人気クリエイターに聞く、今注目の『ウェルビーイング』とは?

人気クリエイターに聞く、今注目の『ウェルビーイング』とは?

2020/08/05

日産セレナのキャッチコピー「モノより思い出」などを手がけ、現在は町おこしやプロデュースなど数々のプロジェクトに関わっている「pool」代表の小西利行さん。新型コロナウイルスの影響で様々な価値観が変わりつつある今、注目の「ウェルビーイング」について話を聞いてみた。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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立川の地域性を生かすことを選んだ「ウェルビーイングホテル」

2020年4月10日、東京・立川に、商業施設・エンターテインメント施設・オフィスなどで構成された複合施設「GREEN SPRINGS」がオープンした。そして6月8日に開業となったエリア内の「SORANO HOTEL(ソラノホテル)」は、従来のホテル像を覆す2020年注目のホテルとなっている模様。GREEN SPRINGSにおいてコンセプトの立案を担当した、広告企画や都市開発などを手がけるクリエイティブカンパニー「POOL inc.」のCEOでクリエイティブディレクターである小西利行さんに話をうかがった。

「GREEN SPRINGS」の開発にあたってコンセプトの立案を担当
小西利行(POOL INC.FOUNDER)

小西利行(POOL INC.FOUNDER)

クリエイティブ・ディレクター/コピーライター

小西さんの肩書は、クリエイティブ・ディレクターだったりコピーライターだったり。特にコピーライターといえば、広告などにおいて簡潔な文(コピー)で広告対象を読み手の心を揺さぶる「言葉のプロフェッショナル」というイメージだ。そんな小西さんがなぜ今回、ホテルのコンセプト作りを担当することになったのか。

小西利行さん
小西利行さん
「コピーライターは、かつては広告で言葉を扱うことが多かったですが、今は飲食店やホテル、街開発をお手伝いすることも多い職業なんです。今回のプロジェクトではSORANO HOTELのコンセプトやブランディングを担当してほしいと依頼をいただきました。つまり『こんなホテルにしよう』というもの。これは、従来の役割と特別変わってきているわけではなくて、あくまで『言葉で新しい価値や仕組み』を作るのがコピーライターの仕事です」
高く、意匠を凝らした天井が特徴的なロビー

小西さんによると、かつてのコピーライターとしての役割は、広告などの媒体を通してユーザーへ届けるものが主だったが、今ではそれよりもさらに踏み込んで、ホテルや街と行った場所や商品そのものの方向性を決定付ける役割を担うこともあるという。では、このたび誕生したSORANO HOTELの開発にあたっては、小西さんはどんなことを考えたのだろう。

小西利行さん
小西利行さん
「立川って、東京では珍しくビルが乱立していなくて空が広いんです。ホテルの開発にあたって、そうした立川という地域の個性に見合ったものを目指すことを提案させてもらいました。そんなホテルを内包するGREEN SPRINGSも含め、どんな場所であるべきか考えた時に浮かんだのが『ウェルビーイングタウン』と『ウェルビーイングホテル』というコンセプトです」
Zoomを使って小西さんにインタビュー

身体的に健康な状態を指す「ウェルネス」という言葉がある。一方、GREEN SPRINGSが掲げた「ウェルビーイング」は、体だけではなく、精神的・社会的にも良好な状態を指す言葉だ。

小西利行さん
小西利行さん
「ウェルビーイングとは、心にもからだにも健やかであること。宿泊することでウェルビーイングな状態になれる場所にしようと提案し、建設業者はホテルの設計、ホテルスタッフはオペレーションやアイテムなど、細部にまでこだわったホテルが完成しました。例えば、ホテルは昭和記念公園に隣接しており、81あるすべての客室の窓が大きくとられていて、公園やビルにほとんどじゃまされない街並み、富士山が見えます。最上階のインフィニティプール(外縁が存在しないかのように景色を眺望できるプール)からは地平線と空が一体となった絶景が。都内にいながら、自然と一体となった景色と、インフィニティプールによる非日常な景観を楽しめます。また、レストランの食材は、土から作りなおして野菜を育てるなど、関係者の皆様が隅々までウェルビーイングを意識し、このホテルが作られているんです」
ラグジュアリーな雰囲気が味わえるインフィニティプール

スタッフや環境にとっても心地よい「ウェルビーイング」

どこまでも「ウェルビーイング」を意識したGREEN SPRINGS。そのためには、コンセプトが一部の人だけではなく、建設業者からホテルスタッフまで、みんなに浸透していなければなし得なかったと小西さんは言う。

小西利行さん
小西利行さん
「新しい施設やサービスが登場した際、世の中に多く出回るのは名前やコンセプトですが、それは必ずしも利用者に伝えるために存在するわけではありません。SORANO HOTELのプロジェクトがスタートするにあたって、コンセプトを浸透させるための10カ条を提案したりもしました。そういったことで、ウェルビーイングホテルがどんなものかを共有できれば、建設スタッフが『この空間はこのくらいの明るさでこういうサイズであるべき』とか、スタッフが『こういうサービスをすべき』と判断できるようになる。僕の役割は、サービスを受ける側だけでなく、建物を作る人やスタッフが同じゴールを目指すための指針を設定するのも大切なんです」

また、SORANO HOTELのベッドは、主流のコイルマットレスではなく、有機物など未使用の高反発ウレタンフォームマットレスを採用している。この選択にも、小西さんが生み出したコンセプト「ウェルビーイングホテル」が息づいている。

SORANO HOTELのスタンダードタイプの客室「プレミア スカイキング」
小西利行さん
小西利行さん
「マットレスやアメニティは、各部門のスタッフが時間と労力をかけ選定してくれました。コイルマットレスというのはリサイクルができず産業廃棄物なんです。一方、ウレタンフォームマットレスの場合は、寝心地(品質)がいいのはもちろん、リサイクルが可能で寿命も長い。環境にも優しいし、寿命が長いということは、マットレスを入れ替える頻度が下がってスタッフの負担が減る。スタッフの負担が減ることはサービスのクオリティアップにも直結します」
「環境にも配慮しつつ、こだわる部分はこだわった」と語る小西さん
小西利行さん
小西利行さん
「そして、SORANO HOTELには、ホテルなら当たり前に用意されているアメニティの歯ブラシがなく、宿泊者がふだんから使っているものを持ってきてもらうようにしています。アメニティの歯ブラシのように、毎日消費されて廃棄物を生み出すのは、ウェルビーイングなホテルが目指すところとは異なるからです。その代わりではないですが、スリッパは上質なものを使い持ち帰ってもらうことができる。宿泊者に家で引き続き使ってもらえれば、それも廃棄物を減らすことに繋がりますからね。ウレタンフォームマットレスの採用もその考え方。環境に優しいということで、滞在そのものがウェルビーイングになっているんです。それほどこだわり抜けるのは『ウェルビーイングホテル』というコンセプトが関係者の皆様に浸透し、同じゴールがちゃんと見えているからこそなんです」

これからの時代を考えるキーワードは「効率から愛着」

SORANO HOTELは、新型コロナの影響で5月12日を予定していた開業が延期されることになった。そうして6月8日に改めて開業となったのだが、さまざまな施設が新型コロナにより営業形態やサービスを変化させざるをえない中、SORANO HOTELはそれほど大きな変更がなく開業を迎えたという。

小西利行さん
小西利行さん
「開業のタイミングで予定していたイベントがキャンセルになったものの、それ以外は大幅に変わっていません。例えばこのご時世、ホテルのバーラウンジは三密対策のために席を一つ飛ばしにしたりする必要があります。SORANO HOTELは、GINZA SIXを手掛けたグエナエル・ニコラさんが担当されて、広くてぜいたくな空間デザインが特徴です。中にある『SORANO ROOFTOP BAR』や『IMA LOUNGE』もそう。今のような世界情勢を予想していたわけではないですが、結果的にコロナ禍に見合ったホテルになってますね」

ウェルビーイングをコンセプトとしたことで、自然とコロナ禍に見合ったものとなったSORANO HOTEL。話を聞く中で、結果的にそうなったのには、小西さんが近年掲げる思想「効率から愛着」が関係しているように思えた。そしてそれは、今後のプロダクトを考えるうえで非常に興味深いものだった。

小西利行さん
小西利行さん
「ニューノーマルが叫ばれる今、どんな分野であってもパラダイムシフトが必要になってくるはずです。テレワークといった働き方の変化もそうですよね。でもそれは決してネガティブなものではなく、これまで当たり前になっていたものを覆せるチャンスなんです。『本当にこれが最良なの?』と疑問に思いながらやっていたことも、今なら新たな方法を実現しやすいのかもしれない。そして、これからの時代は『効率から愛着』がキーワードになってくると考えています」
「効率から愛着」は、小西さんが近年提唱してきたキーワード
小西利行さん
小西利行さん
「GREEN SPRINGSに話を戻すと、街づくりにおいて効率を求めるなら、高い建物を建てて細かいものを詰め込んでいく、内包されているホテルも同様の思想で作られる。しかし、そういう場所というのは、結局、愛着を持ってもらえずに廃れていくというのが僕の考えです。どんな分野でも効率化が進んでいるけど、そうやって生み出されたものに対して、多くの人が『味気ない』と感じ始めています。今の時代にこそ『ムダに広いな』といったことが心地よかったりするのではないかと。だからSORANO HOTELでは、非日常感の演出が当然であるはずのホテルを、ロングステイに使えたり地元の人のハレの日に使えたりするのはどうかと提案させてもらいました。今後はプロダクトが長く生きながらえるために、効率化だけでなく、愛着をどう持ってもらえるかを追い求める流れが加速すると思います」

取材・文=井上良太(シーアール)

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