伝統的な製法にこだわり、酒を醸す愛知の小弓鶴酒造株式会社

伝統的な製法にこだわり、酒を醸す愛知の小弓鶴酒造株式会社

2020/02/27

犬山市南部の羽黒地区は、良質な地下水に恵まれた土地柄から、酒造りが盛んだった。明治時代には7軒の酒蔵があったという。現在もこの地に残る小弓鶴酒造では長期熟成の古酒が注目され、深い味わいと香りが人気を呼んでいる。

中広

中広

酒銘にもある「小弓」は地名「小弓の庄」に由来

小弓鶴酒造の創業は嘉永元(1848)年。これは同社が保管している酒造株の証文による。中島郡築込村(現在の一宮市)の平左衛門から、醸造免許である酒造株を譲り受けたとあり、記された年が嘉永元年だった。

「調べたところ、それ以前から酒造りをしていたらしいことがわかってきました」と、6代蔵元で代表取締役の吉野淳夫さんは、根拠を挙げていく。

吉野淳夫さん

吉野淳夫さん

小弓鶴酒造株式会社 代表取締役

証文には酒造米高が88石2斗とある。始めたばかりの事業にしては、かなりの量に当たるそうだ。『犬山市史』江戸期の羽黒村の古地図で、吉野家は代々庄屋を務めていたことが判明した。江戸時代、幕府は米政策として酒の醸造を奨励していた。全国各地で庄屋などが余剰米で酒を造った。吉野家も行っていたと思われる。

羽黒成海郷に鎮座する、鳴海杻神社(なるみてがしじんじゃ)の石燈籠に、吉野家の先祖の名が刻まれている。石燈籠は安永8(1779)年の寄進で、古くから神社と酒とは関わりが深く、この頃すでに酒造りをしていたとも推考できるのでは、と淳夫さん。

明治期の屋号は「吉野家酒店」。大正10(1921)年に「合資会社吉野酒造場」となり、昭和28(1953)年、「小弓鶴酒造株式会社」に改編した。銘柄も「小弓鶴」と命名。平安時代、丹羽郡一帯の荘園が「小弓の庄」と呼ばれたことに由来する。ほかに「幼川(おさながわ)」という、五条川の中上流域の古称から名付けた銘柄もあったという。

創業は嘉永元年以前に遡るとしても、当初より、仕込み水は木曽川の伏流水を自家井戸から汲み上げ使ってきた。その豊富で良質な水と伝統の酒造技術を大切に守り、今に受け継いでいる。

醪の活動を均一に促進するため、櫂でかきまぜる

端麗辛口が人気となる中 吟醸酒造りから手を引く

1990年代、吟醸酒ブームが到来し、以後、酒の風味は淡麗化していった。吟醸酒とは精米歩合が60%以下で、低温で長時間発酵させる吟醸造りで醸した酒である。精米歩合50%以下を大吟醸といい、醸造アルコールを添加していないものは純米の名称が付く。

蒸しあがった米の余熱をとる「放冷」という作業

米を削れば削るほど精白度は増し、きれいな酒ができる。フルーティで華やかな香りが人気の、旭酒造の純米大吟醸「獺祭」の精米歩合は23%だ。

「かつては吟醸酒も造っていて、昭和13年には日本酒造協会から愛知県で唯一、優等賞をいただきました。しかし、私どもが求めたのはあまり米を削らず、昔ながらの麹蓋を用いた麹作りと山廃仕込みによる、濃醇にして軽快な酒でした。ですから、吟醸酒のようなきれいな酒から手を引いたのです」

伝統的な山廃造りの味、小弓鶴酒造のコクと旨味のある酒を守っていくための決断だった、と淳夫さんは語る。

平成10(1998)年には「犬山ローレライ麦酒」の製造を始め、レストラン「犬山ローレライ麦酒館」を併設した。ドイツ産の麦芽とホップに、「小弓鶴」と同じく木曽川の伏流水を使用したビールは飲みやすく、深いコクが評判となった。

吉野正人さん

吉野正人さん

犬山ローレライ麦酒館 支配人

そんな中、酒造が火災に遭う。平成18(2006)年、酒造の4分の3が焼失した。翌年、県内の酒造会社の協力を得られ、事業は継続。現在も「小弓鶴」の新酒が楽しめる。

古酒の魅力を世界に発信 海外展開に意欲を見せる

「しぼりたて」や「生」といった新鮮な日本酒が好まれる一方で、ふくよかで奥深い味わいが楽しめる長期熟成酒のファンも徐々に増えてきた。淳夫さんも研究を積み重ね、昭和61(1986)年、ついに本格的な古酒の仕込みを始める。

「ワイン好きの義兄に誘われて、フランスワインの最高峰ともいわれるロマネコンティを飲み、長期保存した酒の味わいに触れました。日本酒でもと、古酒造りに取り組んだのです。毎年、一定量を専用のタンクで寝かしてきました。幸いにもその一部が火事を免れ、販売に至ります」

平成19(2007)年より、古酒「琥珀酔」として販売するや人気を博し、注目を浴びた。一般的に純米酒は年を経れば、色が茶色くなっていくが、「琥珀酔」はもっとも寝かせた33年ものでも、ブランド名のごとく美しい琥珀色に輝いている。

代表銘柄の「小弓鶴」と古酒「琥珀酔」
最高級の山田錦(酒米)を使用した純米酒を酒蔵で長期熟成した「琥珀酔」は琥珀色に輝く

各酒類の販売(消費)数量構成比率を見ると、日本酒はここ30年で半減し、平成28年度は6.4%だった。しかし海外に目を向ければ、和食人気の高まりもあり、日本酒の輸出額は過去最高記録を更新続けているという。

「さまざまな機会を利用して、『琥珀酔』の魅力を伝えてきました。最近は欧米や台湾などで少しずつ知られるようになり、昨年からは中国へ輸出しています。日本が誇る酒造技術の周知も含めて、『琥珀酔』の海外展開を成功させ、逆輸入という形も目指してみたいですね」と蔵元後継者の吉野正人さんは今後を見据える。

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中広

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