今日はパンの日〜日本初のパン「兵糧パン」の生みの親をご存じ?

特集

今日はパンの日。おいしいパンの今昔物語。

2017/04/12

今日はパンの日〜日本初のパン「兵糧パン」の生みの親をご存じ?

パンというと西洋の印象が強いけれど、日本にもパンの原型となった「兵糧パン」が存在する。作ったのは江戸時代の伊豆国韮山(にらやま)の代官・江川英龍(えがわひでたつ)。パンの日の由来となった1842年4月12日に英龍が日本初のパンを焼いた理由とは? 現地におもむき実際に食べてみた!

Yahoo!ライフマガジン編集部

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西洋砲術への関心が、日本初のパンを生んだ

日本のパンの祖と言われる江川英龍。その足跡が残る、静岡県伊豆の国市韮山に行くには、JR東海道線・東海道新幹線三島駅から伊豆箱根鉄道に乗り換え、韮山駅で下車する。そこから国の重要文化材に指定されている「江川邸」までは、徒歩20分。近隣には韮山城跡、少し足を伸ばせば、世界遺産の韮山反射炉(はんしゃろ)もある。春の陽気に誘われて散策するには、適したコースだ。

緑豊かな江川邸外観。江川家は鎌倉時代から続く家系で、江戸時代には伊豆国・韮山代官として天領の民政に従事していた。英龍は36代目当主にあたる
入口で入場料(一般500円、小中学生300円。団体割引、他施設入館料とのセット割引もあり)を払うと、まず目の前に現れるのが表門
主屋。中に土間があり、ここで1842年4月12日、英龍が日本で初めてパンを焼いたとされている

表門から主屋に入り、江川英龍がパンを焼いた場所を求め、土間に向かった。ここで英龍がどのようにしてパンを製造したのか。江川邸の保全管理主務・秋山敏昭さんに教えてもらった。

 
秋山さん
秋山さん
主屋150坪の3分の1、50坪を土間が占めます。ここで1842年4月12日、江川英龍が日本で初めて、パンを焼いたと言われています。その釜が向かって右手のもの。左奥は伊豆石で当時の釜を再現したものです。
 
秋山さん
秋山さん
こちらは英龍がパンを焼いた竃(かまど)。右の鉄鍋に、成型した生地をのせて焼きました(鉄鍋は川越の焼芋鍋)。1度で160匁(もんめ)、約600gの生地を24個ほど並べて焼いたといわれています。
 
秋山さん
秋山さん
5年前に古文書が出てきて、1842年当時のレシピが発見されました。それによると、小麦粉に砂糖、玉子などを入れる製法、他にも醴(あまざけ)で発酵させてから焼成する方法があったようです。英龍はグルメ探求ではなく、戦の兵糧としてパンの有用性に目をつけ、製造し始めたと言われています。
 
秋山さん
秋山さん
これは伊豆石で当時の釜を再現したものです。英龍は西洋砲術への関心が高く、砲術家の高島秋帆(たかしましゅうはん)に教えを受けていました。長崎オランダ屋敷に料理方として勤めて製パン技術を覚えた作太郎という人物がおり、英龍は彼から製法を学んだと言われています。
 
秋山さん
秋山さん
春になるとこのように、主屋の脇の桜がほころびます。ちなみに毎年、パンの日にちなんで、4月の第二日曜には「パンフェスタ」というイベントを催します。先ほどの竃(かまど)でパンを焼いて、販売もするんですよ。
 
秋山さん
秋山さん
この主屋は1600年頃に建てられたもので、1958年、民家として国の第一号の重要文化財に指定されました。大河ドラマ『篤姫』の撮影などでも度々、使われています。土間以外にも見どころがたくさんありますので、ゆっくりご見学ください。

主屋以外にも、パン食普及協議会が江川英龍を「パン祖」として祀るべく、寄贈した記念碑があると聞き案内してもらった。ちなみにパン食普及協議会は、1982年に4月12日を「パンの日」と定めた。

 
秋山さん
秋山さん
1952年4月12日に江川邸に寄贈された記念碑です。英龍を「パンの祖」と記しています。碑の文字は徳富蘇峰。春には満開の桜と富士山、記念碑が重なり、絶好の写真スポットにもなります。

ここで特別に、普段は非公開の古文書、英龍考案のパンのレシピを見させてもらった。学芸員の橋本敬之さんが案内してくれる。

 
橋本さん
橋本さん
これは英龍が信濃松代藩・真田幸貫(さなだゆきつら)の家臣、金児忠兵衛(かねこちゅうべえ)に宛てた手紙です。ここにパンのレシピが載っているんです。
  
橋本さん
橋本さん
「麦粉百六十目」「砂糖四十目」「玉子五ツ」と分量もしっかり書かれています。ちなみに入り口で「パン祖のパン」をお買い上げいただいた方に、レシピの現代訳をお渡ししています。
 
橋本さん
橋本さん
文書にある丸は「この大きさに、実寸大で成型して焼くように」という指示です。他にも醴で発酵させる、砂糖や玉子を使わない製法も記されています。毎年「パンフェスタ」で英龍のレシピを忠実に再現しますが、焼き立てはホカホカで柔らかく、美味しいですよ。

橋本さんによると、英龍の母親はカステラを焼き、また自宅では日常的にコーヒーも飲んでいたようだ。父親の英毅が洋学、とくに天文学に興味を持っていたため、西洋のものが生活に馴染む土壌があったのかもしれないが、いずれにせよ、そういった家庭環境が英龍を「パンの祖」にしたのかもしれない。

入り口で販売している「パン祖のパン」(130円・税込)。地元・静岡のメーカーが英龍のレシピを忠実に再現、原料は全粒粉、塩、米糀のみだ
兵糧向きのパンの製造が英龍の目的だったため水分が少なく、感触は石のように硬いが、噛みきれないほどではない。牛乳と一緒に食べると、口内に小麦の甘さも漂う

帰りには、ぜひ「パン祖のパン」をお土産として購入してみよう。あまりの硬さに驚くかもしれないが、ここから日本のパン文化が始まったかと思えば、感慨もひとしおだ。江川邸へ足を運んで英龍の英知に触れることで、ますますパンへの愛情も深まるのではないだろうか。

江川邸

住所:静岡県伊豆の国市韮山韮山1
アクセス:
韮山駅出口から徒歩約18分
原木駅出口から徒歩約31分
伊豆長岡駅出口から徒歩約35分
電話番号:055-940-2200
開館時間:9:00~16:30(受付は16時15分まで。ただし水曜日は9:30~15:00)
休館日:第三水曜、12/31、1/1

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※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

取材・文/岡野孝次 写真/高仲健次

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