精神科医が高尾山の茶屋で体得したストレスコーピング

連載

星野概念のめし場の処方箋

2017/02/27

精神科医が高尾山の茶屋で体得したストレスコーピング

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

星野 概念

星野 概念

精神科医

ストレス対処法は多ければ多いほど、そして、具体的であればあるほど良いですよ

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

もうすぐ春ですね! 僕は今年のお正月に吉田類さんの高尾山登山に同行させて頂きました。そしてその経験から、自分の新しいストレス対処法を見つけました。今回はそんなお話です。

   

【目次】
1. 吉田類さんと高尾山へ!!
2. ストレスコーピングについて
3. 登山が新たなコーピング行動に


1. 吉田類さんと高尾山へ!!

・登山家、吉田類さん

今年は正月から高尾山に登りました。その登山隊(4人でしたが)を率いていたのはなんと、あの呑んべえ界のカリスマ!

『吉田類の酒場放浪記』でも活躍される酒場詩人の吉田類さんでした!!

  

酒の神様!!

でも、『吉田類の酒場放浪記』で吉田類さんを知っている方は、なぜ登山?? と思われるかもしれません。

実は、類さんはとても多彩な顔の持ち主で、その一つが登山家なのです。

当日お会いした類さんは、メガネや帽子こそ『酒場放浪記』の印象のままでしたが、厚い胸板、両手にストック、背中には「類」という刺繍が入ったオリジナルリュックと、まさに上級者の風格が漂っていました。

  

それに対して、初心者の僕はランニングシューズにジーンズ、吸湿性の低いダウンジャケットという、今考えると山をナメてるとしか思えないスタイルでした。いや、実際、気づかないうちにナメてしまっていたのかもしれません。

だって高尾山て、ハイヒールでも登れる、とか、犬の散歩をしている人もいる、など初心者向きの印象がありませんか?

  

でも、今では本気で反省しています。酒の神様にも、山の神様にも懺悔しながら、今回の登山をきっかけに、登山ショップに通い、少しずつ装備を揃えつつあります。

  

・いざ、登山

さて、当日。リフトはすごい行列でした。なんと50分待ち! これは登山本来の辛さとはまた違う、「待ち」の辛さがあるぞ、というムードが漂いかけたその時、

「別の道でいきましょう。そっちの方が日当りも良くて気持ちいいですよ」

  

という、高尾山を知り尽くした類さんからの頼もしいご提案がありました。

我々は言われるがままについて行き、普段はリフトで登る高さを、自らの足で登りました。

確かに、日当りが良くて気持ち良い!

ただ、やや過酷なコースで少しずつキツくなり、気づくと余裕はなくなり、「類」と刺繍が入ったリュックを後ろから凝視しながら無言で登っていました。

  

そんな必死な我々を率いつつ、山の木々の説明などまでして下さる類さん。聞くと、なんと前日(つまり元日です)も、福島県で日本酒を飲みながらのラジオ収録だったらしく、涼しい顔で

「いやぁ飲み過ぎました」

と仰います。

やっぱり酒の神様は違うなぁ、というか、そもそも飲みながらの収録が普通にお仕事になること自体凄い!と、圧倒されながら登ること2時間。

  

山頂からさらに奥に進んだ「もみじ台」にある「細田屋」という茶屋で一休みすることになりました。

・たどりついた天空の茶屋

細田屋で荷物を置いた瞬間、今までの過酷な(あくまでも僕にとっては)行程もあり、大きな達成感を感じました。

富士山も見えるそこからの景色はまさに絶景で、登山初心者の僕にとって、細田屋は「天空の茶屋」に思えました。

  

ここの名物は何と言っても

なめこ汁!!

  

他にも、みそおでんなど、美味しいメニューがたくさんあります。

懸命な登山の末たどり着いた天空からの絶景。

  

なめこ汁やおでんの優しいぬくもり。

  

山の神様のおもてなしを受けているようで、「これを幸せって呼ぶんだろうなぁ」としみじみ考えました。

  

そして、目の前には酒の神様!

  

そうです、もちろん乾杯です!!

  

気づくと『酒場放浪記』のように周りの人に声をかけられ、色々な方々と気さくに乾杯をする類さん。

  

番組の現場にいるようで興奮しました。

「下山に支障が出ないように気をつけて飲みましょう。じゃぁ、とりあえず熱燗にしましょうか」

うおー、飲むなぁ!

  

思いのほか食べ、飲み、そして食べ、そして飲み、十分楽しんだ後、別のコースを使って下山しました。

下山の時は、初心者でも余裕を持って歩ける舗装された道を使ったからか、本当にハイヒールを履いた方や、チワワを連れた方がいました。

  

・山の縦走から酒場の縦走

今回訪れた細田屋は、高尾山から陣馬山へ行く途中にある茶屋で、このように、下山せずに山から山へ進むことを「縦走」というそうです。

我々は下山した後も類さんについて行き、今度は酒場を縦走することになりました。

  

電車も縦走(ま、乗り継いだだけです)し、たどり着いたのは、稲田堤にある「たぬきや」です。

  

ここは多摩川の河川敷にある楽園のようなお店で、

  

俳人としての顔も持つ類さんの句会が開催されることもあるそうです。ここでも類さんは常連さんと何度も乾杯していました。

  

この日に色々なお話をうかがったところ、類さんはヨーロッパで画家として生活されたり、色々な国の山を登ったり、日本でも酒場を渡り歩いたり、俳人として句会を開かれたりと、酒、山、文学など、ジャンルさえも縦走しているような、知識や経験の分厚さに圧倒されました。

  

興味の赴くままに独自の感性で独自の道を開拓してきた男の登り様、飲み様に触れられたようで、とても素晴らしいお正月でした。

  

2.ストレスコーピングについて

・ストレスコーピングとは?

ストレスコーピングとは

ストレスに対して「意図的に」対処すること

です。

「意図的に」とはどういうことかというと

①自分のストレスに気づきやすくなること

②適切な対処法を準備しておくこと


です。

・自分のストレスに気づきやすくなること

何だかモヤモヤしている時、つまりストレスを感じている時はまず、自分のこころがどういう反応をしているのか、出来るだけ把握することが大切です。

何か原因となる事があって
「ストレッサー」といいます)、

結果として生じる反応
「ストレス反応」といいます)

があるわけですが、このストレス反応は大きく分けて

【考え】
「〜〜だろう」「〜〜べき」など、文章で表現できる、頭に浮かぶ考えやイメージ

【感情】
「悲しみ」「怒り」「喜び」など一言で表現できる、こころに浮かぶ気持ち。

【身体反応】
「手が震える」「頭痛がする」「ドキドキする」「涙が出る」など自然と体に表れる反応

【行動】
「休む」「メールをする」など自分の意志で行う動作

の4つがあり、相互作用しています。

例えば、恋人とケンカをしてしまったとして、

「もうあの人はダメだ」「ホント、許せない!」「なんでいつもこうなっちゃうの」
などは【考え】です。

同時に、

「悲しい」「イライラ」「不安」などの
【感情】があったり、

「涙が出てきちゃう」「頭痛がする」などの【身体反応】があったり、

「キツいメールを打つ」「お酒を飲み過ぎる」などの【行動】をしたり

と色々な反応が相互作用しているのです。

自分の相互作用のパターンがなんとなく把握できてくると

  

「頭痛がするな。なんか不安なことがあるのかも」

  

とか

  

「イライラする!このままだとキツいメールをしちゃうかも」

  

など、少し先回りできるようになります。
これがストレスに気づきやすくなることに繋がるわけです。

・適切な対処法を準備しておくこと

次に、ストレスの対処法についてです。
これは大きく分けて2パターンあります。

パターン①

ストレスの原因であるストレッサーに焦点をあてる対処法。

これは根本的な解決を目指す対処法です。

例えば、キツい上司の影響で色々なストレス反応が生じている場合、人事部や産業医に申し出て部署変更などを相談してその上司と関わらない形をつくる、などはこれにあたります。

パターン②

ストレス反応に焦点をあてる対処法です。

根本的な解決が叶わない問題って多々あります。そういう場合は、ストレス反応を和らげる対処法を考えます。痛み止めのような感じですね。

例えば、キツい上司が問題だけど、部署変更などの解決が叶わない場合、

同僚と居酒屋に行って愚痴を言い合う、
ひとりカラオケで絶叫する

などのストレス発散ができる行動を考えておいたり、

「一生の付き合いではないし、ま、いっか」とか
「俺もやるだけやった。頑張ったじゃないか」
などと、気持ちをリセットできるような考え方のパターンを見つけておく。

これらがパターン②にあたります。

・ストレスコーピングのコツ

まず、パターン①とパターン②のバランスが大切です。

解決困難な問題にパターン①で挑み続けると、周囲を振り回してしまったり、自分が傷ついてしまったりするかもしれません。

逆に、解決可能な根本的な問題を見ずにパターン②ばかりでも、空しくなってしまうような気がします。

状況によって適切な対処法を見極めたいところです。

そして、もう一つとても大切なのは、対処法は「必殺の対処法を一つ」用意しておくという発想よりも、「小さなことでもたくさん」用意しておく方が役に立つ、ということです。

つまり、

質より量!

そして、なるべく具体的に!

がポイントです。

「問題解決にアプローチ」
「無理ならカラオケでストレス発散」
「いや、居酒屋でホッピーを飲む」
「考え方を変えてみよう」
「リラックスできる南の国にいるイメージをしてみよう」

など、なるべく多く細かく用意しておく方が安心なのです。

下手な鉄砲でも上手な鉄砲でも、たま数は多い方が良いと思いませんか。

3.登山が新たなコーピング行動に

僕も、きっと皆さんも、色々な経験から、少なくともいくつかはストレス対処法があると思います。

例えば僕だと、

(例1)気の合う友人と熱燗を飲む

(例2)時にはビストロでちょっとだけ高いワインを頼んでみる

(例3)笑える映画を観る

(例4)三木聡さん演出時代のシティボーイズのコントを観る

(例5)一人でカラオケに行って平井堅を歌う(顔もくしゃっとさせて)

(例6)「俺は結構頑張ってる。だから大丈夫だ」

  

と考えてみる。

など、挙げ始めると意外とたくさんあります。そして、自分にしか効果がなさそうなものも多いのです。

そんな中、いくら絞り出してもこれまでの僕の経験からは「登山」というコーピングの選択肢はありませんでした。

でも、これからは違います。

  

「類」という刺繍の入ったリュックをイメージしながら、十分な装備で高尾山から陣馬山に縦走して、体力の限界間近でたどりついた「細田屋」で、絶景となめこ汁と熱燗を味わう。

  

これが僕の中で最新、且つ、最も具体的なコーピング行動です。

  

さぁみなさん、もうすぐ春ですね。

山で出会った際には、是非、乾杯しましょう!!

  
星野概念(ほしのがいねん)

星野概念(ほしのがいねん)

精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

権田直博(ごんだなおひろ)

画家

この記事を書いたライター情報

星野 概念

星野 概念

精神科医

総合病院に勤務し、日々精神医療に従事する傍ら、執筆や音楽活動を行う。

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