地域で初めてのいちご狩り農場・仙台市泉区「松森農場」

地域で初めてのいちご狩り農場・仙台市泉区「松森農場」

2020/02/23

東北でも有数のいちご生産地として有名な宮城県山元町。品質の高さと美味しさで、春先には農園のいちご狩りが大盛況となる。そんな地元産のいちごをより多くの人に楽しんでもらおうと2018年1月、仙台市泉区に松森農場がオープン。4種類の食べ比べを楽しみに、地域内外から多くの人が訪れている。

中広

中広

震災から再起 ICTを導入

宮城県最南端の町・山元町は、亘理町とともに東北随一のいちご生産地として知られている。冬から春にかけて、赤に染まった芳醇な実がなり、各地へ出荷されている。

赤に染まった芳醇ないちご

しかし平成23年3月、東日本大震災の津波で9割以上のいちご農地が被災。壊滅的な被害を受けた。株式会社 一苺一笑で代表を務めている佐藤拓実さんも代々続いていた農地が津波に飲まれた。

【佐藤拓実代表】一苺一笑では県内のケーキ店やスーパーなどに提供しています。いちごは採れたてが一番美味しいので、消費が県内で最も多い仙台市に農場を作りました。皆さんに喜ばれるいちごを生産していきたいです

泥と塩水に浸かった畑では、いちごがほぼ全滅。栽培用のハウスなども甚大な被害を受けた。地域内のいちご生産者は高齢化が進んでおり、後継者不足などを理由に、再建をあきらめて廃業していく人たちが半数以上いたという。当時20代の佐藤さんは、仕事を続けていくことを決意し、再起のための道を模索し始めた。

震災からの復興で、地域では大規模ないちご栽培団地を造成する動きがあった中、佐藤さんは異なる方向に活路を見出した。これまでのJAを経由する出荷方式から脱却するため、同じくいちご生産者で同じ20 代だった作間勝視さんと土生哲也さんとともに一致団結。山元町のいちごを復興させようと、農業生産法人を平成24年立ち上げた。ただ栽培するだけではなく、販売ルートや商品の開発など、自分たちの力でビジネスを開拓していく道を選択した。

法人設立にあたってI C T(情報通信技術)を積極的に活用し、生産現場に導入。温度や湿度など、栽培に適した環境をデジタルデータで管理し、情報の蓄積によってノウハウを培ってきた。いちごにとって常に最適な環境が維持されるため品質も上がり、省力化にも有効。生育状況の確認や手入れなどは人の手で行われ、同法人では積極的に女性や未経験者を雇用している。

I C T(情報通信技術)を積極的に活用した生産現場
一苺一笑で働く女性スタッフ

新鮮な美味しさをダイレクトに

いちごの生産と販売が軌道に乗った平成29年、生産量の大半が出荷される仙台市に新たな生産拠点・松森農場をオープンする。出荷するのではなく、その場で食べられるいちご狩り農場として、地域に初めて整備された。

一苺一笑(いちごいちえ)松森農場

佐藤さんは「より味の良いいちごを楽しんでもらうために、消費地に農場を作ってしまえばいいと考えました」と話す。いちごは収穫後に熟成することはなく、劣化も早い。ゆえにもぎたてが一番美味しいのだという。

松森農場にもICTを活用。オープン直後は週末に300〜400人が訪れ、定員オーバーで入場制限を設けたほどだった。周辺に住宅地の多い松森地区は、地域から家族連れやカップルなどが多く、リピーターも多い。孫を連れた近隣の高齢者もよく訪れるという。

2400平方㍍のハウスで栽培されている品種は、宮城独自の「もういっこ」をはじめ、「とちおとめ」「紅ほっぺ」「よつぼし」の4種類。いちご本来の甘酸っぱさを楽しめる「紅ほっぺ」や、食感と味のバランスが絶妙な「よつぼし」などを食べ比べできるのは県内でも珍しい。

食べ比べできると人気

取材に訪れた日も続々と来場者があり、中には台湾から視察に訪れた一団もあった。台南市旅行商業同業公會の蘇榮堯理事長は「さまざまな場所でいちご狩りを視察してきたが、ここは設備などが整っていてとてもキレイだ。いちごもとても美味しく、勉強になった」と生育環境に着目した。

台湾から視察に訪れた一団

同農場で働く社員は6人。接客をしながら、農場の手入れにも余念がない。かなり広い敷地だが、ICT化で手間も省かれているため少人数でもくまなく手が回るという。

かなり広い農場

販売リーダーを務める大野明さんは元J A 職員だったが、農業に直接携わる仕事がしたいとこの世界に飛び込んだ。仕事を始めてもうすぐ2年。「とてもやりがいがあり、働きやすい職場です」と農場の手入れに精を出す。人の手と愛情が、更にいちごを美味しくさせる魔法なのだ。

いちごの状態を入念にチェックする佐藤さん

加工品にも注力 楽しみ方いろいろ

株式会社 一苺一笑ではいちごの出荷やいちご狩り農場のほかに、いちごを生かした新製品開発にも力を注いでいる。いちごの果汁とササニシキの米粉、おからを混ぜて練り上げた「苺麺」は、モチモチ食感が特徴。クセのない味で食材との組み合わせも幅広い。完熟したいちごとりんごを使い、老舗の醸造蔵でじっくり育てた果実酢「I C H I Z U」は、アイスやヨーグルトとの相性抜群。フルーティで爽やかな味わいは、ジュースやカクテルにもぴったりだ。新商品開発は農閑期の売り上げにもつながり、現在は「いちごジャム」の販売も計画。自慢のいちごから作られる高品質のジャムに期待が集まっている。

アイスやヨーグルトとの相性抜群な果実酢「I C H I Z U」

佐藤さんは「農場はまだ始まったばかり。ノウハウを蓄積しながらより良いいちごや製品を提供できるように力を注ぎたい」と熱意を込める。

震災から9年。あの日失ったものは大きかったが、再起をかけてここまで駆け抜けてきた。生産者の高齢化が加速する中で、新しい農業のあり方を模索する若い世代が、変革の先端を走り続けている。

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中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

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