衣類からカメラまで! 「つづら」は現役の収納BOXだった

衣類からカメラまで! 「つづら」は現役の収納BOXだった

2020/04/18

衣装ケースにセーターをぐいぐいと押し込みながらふと考えた。昔の人はどうやって収納していたのだろう。日本の収納といえば「葛籠(つづら)」がある。昔話で舌切雀がお爺さんに渡したアレだ。調べてみると、今も日本橋でつづらを作り続けている専門店を発見!ということでお店に足を運んでみた。

HOUSTO おウチの収納.com

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江戸で庶民に愛された収納BOX

通常のつづらの他に、文箱として使う小さな「手文庫つづら」や、なかで二段重ねになっており、小物などを分けて収納できる「掛子付つづら」など、暮らしの道具らしい工夫を感じるさまざまなタイプがある

現在の一般的な収納家具である棚やタンスが一般の家庭に普及しはじめるのは、明治時代から。それまでの主流は、箱にフタをする形状の「つづら」。当時の人びとは数少ない持ちものをつづらに収納し、部屋の片隅に重ねていたのだとか。

その中には何をしまっていたのだろう?

お店に並べられていた、つづら。納品前のもの

基本的につづらには大、中、小があり、幅はどれも37センチほど。なぜ幅がすべて一緒かというと、主に着物を収納していたから。収納のサイズを知るだけで、生活スタイルが見えてくる。

150年の伝統を物語る道具の数々

作業場である畳の上で漆の片付け作業をする6代目の岩井良一さん

今回お話を伺った、「岩井つづら店」は、日本橋の一角にあった。ガラス戸から中を覗くと、静かに作業する職人さんらしき男性が見えた。あの方が岩井さんだろうか。思い切ってガラス戸を開ける。こんにちはぁー。

「はいはい」と、思いのほか陽気な声で迎えてくれた笑顔の男性は、岩井恵三さん。当主の弟さんだ。一段上がった作業場にいるのが、6代目の岩井良一さん。

岩井つづら店の創業は、明治初期。150年の歴史を持ち、現在は岩井良一さんがその歴史を受け継ぎ、一つ一つ手作業でつづらを作り続けている。

長年使われてきたつづらづくりの道具たち。その厚みや色からは深い趣を感じる

つづらは竹で編んだ籠に和紙を貼り、柿渋と漆を塗って仕上げるのだが、この日はちょうど漆を塗り終わったところ。道具を片付けながら話を聞かせてくれた岩井さんが何気なく使っているその道具、なんだかすごく趣がある。

いつから使っているのか尋ねると「先々代ぐらいからかなあ」という年季の入った代物。

漆を塗る「漆刷毛」も専門の職人によるもの。すり減ったら繰り出す仕組みになっていて10年ほどは使えるのだそう。職人の仕事には職人の道具が使われるのだ。なんともロマンがある

使い続けるうちに漆が重なり、分厚くなった作業台。漆を入れる器も同じく、最初はわっぱほどの薄さだったものが、ぽってりとした厚みに「育って」いる。まさに岩井さんが続けてきたつづら作りの歴史そのものではないか。

使い慣れたつづらは直して使い続ける

店の天井で乾燥を待つつづら。竹の編み目になんとも風合いがある。よく見ると、編み目の違うものも混ざっている

「このつづらは呉服屋さんから直しを頼まれたものです。反物を入れるから、うちで作るものより深め。自分のところで使ってきたものが使いやすいんでしょうね」

使うものに合ったサイズで、使い慣れた収納道具だからこそ、壊れたら直して使う。なるほど、合理的だ。

常連さんがいるのか聞くと「そうだね…。先代がつくったつづらを、子どもにあげたいからと修理を頼まれることはあるかな」という岩井さん。そう、つづらは丈夫なので「お母さんが子どもにあげるぐらいは大丈夫」というぐらい長持ちするもの。

一生のうちに一度買うかどうかという立派な収納家具なのだ。

どんなものでも小粋に収納

つづらは頑丈そうな見た目のわりに、手にとると驚くほど軽い

つづらに使われている弾力のある竹は丈夫で通気性がよく、また柿渋には防虫・防カビ効果があり、衣類の収納には理想的。

「今でも婚礼用に着物を入れたり、スカーフやカメラを入れると言う人もいましたね」

ほかにもペット用品の収納に使ったりと、幅広く使えるつづらなのである。そして岩井さんが「部屋の飾りにもなるからね」と言う通り、現代の収納家具にはない粋な存在感は、唯一無二のものだ。

手彫りしていた当時の型紙。細かい線まで綺麗に彫られている

お店では、別注で家紋や名前も入れてもらえる。自分だけのオリジナルのつづらは、ものとしても愛着が湧き、いつまでも大切に使えそうだ。紋入れは一つひとつ型紙をつくり、着色する。

「昔は型屋さんがすべて手彫りしていた」という古い型紙を見せてもらったところ、丈夫な渋紙に美しい家紋が切り抜かれ、これもまた職人技を感じさせるものだった。

ここ東京人形町で、つづらを作り続ける意味

若い人たちが「つづらづくりを教えてほしい」と岩井さんのもとにやってくるのだそう

岩井さんが家業を継いだのは、32歳のとき。そのきっかけは「サラリーマンがつまんなくなって」と冗談めかして言う朗らかな岩井さん。

とはいえ「親父と爺さんが二人で店をやるのを、それはもう小さい頃から見ていましたね」という技術は、今はもう少なくなったつづら職人の技を後世に伝える貴重なもの。

「岩井つづら店」は日本の伝統の収納家具であるつづらを守る拠点でもあるのだ

「つづらっていうものを広めたいという気持ちもありますし、日本の文化でもあると思うから、残したいですね」と、若い人への指導にも積極的な岩井さんは、この場所で「つづら屋」を残すことの大切さも感じている。

「うちはまだ日本橋にあるから、いろんな人が来て注文してくれるけど、若い人が地方でやるとなると、営業が大変だと思う。この店がここにあれば、注文をまわすこともできる。続けていくのはやっぱり大変だけど(笑)。」

そもそも収納って……

職人によりひとつひとつ手作りされたつづらは、親から子に受け継ぎ、壊れたら直して使い続ける。直して使うという発想すら失われつつある現代では、なおさらその存在が輝く気がする。

何より変わったのは、収納への考え方。これまでは「とにかく効率よく収納」と、隙間があればものを詰め込む。それが賢い収納だと思っていた。

知識の泉のような岩井さんのお話は、いくら聞いていても飽きない。つづらの歴史や制作の舞台裏をお聞きでき、すっかりつづらに魅了された次第である

しかしつづらの収納は、言ってみればその真逆。ひとつのつづらに入るのは、着物が5、6枚。大切なものだからこそ、生地が傷まないようゆったりと収納する。そもそも好きで持っているものだから、こうやって大切に収納するほうが、はっきりいって正解だ。

ためしに自分の家につづらを置くことを想像してみると、まずはあの一角を掃除して、あれはいらないから捨てて……と、改善点が山ほど湧いてくる。どうやら私は隙間収納の技術を磨く前に、「定位置を与えたいもの」を考え直す必要がありそうだと気付いた取材だった。

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