消防署員が考案した「消防カレー」はカレーの新機軸になるか!?

消防署員が考案した「消防カレー」はカレーの新機軸になるか!?

2020/02/12

日々の訓練によって鍛え上げた肉体と精神で人々の安全と財産を守る消防署員と町の消防団。愛知県の西三河地方南部にある幸田町消防本部は、署員たちの胃袋を支える「火事場のチカラメシ 愛知幸田の消防カレー」なるカレーをプロデュース。町の名物として売り出そうとしている。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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目指したのは、“冷めても美味しい”カレー

幸田町役場産業振興課の春日井幸弘さん

プロジェクトがはじまったのは、2019年5月。幸田町には4つの消防団があり、普段は本業の仕事を持ちながら訓練に励む団員を応援したいという成瀬敦町長の思いからスタートした。
「どの市町村も時代の変化とともに消防団員の確保が難しくなってきていると思います。そんな中、幸田町は現在147名の団員が日夜訓練しています。災害時の避難支援活動の実績も多く、愛知県消防操法大会でも何度か入賞しています」と、話すのはプロジェクトを進めてきた幸田町役場産業振興課の春日井幸弘さん。

幸田町消防本部外観(幸田町消防本部提供)

消防署員は火災や救急搬送など24時間いつでも駆けつける。ゆえに勤務は交代制であることはご存じだと思う。では、彼らの食事は誰が作っているのか。調理担当のスタッフが常駐している市町村もあるかもしれないが、幸田町消防本部の場合、彼ら自身が当番制で作っているのだ。幸田町消防本部庶務課の新實直哉さんはこう話す。

幸田町消防本部庶務課の新實直哉さん

「食事中に出動することもあります。その場合、署に戻ってから再び食事をするわけですが、麺類だと麺がのびてしまって食べられません。その点、カレーであれば、冷めても食べられますし、食器の片付けも楽ですから、署員の間でもカレーは人気なんです」

料理研究家の長田絢さん

消防カレーの開発はまず、署員からレシピを集めることから始まった。日常的に食べている家庭系や商品化を意識した創作系までさまざまなレシピが揃った。それらを審査して、最終的なレシピ考案を担当したのは、名古屋在住の料理研究家、長田絢さん。

消防署員が考えたレシピを再現したカレー

「赤と橙のルー、ご飯のそれぞれの色で消防とレスキュー、救急を表現したカレーや、ナスの素揚げの両端に2本の串を刺してハシゴや揚げたきしめんで作った火消し組の目印である纏(まとい)をトッピングしたカレーなど楽しいレシピが沢山ありました。これらを基に幸田町の特産品を加えたら良いのではと思いました」と長田さん。

「幸田の消防カレー」に使用したスパイスなど

長田さんが消防カレーの食材に選んだ幸田町の特産品は、ナスとイチジク、筆先の形をした甘みの強い筆柿、町内の養豚場で飼育されたブランド豚、夢やまびこ豚。これらと厳選したスパイスを合わせて作る。

試食会でプレゼンをする長田さん

「食事中に出動して、現場から帰ってきてから食べかけの料理を食べることもあるとお聞きしていたので、冷めても美味しく食べられるカレーが私の中で絶対条件でした。ルーを使ったカレーは冷めるとどうしても脂が固まってしまいます。そこでルー不使用のスパイスカレーにしました」

成瀬敦・幸田町長

料理の素人からすれば、ナスや豚肉はともかく、イチジクや柿は甘みの方が勝ってしまうような気がする。しかも、今流行りのスパイスカレー!? 味がまったく想像できないが、長田さんは百戦錬磨のプロ。2019年10月に開催された試食会にはプロジェクトの発起人である成瀬町長も出席、「とても美味しい! これなら消防団の皆様も喜んでくれるでしょう」と、太鼓判を押した。

和風ダシとスパイスが織り成す未体験の味

幸田町のブランド豚、「夢やまびこ豚」をたっぷり使用している

これが試食会で出された「幸田の消防カレー」。トッピングに幸田町特産のナスの素揚げと夢やまびこ豚を使ったとんかつ、タコさんウインナー、桜ニンジン、フライドポテトがのせてあり、ボリュームも満点だ。
「イチジクはペースト状に、筆柿は町内の道の駅でも販売されている筆柿ジャムを入れました。もちろん、お米も幸田町産です」(長田さん)

カレー専門店に負けない完成度の高さ

さて、肝心な味だが、いわゆる家庭のカレーライスとはまったく異なる。とはいえ、本格的なインドやスリランカのカレーでもない。ベースとなるダシとスパイスが複雑に絡み合いながらも見事に調和がとれている。辛さの中にあるほのかな甘みこそ、イチジクのペーストと筆柿ジャム。これが実に素朴な味わいなのだ。

カレーには消防署員の知恵と長田さんのノウハウが凝縮

「スパイスはカルダモンやグローブ、シナモン、黒コショウ、クミンシード、マスタードシードなどを使い、複雑な味を表現しました。その反面、ダシは煮干しと昆布、鰹節、切り干し大根を使った和風ダシですから、どこか親しみのある味に仕上がっています」(長田さん)

インパクト十分ののぼり

また、メニューの試作と同時に幸田の消防カレーを町の名物として売り出すためにブランディングも進められていた。その一つがのぼりとポスターの制作である。
キャッチコピーは、火事場のチカラメシ。幸田の消防カレーは火災現場でも怯まず、勇敢に消火活動を行う消防署員の原動力であることを意味しているという。

消防のイメージを全面に出したポスター

ポスターは、消防車の赤とカレーの黄色がベースでかなり派手な色使い。モデルには現役の消防署員と……。あれ? 向かって左端の立っている女性は……長田さん⁉︎
「今、全国の消防本部では、女性消防吏員を積極的に採用する動きがあります。それもPRできればと思い、長田さんに相談したところ快諾していただきました」(新實さん)

幸田消防カレーの持つ無限の可能性に期待!

幸田の消防カレーを振る舞う新實さん

幸田の消防カレーがお披露目されたのは、今年1月12日に開催された「こうた凧揚げまつり」。地元企業や学校、団体などが製作した10畳を超える大凧から小凧まで、約150基が幸田町の空を彩る新春恒例のイベントだ。会場の一角でカレーを煮込んでいる新實さんの姿があった。

「こうた凧揚げまつり」で出されたカレー

「地元の消防団も大凧揚げに参加しているんですよ。彼らをカレーで激励しようと思って、100食用意しました」と、新實さん。大凧を揚げるには相当体力が要る。お腹を空かせた消防団員や関係者に振舞われ、大鍋のカレーはあっという間になくなった。もちろん、評判は上々だった。

幸田町役場内にある「コウショク」入り口。役場の外からも入店できる

実際に「幸田の消防カレー」が食べられる喫茶店『コウショク』

幸田の消防カレーは、2020年2月12日(水)より、幸田町役場内にある喫茶店『コウショク』で食べられる。この日、長田さんは店を訪れて販売前の最終チェックを行った。

「幸田の消防カレー(トッピングなし)」

これが「コウショク」で出される幸田の消防カレー。町役場内の喫茶店らしく器がレトロだが、しっくりとくるのが不思議。しかも、トッピングなしの場合は500円と、激安だ。カレーの中にゴロゴロと入っているのは、サイコロ状にカットした夢やまびこ豚。味がしっかりしているにもかかわらず、口当たりはさっぱり。これもまた、幸田の消防カレーの味の要であることを再認識した。

「幸田の消防カレー(トッピングあり)」

こちらはトッピングあり。価格は700円と、こちらも安い。夢やまびこ豚はとんかつにすると、さらにその美味しさがわかる。ナスの素揚げもほんのりと甘く、箸休め、いや、スプーン休めにぴったり。トッピングの味を邪魔することなく、むしろ引き出していることにも驚いた。

幸田の消防カレーの今後について語り合う春日井さんと長田さん

「まだプロジェクトははじまったばかりですが、今後は缶詰かレトルトの商品も作れないかと考えています。冷めても美味しいですから、夏場は常温でも冷やしても食べられます。何よりも防災用の備蓄食料にも利用できますし、防災意識の向上にも繋がるというのがポイントです。夢はどんどん広がりますね」と、春日井さん。

消防カレーのブームが到来するかも?

消防カレーという新たなジャンルは、海上自衛隊による海自カレーと同様に、全国の消防本部がそれぞれの個性を打ち出しながら広がっていくのではないだろうか。今後の動きに目が離せない!

取材・撮影・文/永谷正樹

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