豊田市美術館内のフレンチ「味遊是」の料理は五感で味わう芸術だ

豊田市美術館内のフレンチ「味遊是」の料理は五感で味わう芸術だ

2020/01/14

美味しい料理をいただくたびに思うことがある。料理人がこだわり抜いて作った料理は、絵画や彫刻と同様に芸術ではないかと。しかも、味覚のみならず、嗅覚や視覚、聴覚、触覚と五感のすべてで味わうことができるのだ。それをしみじみと実感できる店がある。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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美味しい料理を堪能できる絶好のシチュエーション

豊田市美術館

豊田市美術館内のレストランがそれだ。2019年6月、美術館のリニューアルに伴ってオープンした。豊田市美術館は東名高速道路豊田インターから約15分。かつて江戸時代に築城された挙母城(ころもじょう)があった高台の一角に建ち、周りの自然と見事に調和している。せっかくなので今回は美術館周辺をのんびりと散策してから食事を楽しもうかと。

美術館2階の中庭からの眺望

豊田市美術館は、直線を多用したとてもシンプルなデザイン。乳白色のガラスや緑のスレートなど、どこにレンズを向けても「絵」になる。建築物が好きな人はもちろん、そうでない人でも、ずっと見ていられる。日常の喧噪を忘れさせてくれるこの雰囲気に誰もが癒やされるだろう。

スロープの近くにある案内板

レストランは美術館の2階にあり、館内からも館外からも入ることができる。館外からの場合、エントランスにある階段か、正面のスロープを利用する。「レストラン」と書かれた案内板があるので、行けばわかると思う。

2階まで一直線に続く長いスロープ

今回はスロープを上ってレストランまで行くことに。緩やかな坂道を一歩進むごとに目の前に広がる景色が変わっていき、そのたびに胸が高まって足を止めてしまう。お洒落をして大切な人と一緒に行っても素敵な時間を過ごせるに違いない。

「味遊是」入り口

2階に到着後、案内板に従って店の入り口へ。ここが今回紹介する「味遊是(ル・ミュゼ)」である。実はここ、名古屋市東区葵にあるミシュランの一つ星店「仏蘭西料理 壺中天(こちゅうてん)」の姉妹店。とはいえ、美術館という公共施設内のレストランゆえに、リーズナブルに本格的なフレンチが楽しめるのだ。

「仏蘭西料理 壺中天」オーナーシェフ、上井克輔さん

「出店の話をいただいたとき、実はあまり乗り気ではなかったんです。ところが、実際にここへ来てみると実に心地良かったんですよ。ここでやりたい!という気持ちが自分の中でだんだんと大きくなっていきました」と、話すのは「壺中天」のオーナーシェフ、上井克輔さんだ。

美術館2階には池もあり、そこからの眺めも最高だ

2019年6月にオープンして以来、上井さんはほぼ毎週ここに足を運んでいる。「壺中天」で使用している肉や魚介の端材を届けたり、味のチェックをしたりするのが目的だが、
「もちろん、それもありますが……。ここへ来ると、本当に気持ち良くて。心身ともにリフレッシュできるんですよ」とか。

いつまでも残る味の余韻

センスあふれる「味遊是」のロゴデザイン

では、料理を紹介しよう。11時~14時半までは、2500円、1500円(いずれも税別)のコースとカレー、ホットサンドを用意。すべてのメニューに+300円(税別)でミニデザートとコーヒー(または紅茶)が付く。14時半以降はカフェタイムとなり、ドリンクや軽食が楽しめる。10時~11時まではドリンクのみの提供となる。

アミューズ「魚介のフラン」と「ジャガイモのグラチネ」

今回、用意してもらったのが1500円のコースとミニデート、コーヒー。コースは肉料理か魚料理のいずれかを選ぶメインのほか、アミューズとパンが付く。この日のアミューズは、「魚介のフラン」(左)と、ペースト状にしたジャガイモと刻んだマッシュルーム、バター、粉チーズを合わせて表面を香ばしく炙った「ジャガイモのグラチネ」(右)。

オマール海老の風味を堪能できる一品だ

「魚介のフラン」は、オマール海老の殻からとったソースをのせた、いわばフレンチ風の茶碗蒸し。卵の部分にもオマール海老のだしがしっかりときいていて、ひと口味わうごとに濃厚なオマール海老の風味がふわっと広がり、全身に染み渡っていく。ひと皿目から大きな衝撃を受けた。アミューズでこのレベルである。メインが楽しみで仕方がない。

マネージャーの木村貴範さん

「こちらが本日の肉料理でございます」と、料理を運んでくださったのは、マネージャーの木村貴範さん。常に笑顔を絶やさず、あたたかく迎えてくれるのはもちろん、メニューについて質問しても気さくに答えてくれる。料理だけでなく接客もまた「壺中天」譲りであるのは間違いない。

肉料理「若鶏のロティ シェリービネガーソース」

さて、こちらがメイン料理の「若鶏のロティ シェリービネガーソース」。仔牛の骨からとったフォンドボーにシェリー酒を発酵させて作ったシェリービネガーを合わせて香りと酸味をつけたソースが味の決め手だ。濃厚そうに見えるが、シェリービネガーのまろやかな酸味でさっぱりと食べられる。

あらかじめ低温調理をしているので身はしっとり

特筆すべきは鶏肉の食感。皮はパリッと、身はしっとりしていながらもジューシー。ただ単にフライパンで焼いただけでは身がパサついてしまう。しっとりとした食感に仕上がっているのは、低温調理をした上で表面をパリッと焼き上げているからだ。

魚料理「天然鯛のポワレ ノイリーのソース」

こちらは、魚介でとっただしに生クリームと薬草やハーブを配合したフレーバードワインのノイリーをくわえたソースでいただく魚料理「天然鯛のポワレ ノイリーのソース」。爽やかな香りがより楽しめるように提供する直前にソースを泡立てている。また、蕪の葉で作ったオイルや粉末のマッシュルームもくわえて味に奥行きを持たせている。

+300円で付いてくるデザートとコーヒー

コースを締めくくるデザートは、「ブランマンジェ アプリコットのムース」。クリーミーな舌触りとアプリコットのすっきりとした酸味が印象的な大人のデザートだ。甘すぎないので、口の中をリセットさせてくれる。しかし、アミューズ2品からはじまり、メイン、デザート、コーヒーと味の余韻はいつまでも残っている。

料理長の高木康輔さん

料理を作ってくださったのは、料理長の高木康輔さん。上井さんの下で修業して、まだ4年目というから驚いた。ソースで食材の持ち味を引き出す「味遊是」の料理は、クラシカルなフレンチである反面、独創的なアイデアとセンス、いわば“壺中天イズム”がビンビンと伝わってくる。しかも、値段を考えると高級食材を使うことはできない。

師匠である上井さんと厨房内で

一つの食材に対して、どのようにアプローチすればより美味しくなるのか。そして、どんなソースを組み合わせるのか。経験値が高ければ徹底的にシミュレーションできるものの、若きシェフの高木さんは直観で判断するしかない。それは芸術的なセンスと言ってもよいだろう。やはり、料理は五感で味わう芸術なのだ。

取材・撮影・文/永谷正樹

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