懐の深い老舗 六本木 | 中国飯店 六本木店

懐の深い老舗 六本木 | 中国飯店 六本木店

2020/12/03

中国料理に魅せられて、国内はもとより中国にも足繁く通って取材する中国料理探訪家・サトタカさん。“中国を食べ尽くす”プロに、今行くべき東京の中華料理店を教えてもらいます。

FOOD PORT.

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1973年開業。クラシカルで古びない店

  

改めて「東京の中華料理店」というこの連載のテーマに立ち返ってみると、脳裏に浮かぶ店がある。場所は六本木通りと環状三号線の交差点の角。街の喧噪から離れて、少しだけ空気がクリアに感じられるこの界隈は、六本木のど真ん中以上に東京を感じさせてくれるように思う。

開業は1973年。六本木という場所柄からか、深夜まできっちりとした料理を出していて、アラカルトが充実。接待や芸能人の利用もあるが、近隣の飲食店が営業を終えた後、料理人が1日の疲れを癒すために訪れることも多いのも納得だ。

分厚いメニューから好きなものを好きなようにオーダーできるのは、昔の中国料理店そのまま。今ではおまかせコースのみの店も少なくないが、私がレストランに通い始めた頃の中華料理店は、選ぶ豊かさと楽しさがあったものだ。

往年のちょっと贅沢な雰囲気を残しながらも、けっしてバブリーではなく、奇を衒わず、古びない味わいを楽しませてくれる店。それが「中国飯店 六本木店」だ。

芸者のおちょぼ口を思い出す「黒酢の酢豚」

上海名物 黒酢の酢豚(黒醋炸排骨)。添えられているのは、カリカリに揚げたサツマイモの千切り。※写真は取り分け後の1人前の分量です

この店を訪れると、条件反射のようにオーダーしてしまう料理はいくつかある。

まずは「上海名物 黒酢の酢豚(黒醋炸排骨)」。白い皿の上に、プチトマト大の酢豚が盛られた様は、世間一般の酢豚の実像よりずっと愛らしく、初めて注文したとき、心躍ったことを今でもよく覚えている。

女性が一口で食べられる形は、芸者衆の口元が汚れないように作られた「井泉」のカツサンドの如し。ほどよく脂が入った肩ロースを用い、口に入れるとクリスピーな衣は実にいいアクセント。引き締まった風味の黒酢餡は、艶やかに口を潤し、次のひとつへと箸を伸ばす。ともかくも、この大きさとバランスを考えた人は天才だと思う。

上海蟹は蒸し蟹よりも料理に一票

  

これから旬を迎える秋の上海蟹も「中国飯店」の名物だ。蒸し蟹を注文すると、食べやすく剥いて提供してくれるため、「接待はここ」という人もいるだろう。

しかし、ポケットマネーで楽しむならば、料理がおすすめだ。たとえば、土鍋で煮込みながら提供される「上海蟹ミソと豆腐の土鍋煮込み(蟹黄豆腐煲)」。比較的たっぷりとした大きさなので、3~4人でシェアもできる。

上海蟹を使った料理は、業務用の冷凍味噌を使うところも少なくないが、ここではすべて活けの上海蟹を店内の調理場で剥き、料理に使うこだわりがある。生臭みは少なく、濃厚な味噌の魅力はそのまま。ほろりとした身もところどころ入っており、ふくよかな味わいに目尻が下がる。

9月から1月くらいまでの間、上海蟹そのものの風味は変わっていくが、それもまた魅力のうち。黒酢との相性もよく、数滴垂らすことでコクを増す味変も楽しめる。

金木犀と酒醸と湯団と

  

そしてもうひとつ、「キンモクセイ風味の白玉団子(桂花小湯団)」も、お腹いっぱいになったとしても頼みたくなる一品だ。

金木犀の香りと、もち米を発酵させた酒醸(ジュウニァン)の風味が溶け込んだ湯の中に、とろとろの胡麻餡の入った白玉団子を浮かべた温かいデザートで、出しているのはこの店だけに限らない。

しかし、なぜこの店のこの一品が好きか。これもまた黒酢の酢豚に通じる理由だが、王道の味わいなのに野暮ったくないのだ。

大きな湯団の場合、とても一口で食べきれず、中の餡があふれてきてしまうことも多いが、ここでは小ぶりな湯団と一緒に、蓮華ひとすくいで、金木犀の甘やかな香りも、酒醸の穏やかな甘酸っぱさも、すべて口に入れることができる。

なぜこんなに小さく作れるのか尋ねてみると、専門に作っている中国人の女性がいるのだという。小さく綺麗に作るのは容易ではない。長く働く職人がいるというのもいい店の大事な要素だ。

懐の深い、心潤う六本木のレストラン

小エビと卵白の炒め(芙蓉炒蝦仁)※写真は取り分け後の1人前の量です

他にも北京ダックなどの名物もあるが、ひとつひとつ紹介していたらとてもこの連載枠では収まり切らない。

ランチでおトクに餡かけ焼きそばを食べるのもおすすめだし、ちょっとした炒めものは、リクエストすれば食材のアレンジもできる。「小エビと卵白の炒め(芙蓉炒蝦仁)」など、「あぁ、お店の味だなあ」としみじみ感じる一皿であり、心が潤う。

ここはお金があるならあるなりに、ないならないなりに楽しめる懐の深い店だと思う。「中国飯店」の系列店は、都内を中心に数店舗あるが、いろんな使い方ができて懐の深い六本木店が、やっぱり私は一番好きだ。

サトタカ(佐藤貴子)

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