これは食べたい。昭和のレガシー「大英堂製パン店」の味わい

特集

今日はパンの日。おいしいパンの今昔物語。

2017/04/12

これは食べたい。昭和のレガシー「大英堂製パン店」の味わい

東京・明大前の住宅街に、往年のパンファンが通う店がある。昭和43年開業「大英堂製パン店」だ。並ぶのは昔ながらの菓子パンや惣菜パン。どれも生地がほんのり甘く、店のレトロな雰囲気もあいまって、食べれば童心に帰った気がするのだ。亡き父の味作りを守る、店主・関利博さんのパン作りに迫った。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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ノスタルジー溢れる、甘いパンと店主の佇まい

京王電鉄・明大前駅から徒歩3分ほど。住宅街の中にひっそりと佇む、大英堂製パン店。店内は薄暗く、初めて訪問した人は営業しているのかどうか疑問に思うかもしれない。が、午前11時にはショーケースをパンが埋め尽くす。店主・関利博さんはひとりで店を切り盛りしているため、営業時間中も奥の厨房にいることが多い。姿がなければ、大きな声で呼んでみよう。

ショーケースにはクリームパンなどの菓子パン、焼きそばパンなどの惣菜パンが合計20種ほど並ぶ
店内は薄暗いが、ショーケースのパンが営業中の目印。店奥が厨房だ

「大英堂製パン店」は大正時代から続く製パン店グループだ。関さんの父のいとこが修行してのれん分けを許されてから、親戚も習ってパン屋を営むようになり、関さんの父も明大前での開業を決意した。しかし今では「大英堂製パン店」の看板を掲げる店は、ここ明大前店と下北沢店だけになっている。

生地は1種類のみ。これで惣菜パンも菓子パンも製造する。「ふつうの小麦粉しか使ってないよ」と関さん
ひとりで全工程を担うので、開店までは時間との戦いだ

大英堂製パン店の特徴は、ほんのりと甘い生地。関さんは父の教えを守り、今も1kgの粉に対して、約220gの砂糖を練りこんでいる。「どうしてこんなに甘い生地なんですか、とお客さんに聞かれることがあるけれど、親父のレシピを忠実に再現しているだけ。他店で修行したことがないから、この方法しか知らないんだよねぇ」。関さんの愚直な仕事ぶりは、昭和のパンの味わいを、われわれに伝えている。

生地は用途に応じて、様々に分割される。こちらはクリーム・チョコレートパン用の生地
はかりで分量を確かめながら、ハンバーグ・コロッケなどを挟むパンを成形する

関さんは学生の頃から店を手伝い始め、いつしかパン屋を本職とするようになった。「初めは嫌だったけど、親父も母親も優しい人だったから。だんだん仕事が楽しくなってきた。30歳の頃に親父が入院することがあって、そのときに自分が店を守らないと、と強く思うようになってねぇ」。そして父親が亡くなって以降は、ひとり大英堂製パンの看板を守っている。

成形しながら、発酵作業もおこなう。開店時間の11時までに約20種のパンを仕上げるため、もう20年近く、決められたルーティーンをこなしている
人気商品のロールパンは生地にレーズンをしのばせてある
ロールパンの発酵の様子。タイマーなどは用いず、長年培った感覚で、頃合いを見極める

開店前の9時台から10時台は、特に様々な作業を同時進行しなければならない。引き続き生地の成形を行いつつ、発酵具合を見ながらの焼成、焼き上がりの確認、フィリングの盛り込み、商品の袋詰め、店頭への陳列など仕事が目白押しだ。

クリームを挟み込む作業。クリームパンのカスタードは、前日のうちに炊いて冷やしておく
クリームパンはふっくら仕上がるよう、縁に切り込みを入れてから焼く
惣菜パンに欠かせない揚げ物も、合間の時間で仕上げる

しかし作業が同時進行だからといって、厨房にタイマーの音が鳴り響くことはない。機械の知らせに頼ることなく、最適の発酵時間、焼き上がり時間、揚げ時間を理解し、パンを仕上げていく関さん。「タイマーのあの音、嫌いなんだよねぇ。もう何年も同じ仕事をしているから、なんとなく感覚でわかるんだよ」

焼き加減を見ながら、いい頃合いを判断する。手前はカツやコロッケを挟むパン
「カツパン」(150円・税込)はケチャップで甘めに仕上げた中濃ソースで味付けする
カツは鶏肉に下味を付け、自家製パン粉で揚げる。すべてとはいかないが、フィリングもできるだけ手作りするようにしている

「メニューも親父の頃とほとんど変わってない。とにかく、うちに昔からあるパンの美味しさを提供していきたいだけ。それくらいしか俺にはできないから」。カスタードクリームやチョコレートも、よそから取り寄せようと思ったが、それでは昔からの味を出せないと引き続き、自分で炊いているという関さん。「それに手を抜いたらいけない、仕事は遅くても丁寧にというのが、親父の教えだったから」。

焼きあがった順に店頭に並べていく。全ての商品が並ぶのが11時頃だ
「カスタードホイップ」(120円・税込)。夏は気温の関係で提供できないが、店の人気商品
ホイップクリームの下には、自家製カスタードが敷き詰めてある
関さんが開発した数少ない商品「ジャーマンポテト」(120円・税込)。じゃがいも、ベーコン、玉ねぎが入っている。マヨネーズの味わいだ
店自体は8時半から開いているので、製造しながら接客にも対応する
10時台のショーケース。ここから一気に商品が補充される

大英堂製パンの商品は、一番高いものがハンバーグで、税込160円だ。「『こんな値段でやっていけるんですか?』って聞かれることもあるけど。でもお客さんにしたら、やっぱり安いほうがいいに決まっている。だから10円だって上げられない」。関さんはそう話す。「今は社会の経済状況も厳しいし、俺も高齢で体力的な問題もあるけど、元気な間はずっとパンを焼いていくつもり」。そう言ってはにかむ、関さんの姿が印象的だった。

「クリームパン」(110円・税込)。自家製カスタードは、なつかしい甘さ
「ロールパン」(110円・税込)。レーズンの酸味が甘い生地に生える
「ハンバーグ」(160円・税込)。肉の旨みとパンの甘さが、絶妙にマッチする
11時に一旦パンを陳列した後も、商品の補充や翌日の仕込みにはげむ関さん

大英堂製パン店の厨房に立つ関さんの姿は、幼い時に見た両親や祖父母の佇まいと重なる部分がある。そう思って、甘い生地をかじると、なおさら郷愁に誘われる。関さんが店に灯火をかかげ続ける限り、昭和のパンの味わいは、ずっと受け手に引き継がれていくことだろう。

大英堂製パン店

住所:東京都世田谷区松原2-29-20
アクセス:
明大前駅出口から徒歩約3分
下高井戸駅出口から徒歩約9分
下高井戸駅東口出口から徒歩約10分
電話番号 03-3322-0611
営業時間 8:00~20:00(パンの焼き上がりは10:30)
定休日:日曜、祝日

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※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

取材・文/岡野孝次 撮影/原 幹和

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