犬養裕美子のお墨付き! 親子二代『スクアールビストロ』

犬養裕美子のお墨付き! 親子二代『スクアールビストロ』

2020/03/26

犬養裕美子 千石 スクアールビストロ

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

洋食とフレンチ。時代が産んだ欲張りレストラン

悩むな~。メニューを開いて15分。食前酒をとっくに飲み干してしまったのに、まだ料理の注文が決まらない。何しろこの店のメニュー、見れば見るほどアレも食べたい、コレも食べたいと迷わせてくる “グッド・メニュー”ばかりだ。『冷前菜』の田舎風テリーヌ900円、サーモンのマリネ1200円、『温前ええ菜』にはオニオングラタンスープ1200円、エスカルゴ1000円などなど、避けては通れぬビストロの定番があるかと思うと、一口フォアグラ丼1200円なんて魅惑的なオリジナルも控えている。

白山通りに面した小粋な店がまえ。この道をずっと北に向かうと、豊秋シェフの故郷新潟県魚沼に通じている!

『魚料理』は鮮魚のポワレ1600円、舌平目のムニエル1900円、伊勢海老のグラタン3980円(ゴージャス!)。『肉料理』には牛ホホ肉の赤ワイン煮込み2520円、骨付き鴨のコンフィ1580円、骨付き仔羊のロースト2680円という王道メニューが陣取っていて、もうどうしていいかわからなくなる。その上、なんと『伝統の洋食』まである。ハンバーグ1280円、仔牛のカツレツ1700円、ビーフストロガノフ1680円。オムライス1850円など人気メニューが勢ぞろいしているし、最後の〆にパスタも充実しているのが憎らしい。

店内はパリ10区にありそうな下町のビストロそのもの。ダイニングに20名、個室にも利用できるひとまわり小さい部屋があり、さまざまな集まりに利用可能

「アラカルトだけで100近くあるんですよ」。二代目オーナーシェフ 皆川昌哉シェフは笑って言うが今どき、これだけのアラカルトを揃えている店はないだろう。「組み合わせを決めかねる方にはコースもありますよ」。そのコースもスモールコース4000円、ビストロコース4700円、特別フルコース5800円シェフコース8200円、前日までの予約でお任せコース1万円という5コースがある。それにしても、なぜ、こんな形のメニューになったのだろう。

左・二代目 皆川昌哉さん(40歳)。「初代の仕事をきっちり受け継ぐことが第一歩」。右・初代 皆川豊秋さん(72歳)  現在は仕入れ担当。「豊洲通いは楽しいですよ!」

1977年、初代オーナーシェフ・皆川豊秋さんは新潟県魚沼郡から上京して大学や宴会場などの料理を提供する会社に入社。7年務めた後、フランスへ向かう。1年間パリのビストロで研修して一時帰国。それから本格的にビザを申請し再度渡仏する予定だったが社会的状況もあり断念、この店をオープンさせた。「当時はまだフランス料理=高級というイメージが強く、気楽な店とは思ってもらえなかった」。そこで豊秋さんはテーブルクロスをやめ、カジュアルな雰囲気を出し、メニューに洋食を取り入れた。

「伝統の洋食」の代表・ハンバーグ1280円も、実はフレンチのシェフが考えると、ワインのコクと酸味が加わった大人の味に。ランチ1046円でも、夜のアラカルトで楽しめる

例えばハンバーグ。赤ワインをたっぷり使った、フランス料理のソースをベースにした味を作り出したのだ。「千石に面白い店がある」と食通として有名な映画評論家の荻昌宏氏がテレビで紹介してくれたことをきっかけに一気に人気店となった。研究熱心な豊秋さんは地道にメニューを増やし、現在の多彩なメニューを造りあげた。

タルトタタン550円。10月から5月まで、デザートで一番人気はコレ。「パリで食べて驚いた味!酸味のいっかりした青リンゴは日本になかったので再現するのは難しかった」酸味もあるけど、香りが印象的

それを2年前に息子の昌哉さんが引き継いだ。昌哉さんもフランスでは合計4年修業したキャリアの持ち主。思い切ってフレンチのコースだけに絞ると言う選択もあったはずだが「親子で営業しているフレンチで成功しているところって少ないでしょう」。初代が築いた店があって今の自分がある、それを忘れないためにも、料理は今までと変えなかった。

カキの冷製ポシェ1個800円。カキをサッと湯にくぐらせ、クリームチーズ、春菊のピュレ、シブレット、マスの卵、マイクロセロリなど。カキのおいしさを多彩な素材の組み合わせで楽しませるモダンな一品

「父から言われたのは、お客様一人ひとりの好みを把握しておくこと」。ひとりでふらりと入ってきて、いつものね、と言ってパッと食べて帰っていく。そんな常連さんを大切にしてきた初代の思いを二代目も受け継いだ。もちろん昌哉さんもなじみのお客さんをしっかりつかんでいる。「年に1、2度は『シェフの好きにやってくれ』というお客さんがいるので、そこでは思い切り自分の料理を披露します!」

オムレツ 黒トリュフのソース2500円。コースの中の一品で出したところ評判になった一品。キッチンから運ばれてくるとトリュフの香りがダイニングに広がる
皆川さん親子を支えるスタッフ。左2番目・松田秀樹さん、右から2番目・金森観世さん、真ん中小林萌々咲さん、右・昌哉さんの奥さま。淳さん

最近のフレンチレストランは、おまかせコースのみの店が流行。若いシェフがグランメゾンで修業した仕事を見せたくて、最小限のスタッフで出そうとするが、そこには無理がある。しかもどこもかしこも似たよう盛り付けで飽きられるのも早い。皆川さん親子は1977年から日本の街場のフレンチの変遷を見てきた。定番メニュー、手ごろな値段を守ること。それがレストランの基本だということをどこよりも実感している。インテリアや働いているスタッフのフレンドリーなサービスにふと、思った。パリの下町みたい! 家族で、カップルで、一人で。誰もがここにいる時間を楽しんでいる。こんなレストランが東京にもあったんだな~。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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