イベントなど、ライフスタイルを豊かにする情報を編集部が厳選して紹介します。

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