「森岡書店」が銀座でたった一冊の本を売るワケ

2016/11/05

「森岡書店」が銀座でたった一冊の本を売るワケ

昨年にオープンし、一冊の本を売る書店として注目を集めた「森岡書店銀座店」。約5坪のスペースで一冊の本とそこから派生する作品を展示・販売し、客らを本の世界へと案内する。店主・森岡督行さんが、一冊の本に特化するワケとは?

Yahoo!ライフマガジン編集部

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「森岡書店銀座店」に置いてあるのは、一冊の本のみ

一週間おきに一冊の本とその中に出てくる作品を販売

「森岡書店銀座店」は、本年度のグッドデザイン賞「グッドデザイン ベスト100」のほか、世界でもっとも権威のあるデザイン賞のひとつ、ドイツの「iFDesign Award 2016」も受賞

たった5坪のスペースで一冊の本を売る「森岡書店 銀座店」。1週間で1冊を扱い、そこから派生する作品を共に展示・販売する。かつては神田の古書街で書店員をしていた店主・森岡督行さんが、ここで一冊の本を売るワケを聞きました。


5坪のスペースに広がる本の世界

訪れた人を本の中へと案内

店舗のロゴマークは気鋭のデザイナーが集うTakram design engineeringが担当
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店主の森岡督行さん。「一室一冊がテーマ。ときどき長い会期はあるんですけれども。大体は一週間ですね」(森岡さん)

「森岡書店 銀座店」は、神田の古書街で書店員をしていた店主・森岡督行さんが開店。「一室一冊」をコンセプトにオープンした同店は、1週間おきに一冊の本を扱い、そこから派生する作品を展示・販売する。

本の中身を出したいな、と思っていまして。お花の本であれば、お花、古道具がのっている本であれば掲載されている古道具だったりとか。花屋や古道具屋と、本によってお店が変わるんです。本の著者、編集者の方にも来ていただいて、本の中にお客様をお招きする感覚ですね」と森岡さん。

取材時は斉藤倫氏(文)、小池アミイゴ氏(絵)による絵本「とうだい」の原画展が開催中であった。「今週は絵本のギャラリーのようになっています」(森岡さん)
「とうだい 原画展」では8つの原画を展示するほか、このために描き下ろした花の絵を販売していた
真っ白な空間に作品がはえる。「本の色味も、デザイナーさんが最後まで粘ってこだわりぬいてくれました」と挿絵を担当した小池アミイゴさん
レジカウンターには客らが記入する芳名帳が。「期間が終わったあとに、作家さんにお渡ししています」と森岡さん

取材時は販売されていた絵本「とうだい」の挿絵を手がける小池アミイゴさんも来店していた。「森岡さんは本や物を作る人々にとって灯台のような存在。こういう人がいてくれることで、僕らも作り続けられる」と小池さん。

「うっかりしていると、絵本がこの世から消えてしまうんじゃないかって危機感を持っているんです。そんな時代に一冊を手渡していくことは素晴らしいし、これが未来の本屋の姿なんじゃないかな。僕たちも同じ思いで作っているので、ここで発表できてうれしいです」(小池さん)。

「とうだい」の挿絵を手がける小池アミイゴさん。「絵本は、現場で理解と熱意のある店員さんが一冊一冊を仕入れてくれて、何年もかけてロングセラーが生まれている。僕らはそんな人たちに守られている」(小池さん)

入居の決め手はビルの歴史的背景

昭和の著名なクリエイターが集まっていた「鈴木ビル」

「森岡書店銀座店」には看板がない。それについて「ビル全体が看板のようなものなので」と森岡さん。入居する「鈴木ビル」は東京都の歴史的建造物にも指定されており、和洋テイストのレンガ造りが印象的だ

森岡さん
森岡さん
ここは昭和4年の近代建築で、昭和14年から日本の対外宣伝誌を作っていた「日本工房」が入居していました。写真家の土門拳氏やグラフィックデザイナーの亀倉雄策氏など、当時一線で活躍していたクリエイターが集まっていたんですね。

「日本工房」に参加した人材が、戦後の日本の出版を牽引していったこともあり、日本の出版の聖地とも言われています。そういった歴史的背景のある場所で、いま展示をすることは意味があるだろうというのが決め手でした
ビルの歴史的惹かれたと共に、古書店員のころから対外宣伝誌を集めていたというのも入居の決め手とのこと。「ある意味で原点回帰ですね」と森岡さん
「昭和4年に建ったこのビルには、日本でもヨーロッパでもない、独自のデザインを追求していた痕跡が感じられます」(森岡さん)
建物には引っかき模様のスクラッチタイルが使われている。旧帝国ホテルの建造をきっかけに、昭和初期にこれを使った建物が多く建てられた
森岡さん
森岡さん
店舗の広さは5坪。コンセプトの「一室一冊」を実現するにはちょうどいいかなと。内装はほぼそのままなんですが、展示スペースの床の比率はもっとも美しいとされている黄金比にこだわりました。どんな書籍も、空間と調和するようにという思いがあります
展示スペースの床はピラミッドやレオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」にも取り入れられている黄金比。内装はほとんど何もせず、昭和はじめの質感をいかしているそう
ランプなどのインテリアも森岡さんがチョイスしたもの。時折鳴る黒電話の音が心地いい

「森岡書店銀座店」が生まれるまで

人とのつながりから、9年前からの構想が実現

「一冊の本を売る本屋」というコンセプトは、前身となる茅場町店時代からあったという

「2007年ごろには一冊の本屋をやりたいなと考えていたんです」と森岡さんは語る。

森岡さん
森岡さん
2015年まで営業していた茅場町の本屋&ギャラリーで、本の出版イベントも行っていて。その一冊のためにお客さまが来てくださり、著者と楽しそうに会話をしている。出版社や店舗には売上にもなる。そこから、一冊だけあれば他の本がなくても成り立つのでは?と考えはじめました。

−−具体的に動き出したのはいつごろだったのでしょうか?

森岡さん
森岡さん
実は、実現しようとはあまり思っていなかったんです。茅場町の店舗が10年目を迎えるにあたり、次の10年は何か新しいことに取り組みたいなと考えていたときに「一冊の本を売る本屋」ってやっぱりいいなぁと。

そんな時、ロゴマークを担当してくれたtakram design engineeringの渡邉康太郎さんから連絡をもらい、スープ専門店「Soup Stock Tokyo」などを手がける株式会社スマイルズの遠山正道さんにプレゼンする機会があって。そこから急速に準備が進みましたね。遠山さんがいなかったら実現しなかったと思います。
「遠山さんが社長の株式会社スマイルズから出資と融資をしてもらいました。ここをオープンできたのは人とのつながりが大きい」(森岡さん)
 海外からの来客多さには森岡さんも驚いたそう。「中国や韓国などのアジア圏をはじめ、アメリカやヨーロッパからも多くの方がいらっしゃいます」(森岡さん)。

−−開店して1年半になりますが、オープン前とのギャップはありますか?

森岡さん
森岡さん
フタを開けてみたら大人気で、予想以上に共感してくださる方が多かった。もうひとつ、海外からの来客が多いのは予想外でした。SNSをはじめ、イギリスの新聞、ガーディアン、NYタイムズなど、大きなメディアが取り上げてくださったことも大きいですね。いつまで続くか分からないですけど(笑)。

「森岡書店銀座店」のこれから

「長い目でみて、これほど多くの人が本に親しんでいる時代ってないと思う。ここも豊かな日本の出版文化の現れでありたい」(森岡さん)

最後に、”これからここをどんな場所にしていきたい?”との問いに1分少々考え込む森岡さん。

森岡さん
森岡さん
日本の豊かな出版文化の現れでありたい。いまはネットも普及していますが、私は本屋がこれほど豊かな時代はないと思っています。日本各地で自分のように小さい本屋がお客さんを集めている。書店の数や売り上げは減ってきていますが、世界中でこれだけ出版文化が盛んで豊かな国はほかにないだろうとも思っていて。

こうやって取材に来てくださることも、とても豊かなこと。これほどメディアで脚光を浴びていて、いい本が出ていて、ここまで多くの人が本に親しんでいる時代ってないのではないでしょうか。これからも、そんな時代の現れでいたいですね
Yahoo!ロコ森岡書店 (銀座店)
住所
東京都 中央区 銀座1-28-15 鈴木ビル1F

地図を見る

アクセス
新富町(東京都)駅[1]から徒歩約2分
宝町(東京都)駅[A1]から徒歩約5分
銀座一丁目駅[10]から徒歩約5分
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

●「森岡書店銀座店」11月のスケジュール
〜11/6(日)/北米最高峰のデナリ登頂の写真集「DENALI」出版記念展(写真家・石川直樹氏)
11/8(火)〜13日(日)/「SIMPLE KIMONO」展(刺繍作家・三原佳子氏)
11/15(火)〜20(日)はイレギュラーでアクセサリーを販売

※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

取材・文=金城和子、撮影=近藤信也

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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