埼玉 柔軟な発想力で時代に合った梨の直売を確立した農業女子

埼玉 柔軟な発想力で時代に合った梨の直売を確立した農業女子

2021/01/21

農業とは関係ない職業から梨農家へ飛び込み、いち早くネット販売などを導入して、余りの出ていた梨を売り切った人がいる。大澤農園の副園主である大澤幸恵(さちえ)さんに話を聞いた。

中広

中広

妊娠を機にドラマーから梨作りの農家に

埼玉県の梨の栽培技術は、全国でもトップクラスに位置する。県オリジナルブランドの梨を開発するほどであり、栽培も盛んだ。久喜市に、一風変わった経歴を経て梨農園を継いだ人がいる。大澤農園の大澤一樹さんと幸恵さん夫妻だ。

【大澤農園】園主・大澤一樹さんと副園主・幸恵さん

一樹さんの実家は代々続く梨農園。現在3代目となった二人は、結婚した当初、家業を継ぐつもりがなかったという。

二人の出会いは18年前。一樹さんがレコーディングエンジニアとして、勤務していた音楽スタジオである。インディーズバンドのドラマーとして活躍していた幸恵さんと、音楽を通して知り合った。幸恵さんは桶川市で生まれ育ち、高校生から始めたバンドでドラムを担当。24歳までインディーズバンドで活躍しており、CDの制作や県内外のライブハウスに出演していたという。結婚後も変わらずバンド活動を続けていた。

転機は2010年に、幸恵さんが最初の子どもを授かったときだ。「バンド活動から離れて時間ができ、ふと周りを見渡したら、農園の梨が余っているのに気づきました。もったいないと思い、気軽な気持ちで直売を始めたのが最初です」と、幸恵さんは振り返る。

そのころ同園の梨はすべて、共同選果場へ出荷しており、直売はしていない。しかし、幸恵さんが直売を始めると、近所の人が買いに来てくれ大変喜ばれ、余りの梨も格段に減った。これをきっかけに同園は直売を開始し、インターネットを使った通信販売も手掛けるようになる。

同園が栽培するのは、幸水・彩玉(さいぎょく)・豊水・あきづき・秋麗(しゅうれい)・にっこり・甘太・新高の8品種。収穫時期がずれるように品種を選んだ。

彩玉は埼玉県でしか栽培されないブランド梨である。大玉で甘く、ジューシーで人気が高い。幸恵さんが就農した時、周囲ではまだ植えている人は少なかった。2011年に同園で、まとまった面積を植えたところ、県下最大級の梨畑に成長。それが縁で、2014年に全国区のテレビ局から取材を受け、有名タレントが絶賛したため、同園の名は全国に知られるようになった。

甘くて高品質の梨を求める声に応えるべく、夫妻は糖度計を導入し、1個ずつ確認して糖度13度以上を保証する、糖度保証付きの商品を設定。これは贈答品として、現在もヒットを続けている。注文は全国からあるが、一番多い購入者は久喜市の人だという。いただきものの返礼品として、地元のおいしいものを贈りたいからというのが理由だ。

梨に傷をつけずに表面から糖度を測る非破壊糖度計を使い、実った梨の糖度をチェックする大澤幸恵さん
大澤農園の梨
「糖度13度以上保証」のシールが貼られた贈答箱。オリジナルデザインで、早めに開封するようアドバイスも記載されている

「糖度保証をしていますが、梨のおいしさは糖度だけでは決まらないと思っています」と、幸恵さん。歯ごたえやジューシーさ、適度な甘み。人の好みは様々だからだ。

食べごろの梨の見分け方について聞くと、「形は整っているもの。表面のざらざらした種類の梨は、少しつるっとして張りのあるものがおいしいと思います」と、教えてくれた。梨は追熟しないので新鮮なうちに食べよう。特に幸水はあしが早いそうだ。

1年中休みなく世話をし選別しながら丁寧に育てる

2010年頃、インターネット販売と前後して、幸恵さんはSNSを始めた。直売の宣伝のためではなく、SNSに興味を持ったからだった。「梨作りに携わるようになってから毎日すべてが新鮮で、こんな作業をするんだという驚きや発見を書いていました」と、話す。今では販売状況をリアルタイムで発信できる大切なツールだ。

梨は落葉樹で、1年を通して木の手入れが必要だ。春に花が咲いたら、受粉は手作業で一つひとつ行う。花は1カ所にまとまって咲くので、受粉時に良い花だけを残して他は摘み取ってしまう。日を追うごとに花が開いていくので、1つの畑で3度は受粉をしながら見回る。梨の実ができはじめたら、良い実を見分けて大きく育てるために間引きをする。これもほぼ毎日、見て回らなくてはならない。

4月には畑全体にネットを張るが、今年は強風で破れてしまい初夏に防鳥ネットを張った。草が繁れば下草を刈る。最初は毎日仕事があり大変だと思ったが、今は時間があれば、ちょっと畑を見てこようかと、そわそわするほど自分が変わったと笑顔を見せる。

「できた梨は、選別に選別を重ねて残ったもの。どれも立派な自慢の梨です」

梨の収穫は8月頃から始まる。収穫は夫の一樹さんが行う。食べごろの梨の見分け方は、一樹さんにしかできないと幸恵さん。収穫のタイミングを逃すと一気に味が落ちるそうだ。

もう少しで収穫の始まる鈴なりに実った梨

大澤さん夫妻が梨農園を継いでから、同園の経営体制は大きく変わった。直売への移行と、インターネット販売の導入、糖度を保証した商品づくり、六次産業化。贈答用の梨の数を計算で予測して注文の調整をし、余った梨が出ないよう売り切る体制も整えた。若く柔軟な発想で、新しい販売方法に挑戦していった結果だ。

規格外の梨をサイダーに加工した、大澤農園のオリジナルサイダー。果汁を25パーセント使用しており、和梨のみずみずしさを味わえる

2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大が予想されたため、例年のようなまとまった予約は受けられず、少量ずつの販売に切り替えたが、販売開始の知らせを待つ常連客も少なくなかったそうだ。コロナに負けず、おいしい梨が久喜市自慢の味として、無事に各地へ贈られていくのを応援したい。

この記事を書いたライター情報

中広

中広

中広は岐阜に本社を置く広告会社です。 地元の情報を各戸配布のハッピーメディア(R)『地域みっちゃく生活情報誌(R)』のブランドで発信しています。

中広 が最近書いた記事

おすすめのコンテンツ

連載