“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第15回は 。
犬養 裕美子
レストランジャーナリスト
圧倒的に味が違う“放血神経締め”の魚
初めてここの蒸し魚を食べた時の衝撃は忘れられない。
それは長崎五島列島のカサゴだった。丸ごと蒸してネギを添えたオーソドックスな広東料理だったが、テーブルで骨を外して食べやすくとりわけてくれる。サービスの手際の良さも素晴らしかったが、ホロリと取れる身の美しさ、そして口に含むとほんのり甘いカサゴの味わいが口いっぱいに広がった。
それは刺身でも、焼き魚でもない、蒸すという中国料理の調理法だからこそできるジュ―シーなおいしさだった。鮮度が違う、と思ったら「うちに届いて今日で6日目です。2週間は十分に熟成させておいしくします」とオーナーシェフの宮田俊介氏。こんなことが可能なのは魚の処理の仕方にある。
点心、紹興酒…中国料理の魅力を広げる
日本の魚を扱う技術は世界でもっともていねいで繊細という定説がある。特に死後硬直を遅らせる“神経締め”という技術は鮮度を保つ上で重要な工程だ。「うちの魚は、さらに鮮度にこだわる業者さんから“放血神経締め”という手のかかる処理を施して送ってくれるんです」。しっかり血抜きをした上で締めるというひと手間が別の次元のおいしさを創り出す。
メニューを見ればオニオコゼ、イシカキダイ、クロホシフエダイ、グレ、アカハタなど関東では聞きなれない魚がズラリと並ぶ。海鮮が売り物の広東料理とはいえ、このバラエティさは日本でなければ、そして宮田シェフのように魚のクオリティにこだわらなければたどりつかない。さらに言えば、丸ごと一匹で2000円から4000円(3~4人前)の値段では到底出すことはできないだろう。
「この値段で出すのは正直採算的には厳しいですけど、この味を知ってしまうと他の魚を使う気になれません。だからと言って、魚だけ高くしても他の料理と釣り合わない。とにかくこのおいしさを知ってほしいんです」(宮田シェフ)
魚の話でテンションが上がってしまったが、落ち着いてこの店全体を見まわしてみよう。
ロケーションは中野駅から14~15分、高円寺駅から17~18分。歩けばけっこうな距離だ。早稲田通りに面した入り口は看板以外はシンプルなドアだけで、初めてでは見過ごしてしまいそう。しかもドアを開けても、店の全容が見えるのはさらに奥。手前にはボックス席が2つ、店はさらに奥という複雑な造り。「ビル自体がL字型で。奥は意外に広く、個室1を含め28席もあるんです。何とか席数を少なくしようと考えてこの造りになったんですが」。当初は奥さまの可奈さんと二人でやる予定だったが、さすがにこの席数では、キッチンはシェフ、サービスは3名という体制となった。
料理はシェフ一人、といっても実は可奈さんも元料理人。同じ調理師学校を卒業し、可奈さんは点心師として活躍してきた。メニューにはシェフと二人で考えた点心が豊富に揃っている。また、可奈さんは紹興酒やワインの担当でもあり、料理に合わせた楽しみ方を提案してくれる。
「紹興酒も地方によって甘い、酸っぱい、さっぱりなどいろんな味があるんですよ」(宮田シェフ)
比較的早く出てくるおつまみや前菜とお酒を楽しみながら、メインの魚や肉で盛り上がり、あとは〆の麺飯(夜の量は少な目)、デザートまで好きなように楽しめる。アラカルト中心だが、広東料理の店ならお決まりのフカヒレやアワビなどの高級乾物料理は、レギュラーメニューにはない。
「海鮮にこだわった店をやりたかったので…。もちろん事前に予約を頂ければお出しできます」(宮田シェフ)
最初はふつうの中国料理店と違うスタイルに少し戸惑うが、魚好きには、まさに「目からウロコ」。こんな中国料理、魚料理もアリです!
Sai(サイ)
住所:東京都中野区野方1-6-1
電話番号:03-6454-0925
営業時間:11:30~14:00LO(土・日12:00~)、18:00~21:30LO
定休日:月曜、日曜不定休
予約:要予約
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