精神科医がみそ汁をカスタムしながら考える「冬季うつ病」のこと

連載

星野概念のめし場の処方箋

2016/11/06

精神科医がみそ汁をカスタムしながら考える「冬季うつ病」のこと

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

寒い時期特有の抑うつ状態に気をつけよう

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

今回は、寒い時期になると特に行きたくなる、深夜も朝も入れる食堂で、規則正しい生活に思いを馳せながら、「冬季うつ病」という季節性の感情障害について考えました。

  

【目次】

1. 深夜に開いて昼に閉まる食堂 
2.「冬季うつ病」について
3. 食堂「おさか」に救われている


1.深夜に開いて昼に閉まる食堂

だいぶ寒くなってきましたね。季節に関係なく高頻度に飲み歩いてしまう僕ですが、寒い時期になると特に、三軒茶屋にある食堂「おさか」のみそ汁でその日を締めたくなります。

・酒豪の肩書きを諦めて

僕はお酒が好きですが、決して酒豪ではありません。でも、酒豪という豪快な肩書きに憧れて、暴飲に挑んだ時期もありました。それで分かったことは、自分はある程度飲むと寝てしまう、つまり結構お酒に弱い、という何とも情けない現実でした。

  

その当時は小田急線沿いの比較的遠方に住んでいたのですが、バンドをやっていたこともあり、下北沢によく行っていました。若かったし、暴飲に挑むというテーマもあったので無茶をしてしまうことも多く、友人とお酒を飲んでいて気がつくと始発の時間、ということもしばしばでした。

  

酩酊していたのではっきりとは覚えていませんが、友人の話によると、毎回帰りの電車に乗り込んだ瞬間に深い眠りに入っていたそうです。起こしてもすぐ寝るので、友人も途中の駅で降りてしまいます。そして

1度目に目覚めると、終点の箱根湯本。
        ↓
2度目に目覚めると、逆の終点の新宿。
        ↓
3度目はまた行き過ぎて、小田原。
        ↓
そして4度目、ついに自宅の駅、
        ↓
と思いきや、まさかの最初の乗車場所、
下北沢!!

数時間かけてたくさん移動したはずなのに同じ場所……。
「孫悟空 on 釈迦の手の平」状態です。

  

こんなことを何度か繰り返していた僕ですが、ついに釈迦の手の平から抜け出す時が来ました。

しかし、それは更に不思議な現象で、なんと、下北沢から乗ったのに、起きたらそれまで行った事もなかった立川駅のベンチにいたのです。

  

立川駅は小田急線沿線ではありません。また、下北沢駅と立川駅を直接結ぶ電車は存在しません。

つまり、僕は知らない間にどこからか乗り換えて、行った事もなかった立川駅に到着し、そこのベンチで寝ていたのです。

  

釈迦の手の平から抜け出したはいいものの、三蔵法師にも仲間にも出会うことなく、一人で東京の西側に寝ながら向かうという、活劇感の全くないひとり西遊記。それ以来、僕は暴飲に挑む事をやめました。

  

・みそ汁とTKG

それから数年間、相変わらずお酒は飲むものの、暴飲はせずに過ごしていました。しかしある時、三軒茶屋で先輩と飲んでいた時に飲み過ぎてしまいました。

(まっすぐ帰れるだろうか……)

気づくと朝。フラフラしながら朝日の眩しさに少し戸惑うこの感じ。これは危ない!

内心焦りながらも、外見は酔っ払ってるだけの僕に先輩が

「ホッシー、みそ汁とTKGキメてかない?」

「え? TKG?」

  

一瞬「Tetsuya Komuro Group」かと思いましたが、「小室」につくのは「ファミリー」だし、みそ汁と小室ファミリーって意味が分かりません。

  

聞いてみると

Tamago Kake Gohan(卵かけごはん)

とのことでした。

 

その頃まだ、タレントのDAIGOは有名人ではありませんでしたが、DAIGOを知っているいまの僕が当時を思い返すと

NSRK!(なんだよその略し方!)

と言いたくなります。

そんな流れでその日の朝方、先輩に連れられるがままに行ったのが食堂「おさか」です。

  

・食堂「おさか」で改心

早朝にチェーン以外の食堂が開いていることにやや違和感を感じていましたが、店内は、狭いものの何となく居心地の良い雰囲気。そして「しーちゃん」という愛称で呼ばれるおかみさんのサバサバ感。なんだか三軒茶屋というお洒落な街にいることを忘れてしまうほど気疲れしないお店でした。

メニューには、お酒もあるのですが、目を引くのは色々な定食やカレー、そしてどくだみ卵のTKGなど、とても多彩な食事メニュー。

 

なんでも、開店が22時で、翌日の昼過ぎまで営業しているというかなり特異な営業時間で、僕らのように飲んだ後の締めが目的の人もいれば、朝食を摂りに来る人もいるようです。

僕も何となく、飲みの延長というよりも「朝食」という雰囲気になって、その日はTKGと金目鯛の干物定食を頼みました。

  

・みそ汁をカスタムできる!

ここでまたびっくり。

定食にはみそ汁がついてくるのですが、運ばれてきたのは透明なすまし汁でした。

そして同時に5種類の味噌が運ばれてきたのです。すまし汁にその味噌たちを好きなように入れて、カスタムみそ汁をつくるというシステムでした。

仙台、山形、麦こうじ、信州、八丁……

どれにしようか。

仙台、山形、麦こうじ、信州、八丁……

呪文のように繰り返しながら考えているうちに全種類入れてしまい、相当な失敗作、いや、しょっぱい作を泣きながら飲みました。

  

それ以降、「おさか」に行く時は、みそ汁づくりが楽しくなるとともに、元々のすまし汁のコク深い出汁がとても美味しいことに気がつき、味噌は加えすぎないように気をつけています。

僕はまだ調査不足ですが、みそ汁には二日酔い予防作用もあると言いますし、朝食気分に切り替わるというのも良かったのか、その日は電車でも寝ずにまっすぐ帰れました。

そして、朝までなんて飲んでいないで、朝食に美味しいみそ汁を食べるような規則正しい生活をしようと心に誓いました。

  

2.「冬季うつ病」について

「冬季うつ病」とも「季節性感情障害」とも呼ばれる病態があります。

これからの季節に気をつけるべきこの病態は、規則正しい生活と密接に関係があります。

・「冬季うつ病」の主な症状

「冬季うつ病」とは、冬に向かうにつれて

①ゆううつな気分で悲観的になる。

②やる気がなくなって、外に出るのも億劫になる。

③疲れやすくなる。集中力がなくなる。

④普段よりも眠気が強く、寝すぎてしまう。

⑤甘いものなど、炭水化物がいつもより食べたくなる。


などの症状を主に呈する病態です。

つまり、寒くなってきた頃に、普段の自分よりも明らかに、どんよりしたりダラダラした気分になると言えます。

これ以外に不安などの症状が強くなることもあります。そして、春の訪れとともに改善することが多いというのも特徴的です。

・「日照時間」が関係!?

この病態には「日照時間」が大きく関係していると言われています。

冬に向かうにつれて日の出が遅くなり、日が照っている時間自体が少なくなります。

すると、体内時計の日中活動スイッチが入るのが遅くなります。

 

そうなると、

・夜に睡眠を誘うホルモンのメラトニン

・日中に活動的にさせるホルモンのコルチゾール

・日中や夜に起こるはずの体温の変化

などが遅れることになります。これによって先ほどの①〜④ような症状を呈するのです。

・炭水化物が食べたくなる!?

また、一般的にうつ病の原因の大きな一つと考えられている「セロトニン」という神経伝達物質も、日照時間が短くなる冬季に働きにくくなります。

「セロトニン」の前駆物質「トリプトファン」という、体内では十分に合成できない必須アミノ酸がありますが、

「トリプトファン」と「セロトニン」、そして先ほど挙げた「メラトニン」は、それぞれの前駆物質で、

「トリ」⇒⇒「セロ」⇒⇒「メラ」

というように出世魚のような関係性になっています。

つまり、セロトニンの働きを強化するにはトリプトファンという必須アミノ酸を摂取し、効率的に働かせることが必要になります。そして、それを助けるのが炭水化物であると言われています。

このために、セロトニンが働きにくくなると、それを補おうとして「炭水化物飢餓」と言われる、炭水化物がとりたくなる⑤のような症状を呈します。

・「冬季うつ病」の対策とは?

「冬季うつ病」と言える病態、またはそれっぽい状態への対策は何かというと、

太陽光を早い時間に浴びること

です。

  

目の網膜に明るさセンサーの役割をする細胞がありますが、その細胞が朝の光をキャッチすると体内時計がリセットされます。

人間の体内時計は約25時間周期と言われているので、24時間周期で生活を送るには、朝の光でリセットする必要が元々あります。そして、体内時計が病的に遅れている場合にもリセットの効果はあります。

 

また、目の明るさセンサーからすると、室内よりも屋外です。かなり明るいデパートなどの照明よりも、曇りの日の外の方がずっと明るく感じられることが分かっています。

つまり、年間通して、

毎日ある程度決まった早い時間に網膜に太陽光を浴びて、体内時計が遅れることを防ぐ

ということが重要なのです。

  

3.「おさか」に救われている

最初に「おさか」に行った後に立てた「規則正しい生活」の誓いは、しばらく頑張って徐々に崩れていくというのを何度か繰り返しています。

  

誓いが緩くなり、生活が不規則になった頃にまた「おさか」に行き着き、また同じ誓いをするのです。

まさに早朝の朝日を浴びながら。

 

星野概念(ほしのがいねん)

星野概念(ほしのがいねん)

精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

権田直博(ごんだなおひろ)

画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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