精神科医が独特なクレープ屋で考えた「独自性」の培われ方

連載

星野概念のめし場の処方箋

2017/01/20

精神科医が独特なクレープ屋で考えた「独自性」の培われ方

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

一見不便だったり、揃っていないような雰囲気は、魅力の種かもしれません。

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

何か、一般的には不足しているように思える環境で物づくりをすると、その工夫によって独自性が培われる気がします。そんなことを感じさせる西新宿の独特なクレープ屋さんに行ったら、2016年12月に見学した福岡の福祉作業所を思い出しました。今回はそんな話です。

 

【目次】
1. 独立国家的なクレープ屋の発見
2. 福祉作業所を見学したこと
3. クレープ屋さんから作業所見学を想起した理由


1.独立国家的なクレープ屋の発見

・甘い食べ物を求めて

甘い食べ物が好きです。甘い飲み物は、お酒でもソフトドリンクでもほとんど飲みませんが、なぜだか食べ物は好きなのです。

ある日、この連載でもご紹介した南インド料理屋「コチンニヴァース」でランチした時のこと。スパイス料理の後だからか、ただの僕の嗜好か、やはり甘いものを食べたくなって、大江戸線西新宿五丁目駅の周辺を散策していると、「余った土地」のような小さな三角地帯にクレープ屋さんがあるのを発見しました。それが今回ご紹介する

「Creperie Shells Lai(クレープリーシェルズ レイ)」

です。

このお店、いわゆる路面店的な佇まいではあるのですが、僕が知っている他のクレープ屋さんとは一線を画す謎の異国感が漂っています。

   

異国といっても、具体的にどこの国というのがパッと思い浮かぶわけではなく、ただとにかく、新宿の路上に突如として出現した独立国家のような雰囲気を発しているのです。

    

この独立国家感は何なのか。それを確かめるべく、実際にクレープを買ってみることにしました。

・キッチンカーがキッチン化

まず気になったのは外観。色々な装飾が施されていて一見分かりにくいのですが、よくみると車のナンバープレートがついていたり、タイヤが少しだけ出ていたりして、店舗自体がキッチンカーを母体にしていることが分かります。

でも、そのキッチンカーは固定され、既に「カー」ではなく、キッチン「化」されています。移動するはずのキッチンカーが母体なのに、そこに固定された店舗が存在しているのです。

この固定された店舗化によって、僕がこれまでクレープ屋さんに感じていたちょっとした不足感が解決されていることが分かりました。

まぁ前提として、専門家でもない、ただのクレープ好きな奴が何言っているんだ、という話もありつつ。

・どこで食べるか問題

まずは、「どこで食べるか問題」です。

クレープ屋さんて、食べる場所に困るイメージがありませんか?

   

歩き食べをすれば良いのですが、その気分ではない、その場で食べたい人にとって、これは由々しき問題です。

    

この問題に対して、「クレープリー シェルズ レイ」では、固定されたキッチンカーに足場を増設する形で、峠の茶屋のようにイートインする場所が用意されています。しかも可愛らしく装飾されて。

   

「冬は寒くない?」

という心配もなんのその。そこには自由に使えるストーブが用意されています。

さらに、その場所には小さなモニターが設置されていて、まさかの

「ドラえもん STAND BY ME 上映中」!!!!

あの「ドラ泣き」映画が放映されているのです!

クレープを食べながら「ドラ泣き」できるお店なんて聞いた事ありません。

    

そこに置いてある、お客が書き足していくメッセージノートには、見知らぬ画伯による数々のドラえもんのイラストが無造作に描き連ねられています。

    

それはもう、ただの青い丸だったり、

   

なぜかおかしな髪型だったりする、

    

子供か天才しか描けないようなドラえもんも数多くあり、鑑賞しているだけでも楽しい気分になります。

   

そして壁には、平仮名覚えたてのようであり、アート作品のようでもある、味わい深い平仮名の文字列

「ここわす 
ごいた 
   のしい」


というメモも貼られていて、
「うんうん、そうだよな!」
と共感してしまいます。

   

・ゴミはどうするの? 問題

そんなこんなで食べ終えた後、やってくるのは「ゴミはどうするの? 問題」です。

外に開けているクレープ屋さんにとって、無防備にゴミ箱を置いておくと、関係ないゴミを捨てられてしまう恐れもあるでしょうし、

   

なかなか設置が難しいと思います。

でも、食べ終わった後の包み紙は捨てたい。どうしたものかと店舗内を見渡すと、木箱がありました。そして、その取っ手のような小さな穴が空いた部分、そうまさにクレープの包み紙くらいしか入らなさそうな小さな穴のところに手作りの装飾で

「ここに」

と表示されていました。実はそこがゴミ箱だったのです!

   

これならゴミを捨てて帰れるし、万が一でも他のゴミを捨てる気にはならなさそうです。だって穴が小さいし。

   

他にも、新宿という土地柄か、英語のメニューがあったり、所々に食材などについて詳しい説明書きがあったりと、独特な工夫に満ちた店舗は、いるだけで何だか楽しい空間でした。

2.福祉作業所を見学したこと

このクレープ屋さんの独特な工夫を感じて思い出したのは、友人の勤める福祉作業所を見学した時の体験でした。

・福祉作業所とは

僕が見学したのは福岡県の

「工房まる」

です。

ここでは、身体的もしくは知的に障害のある方の抱える困難さを豊かなものに繋げるために、様々な活動が行われています。

・障害とは

障害とは、何かしらの理由があって、一般的な社会的水準を満たす生活を送ることが困難になっている状態です。

例えば知的障害は、先天的または後天的な何かしらの要因で、知的水準が永続的に低い状態です。

それによって、
知識や理解力の面
コミュニケーションの面
実用的な自己管理能力の面
などで、一般的な社会的水準を満たす生活を送るのが困難になることが多くあります。

僕は数年間、2016年7月26日に事件のあった、知的障害の方が入所している施設「津久井やまゆり園」で非常勤の嘱託医をしていました。

今回の話題にも関連する詳しい文章を書いたので、興味のある方は

を読んでみて頂ければと思います。

身体的障害の場合も同様に、先天的または後天的な何かしらの要因で、身体的に制限を受ける状態です。

・「工房まる」では

僕が見学した「工房まる」では、「木工」「絵画」「陶芸」の3つの作業班に分かれて活動していました。

ただ、活動といっても、利用者の方みなさん、それぞれ「障害」を抱えていらっしゃるので、全ての作業を簡単に行うことは出来ません。

   

そこで驚いたのは、活動を支援する福祉職員の方々が、それぞれの方に合った作業の方法を根気よく模索し、提案し続けているということでした。

   

身体的な障害を抱える方には、それに合った道具を使ったり、やり方を見つけたり。

知的や発達の障害を抱える方には、興味を持てる場所を考えたり、集中力が続くようにカスタム作業表を作成したり。

そして、それぞれの非常に独特な工夫によって行われた作業で制作される作品は、少なくとも僕にとっては全て、他に類を見ないようなもので、とても心打たれる作品ばかりでした。

実際にその作品性を買われ、アーティストとして大きな企業の仕事を請け負っている利用者さんもいらっしゃるようでした。

3.クレープ屋さんから作業所見学を想起した理由

・場所の適性

クレープ屋さんがあるのは、決して広くない「余った土地」のような三角地帯です。場所のポテンシャルを考えると、「イートイン出来るクレープ屋さんを作る」という場所の、一般的な水準を満たしているようには思えません。

つまり、イートイン出来るクレープ屋さんを作るには「広さ」という「障害」を抱えた場所だったと思うのです。

   

・工夫で補ううちに独自性が生まれる

でもきっと、そこをどうにか素敵なお店にするように様々な工夫をして、結果、キッチンカーをキッチン化したり、足場を増設してイートインスペースがつくられたのではないでしょうか。

実際お話をうかがったわけではないので、僕のファンタジーかもしれませんが、お店をつくられた人の工夫が溢れているように思えてなりません。

楽しいお店をつくろうという試行錯誤がなければ、「ドラ泣き」映画を流す発想は出て来ないと思うし、あんなイキなゴミ箱を置かないはずです。

   

工夫し、試行錯誤した結果、他に類をみない魅力のあるお店が出来上がった。

そういった独自性を感じて、僕は「工房まる」の方々の作品を連想したのだと思います。

そして、西新宿の通りに突然そんなお店をみつけたので、独立国家のようだ、と感じたのでしょう。

   

みなさん、この工夫のつまった独立国家のクレープを食べながら、是非「ドラ泣き」を体験してみてください!

    
星野概念(ほしのがいねん)

星野概念(ほしのがいねん)

精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

権田直博(ごんだなおひろ)

画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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