“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第14回は 。
犬養 裕美子
レストランジャーナリスト
ビストロの“3ツ星”を目指す、ホテル出身のオーナーシェフ
ここ数年、茅場町、八丁堀周辺のオフィス街では、バルが大流行。そんな競合店バトルの中で、ここが満席を続けているのは、料理とワイン両方に個性があるからこそ。
グランドメニューにある料理は開店以来、内容も値段もほとんど変わっていない。中でもこの店のリピーターが必ずオーダーするのが前菜の盛り合わせ。イタリア産生ハムの盛り合わせ(生ハム、コッパ、ミラノサラミ、リエット)キャロットラペ、コルニション、オリーブ、自家製グレッグ(野菜のピクルス)を盛り合わせた前菜の一皿。プレートを覆いつくすほどの量に初めての伽億は必ず声を上げる。
「リピーターの方そうやって新しいお客様を喜ばせたくてうちに連れて来てくださる。その期待に応えたいので、こっちもテンションが上がります!」(和田シェフ)
和田倫行オーナーシェフはフレンチ、ホテル、イタリアンなど、様々な場所で経験を積んで2010年に独立。この場所は祖父の時代から続くお酒の販売店だった。「祖父も父もドイツワインのコレクターでした。輸入の免許を取って自社輸入もしていました」。そのころの膨大なコレクションは今も地下のセラーに眠っている。ドイツワインのオールドヴィンテージはまさしくコレクター垂涎のマニアックなものばかり。ドイツのロマネ・コンティ「エゴン・ミュラー」などがズラリと並んでいる。興味がある方はリストを見せてもらうといい。その種類にも値段にも驚くこと請け合いだ。
と言っても、店で楽しむワインは極めてリーズナブル。「自分の店は日常に楽しんでもらいたいので、リストにあるのは3000円~5000円が中心。そのうち自社輸入は40%ぐらいでしょうか」。代々続いてきたドイツとのネットワークも守りつつ、和田シェフ自身が現地で買い付けてくる南仏のワインが “レトノ”の料理にはよく合う。特にシラー、グルナッシュなどの赤の品種は飲みやすく比較的軽いものを選んでいるので、羊や牛のローストにはぴったり。「ボトル2本も立てて飲んでくれちゃうお客さんには、パテも通常より1.5倍は厚くしちゃいますね」。(もともと普通の店より2倍も厚いのに…。)
あえて挑戦するビストロとレストラン
和田シェフは昨年すぐ近くに「マチュリテ」というレストランをオープンした。ここはコースのみのおしゃれなフレンチ。「知人にはまだ早い」と言われましたが、場所と人がタイミングよく揃ったので思い切って始めました」。ホテルで長年料理長を務めていた小橋氏をシェフに招き、コース2本で夜のみ営業している。「フレンチを気軽に楽しんで頂きたい、その基本は変わりません。ただ、「マチュリテ」は大人の方が、落ち着いてワインも楽しんで頂ける店を目指しています」。
初めて音連れたとき、パリの流行のレストランを彷彿とさせるシックなインテリアがすごく気に入った。ビストロとレストランを同時に切り盛りするのはいろいろ大変だろうが、和田シェフの熱い思いは、十分に人を動かす力になっている。
それはお客だけでなく、スタッフにも伝わっている。人手不足、人が定着しない。それが原因で店を閉めるといった話もよく聞くが、「レトノ」と「マチュリテ」はいつもスタッフが変わらない。というか、むしろ増えている。ソムリエの山田くん、アシスタントの小林くん。和田シェフは、細かいチェックをしながら、二人に多くのことを任せている。そのチームワークが店全体に気持ちのいい空気を作っているのだろう。野菜や肉だけでなく、空気も“料理”する。和田さんがオーナーシェフとして成功しているのは、その技術力に違いない。
レトノ
住所:東京都中央区八丁堀2-8-2
電話番号:03ー6228-3138
営業時間:17:30~22:00LO(土曜17:00~21:30LO )
定休日:日曜・祝日
※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。