精神科医がオトナなスフレ屋で体験した、慣れない場に馴染むコツ

連載

星野概念のめし場の処方箋

2017/02/01

精神科医がオトナなスフレ屋で体験した、慣れない場に馴染むコツ

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

慣れない場に馴染むコツの一つは
子供がえりです

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

もうすぐ ヴァレンタインデー!! デートスポットとしてオススメできそうなスイーツの森の中でたどり着いたオトナなスフレ屋さんで、慣れない場に馴染むコツを体験しました。

   

【目次】
1. 夢のスイーツテーマパーク
2. 「退行」について
3. ル・スフレでの「退行」
4. ヴァレンタインの甘酸っぱい思い出


1.夢のスイーツテーマパーク

・オトナのスイーツを求めて

前回、独特なクレープ屋さんのことを書いて以来、自分の中でスイーツ熱が再燃し、10年ぶりくらいにカフェでパフェを食べたりしています。相変わらずパフェって美味しいですね。

  

でも、何だか物足りないのです。10年前はこんな違和感ありませんでした。この違和感の原因は何なのか。考えてみたところその正体は

オトナっぽさの不足

  

でした。
よく考えたら自分もどっぷりアラフォーです。20代の時とは色々違います。気がついたらパフェに違和感を覚える年齢になっていたということです。

  

まぁ、10年前も、男一人でカフェに入ってパフェを食べるなんて、周りから見たら違和感しかなかったかもしれませんが、それを自覚するようになってしまったのです。

でも、悲観することはありません。オトナにはオトナのスイーツがあるはずです!

  

グルメな友人に聞き取り調査をしたところ、とんでもなく美味しいオトナなスフレ屋さんがあるとのことで、早速自由が丘に向かいました。

・森へ

向かったのは

『スイーツフォレスト』

ここのキャッチフレーズは

「スーパー・パティシエが贈る、
夢のスイーツテーマパーク」


つまり、スーパー・パティシエの作る、豪華なスイーツに囲まれた、スイーツの森

というわけです!

スーパー・パティシエと言うと、その人の名前を横文字にしただけでブランドになるようなシックでオトナなイメージです。

  

そんな勝手な先入観を持って向かった僕の脳内では、スイーツに囲まれた仮面舞踏会のような、少し怪しくさえあるオトナのテーマパークの絵が描かれていました。

  

・いざ、森の中へ

まずは入り口。クリスマスツリーがトンネルになったような、キラキラに彩られた緑のトンネルの階段を登っていきます。登り切ってみると、テラス席がありました。
目の前に広がる風景はまさかの……

ファンシー!!!!

ピンクの比率が非常に高い外装に、ケーキのお城や、ウサギのオブジェが並んでいます。

  

建物の中に入ってみると、トイレのマークまでウサギです。

  

フォレストを思わせる木のオブジェもありましたが、これもピンク主体。

勝手に描いていたオトナのテーマパークのイメージが音をたてて崩れていくようです。

  

この森の中に本当にオトナなスフレ屋さんはあるのだろうか⁇
まさか騙されたのか⁉︎

アラフォーのおじさんがファンシーな世界に迷い込むなんて、急に知らない星にワープするようなものです。

  

その時の脈拍の早さを思い出すと、今でも119をダイヤルしそうになります。

  

そんな不安に苛まれ、教えてくれた友人に強い陰性感情を抱きかけた僕ですが、何とかめげずに歩を進めてみると、ついに一番奥に

『ル・スフレ』

を発見しました。

・神様の作るスフレ

『ル・スフレ』のスフレは

「神様の作るスフレ」

と言われているそうです。

① 焼き上がるまでに15〜20分

  

② アツアツのスフレの真ん中に穴を開けて、

 

③ ソースを流し込み、からめながら一気に食べます。

  

早く食べないと、スフレの気泡が沈んでしまうのです。まさに

「瞬間」を楽しむ繊細なスイーツ

  

です。

僕が注文したのは

リンゴとカルヴァドス酒のスフレ

爽やかなリンゴの香りと、カルヴァドス酒の、まさにオトナな風味を楽しみながら、気泡が沈んでしまう前に必死で食べました。

この素敵でオトナなジェットコースターのようなスイーツを楽しめた僕は、気づくと「スイーツフォレスト」のファンシーさに馴染み、帰りは他のお店を覗いたりもしながら、楽しくスイーツの森を後にしました。

  

2.「退行」について

今回のエピソードで気づいたのが、

「退行」

の効能です。

これは恐らく、慣れない場に馴染むためのコツになるでしょう。

・「退行」とは

「退行」とは、色々な定義がありますが、一言で言うと

「子供がえり」

  

のことです。

「子供がえり」は色々な要因で起こり、時には病気によるものだったりするので、全てが良いものとは言えませんが、治療的に作用する時があります。

・大人は大人の社会に馴染んでいる

人間は社会的な生き物なので、自分の年齢や性別、属する社会に自分を馴染ませながら生きています。

例えば、僕には、同年代の男性とほぼ共有できるであろう「アラフォーの男」という社会的な感覚があります。

  

この「アラフォーの男」という感覚のまま、カフェでパフェを食べたり、ピンクの比率の高いファンシーなテーマパークを歩くと、そこには違う社会の違和感が生じます。

  

違和感を感じるということは居心地が悪いですよね。

まぁ、居心地の悪い所には行かなければ良いのですが、仮にそこを楽しみたい、つまりその場に馴染みたい、としたら、どうしたら良いのでしょうか。

・「退行」の効能

そういう時は、普段の「アラフォーの男」という大人っぽい自分の感覚を、どうにかファンシーな場所に合わせる必要があります。

普段あまり触れない文化に触れる時は、少しだけ普段の自分じゃなくなる必要があるということです。

 

とはいえ、そんな「自分の殻を破る」ようなことは、大人には簡単にできることではありません。

 

こんな時、一度自分をリセットするような感じで

「子供のように無邪気に、本能的に」

なることが出来れば、心は柔軟になります。

  

一度子供がえり、つまり「退行」すると、「理性」や「プライド」で凝り固まっていた大人の心が、「本能的」「感覚的」な子供のように柔軟になります。

そこから改めて、その場に適応するように振る舞う方が、慣れない場に自分を馴染ませやすいのだと思います。

・飲み会や祭りは「退行」しやすい

普段「社会人」として常識的に振る舞うために、無意識的に理性的に振る舞っている人も、飲み会やコンパ、祭りなどでは、気分が開放的になり、「無邪気」の状態に近づくと思いませんか?

  

これは、飲み会やコンパや祭りでは、騒いでよし、乱れてよし、つまり本能的な自分に「退行」してよし、という雰囲気が強いからだと思います。

このような、「退行」して心が柔軟になる機会を適度に持つことは、心の健やかさにつながるはずです。

3.ル・スフレでの「退行」

ル・スフレのスフレは、素敵でオトナなスイーツですが、思い返せば僕は、このお店で「退行」していたようです。

まず20分程待たなければなりません。

「まだかなぁ、待ち遠しいなぁ」

「あー、もう待てない」

「ついに、キターー!!」

  

この過程で、既に祭り感が始まりました。

そして運ばれてきたら、今度は「瞬間」を楽しむために、ジェットコースターのように夢中で食べなければならない。

「早く食べないと気泡が沈んじゃう!」

「あ!危ない!」

「ギリギリセーフ!」

  

こんな風に心の中で一喜一憂しながら、楽しめるスイーツってなかなかないような気がします。

この一喜一憂の祭り感によって少し「退行」し、心に柔軟性を持てた僕は、帰りはファンシーなテーマパークへの違和感も薄れ、楽しく帰路につけたのでした。

  

4.ヴァレンタインの甘酸っぱい思い出

余談ですが、もうすぐヴァレンタインデーです。

今回、リンゴとカルヴァドス酒のスフレを食べた僕ですが、時期的なことも手伝って、小学校2年の時のヴァレンタインデーを思い出しました。

小学校2年の時、好きだった女子が自宅まで来て

「星野のことは2番目に好きだよ」

と言ってチョコレートをくれました。

  

こうやって書いているだけで胸がキュンとするのですが、今考えると2番目だったのか……。

でも、当時の僕は、好きな女子からチョコを貰えたことで鼻血が出るほど舞い上がり、直後に箱に入っていたチョコレートを全てたいらげました。

  

そして、その数分後、急に意識を失い、母をとても心配させてしまいました。

  

なぜ意識を失ったのか。原因は酩酊です。
その女子がくれたチョコレートが実は

ウイスキーボンボンだったのです……!

  

今回、カルヴァドス酒の風味のスイーツの嗅覚的な記憶と、ヴァレンタイン近くという時期によって、この甘酸っぱい思い出が蘇りました。

これは「退行」とは違う話ですが、女性が生来持つ小悪魔性と、星野少年の本能的で無邪気な行動の悲しいマリアージュが、僕の胸を何だかザワザワさせたので、記さざるをえなかったのです。

  

さぁみなさん、いざスイーツの森へ!!

  

星野概念(ほしのがいねん)

星野概念(ほしのがいねん)

精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

権田直博(ごんだなおひろ)

画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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