築地を知りすぎた男たちが語る「うまいだけじゃない築地の引⼒」

特集

ぜったい外さない築地グルメ2017

2017/04/18

築地を知りすぎた男たちが語る「うまいだけじゃない築地の引⼒」

日本人のみならず、訪日外国人もが築地に足を運ぶ時代。「築地は変わった」。開かれたという意味で、そう語る人もいる。訪れた人が少しでも市場を体感して帰るには、何を聞き、見るべきか。築地に魅せられて異色の経歴をたどることになった識者2人に、その極意を聞いてみた。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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築地市場は決して全貌が見えない、巨大ラビリンス

人生のある時期に、どういうわけか築地の魅力に取りつかれ、市場の空気をどっぷりと体感した2名の人物。場内の飲食店に通い始めたことで築地の人情にほだされた男と、市場の雑踏にひかれてこの場所にカメラを向け続けようと思った青年。その写真家・新納翔さんの写真集『築地0景』の作品を交えながら、築地に対するふたりの思いを語ってもらった。

\対談するのはこの2人!/

 
つきじろう氏(右)

つきじろう氏(右)

ブロガー

新納 翔氏(左)

新納 翔氏(左)

写真家

築地に深く関わることになったきっかけは?

つきじろうさん
つきじろうさん
「私、朝ごはんは2人前くらい平らげるような人間で。どうせならおいしいものをたくさん食べたいと考えたときに、当時勤めていた職場が、築地から近いことに気づいたんです。そこから通い始めるようになりました。確か2005年の2月だったと記憶しています」
©新納翔 『築地0景』より
新納さん
新納さん
「僕は2014年に市場内で警備員として働き始めたのがきっかけです。7年間、かつて肉体労働者の街と呼ばれた東京・山谷地区の写真を撮り続けていた頃でしたが、街の変遷とともに、目的を失いつつありました。そんなとき広告の仕事で訪れた築地で、ある気配を感じて。ここでなら今の山谷では見ることができない現役時代の彼ら、モノクロのドキュメンタリー映画で観た昔日の労働者の姿を目撃できるのではないか。突き動かされるような衝動を覚えたんです。撮れなかったものが撮れると確信しました
つきじろうさん
つきじろうさん
「それですぐに警備員として働くようになったと。お若いながらに、行動力がすごいですね」
新納さん
新納さん
「やっぱり働いてみないと、真実はみえないと思ったんです。中から見てみないと、本当のところはわからないというのが、僕の信念で。たまたま目の前に警備の方がいたので『何か僕にできる仕事はありますかね?』と聞いたら、『じゃあ警備員として就職したらどうだ?』とオウム返しされて。すぐに働き口が決まりました」

市場の人はランチで中落ちを食べるのかと思っていた

つきじろうさん
つきじろうさん
「私も長年、築地のお店に通ううちに、だんだん市場内で働く人とも話せるようになって。特に昔は、いかに仕事が大変だったかということを聞きます。今の築地でも戸惑うことはありませんでしたか?」」
©新納翔 『築地0景』より
新納さん
新納さん
時間を惜しむように、歩きながらカップ麺やおにぎりを食べる人を見て、ここは戦場なんだなと感じました。それまでは市場で働く人たちはみんな、寿司、いや中落ちくらいはランチで食べるんじゃないかと思っていたんです(笑)」
つきじろうさん
つきじろうさん
「それこそ昔は、新人がタラタラ食事していると『いちいち噛んでんじゃねえ、さっさと飲め!』なんて怒られた、という話も聞いたりします」
新納さん
新納さん
「日課の巡回業務の他に、付帯業務としてターレトラックの充電を担当していたのですが、雑然と並んでいるようで、きちんと場所が決まっていると知ったときは驚きました。仕事自体は24時間勤務で4時間しか仮眠が取れない。忙しいときは食事をとる暇もないし、充電を担当するターレが戻る時間が遅れると、寝る時間も削られる。ターレは市場の主戦力。なきゃ荷物を運べず、当然仕事にならないわけで、しっかり充電しておかないと怒られますからね」
つきじろうさん
つきじろうさん
「そんな大変な環境のなか、2年半も仕事を続けられたのはどうしてですか?」
©新納翔 『築地0景』より
新納さん
新納さん
いずれなくなるかもしれない光景を写真家としてどうしても撮っておきたかったんです。無くなってからその景色の大切さに気づくということは往々にしてあると思うのです。実は働き始めてから、築地移転の話を知ったくらい、もともとは縁がなかった。通勤するようになって、建築物としての築地市場にも興味を持ち始めました

魚河岸の人たちは、知ったかぶりが嫌い

新納さん
新納さん
「つきじろうさんが、これほどまで築地に思い入れを持ち始めたのは、どうしてなんですか?」
築地との出会いは被写体としての興味から、と語る新納翔さん
つきじろうさん
つきじろうさん
「通い始めてしばらくは、ただ朝ごはんを食べに行くだけだったんですが。だんだんと築地の人たちとの付き合いが楽しくなってきたんです」
新納さん
新納さん
「外のお客だったつきじろうさんが、深く市場の人たちと関われるようになったきっかけは?」
つきじろうさん
つきじろうさん
築地の名店を記した本を持って、お店に出かけるようになったからです。はじめは無粋かと思ったのですが『この本に載っていたので、来てみました』と、素直に言った方が話が早かった。魚のことや市場のこと、分からないことを率直に聞いたら、なんでも教えてくれるようになりました。そこから個人的な付き合いが始まったんです」
新納さん
新納さん
「僕も似たような経験があります。やっぱり知ったかぶりを市場の人は嫌いますよね
つきじろうさん
つきじろうさん
「そうですね。素直に話すのが、いちばん良かった。実は私、母の介護をしていた時期があったのですが、知り合いの魚屋さんで買い物した際に『昨日買った魚を食べて、母が喜んでくれた』と素直に感謝の気持ちを述べたら、わがことのように喜んでくれて。良い魚が手に入らなかったら『今日は売る魚はないよ』と善意で言ってくれることもあるし、そういう血の通ったコミュニケーションが、まだ築地には残っています
©新納翔 『築地0景』より
新納さん
新納さん
「僕も大変な思いでターレに充電していたら、戻ってきた人が『お兄ちゃん、お疲れさん』ってな感じで、缶コーヒーをくれたり、時にはマグロを持たせてくれたり。厳しき中にも、昭和的な優しさを感じる瞬間があって、そういうところは良かったです」
つきじろうさん
つきじろうさん
「フォークリフトから荷物が落ちそうになったら、全員がダッシュして落下を防ごうと駆け寄ったりする光景も見かけます」
新納さん
新納さん
「そうそう、ああいうときは本当に一致団結するのが、市場の人たちですよね」
つきじろうさん
つきじろうさん
「場内ではいまだに黒のダイヤル電話が使われていたり、あとは正門脇の『落し物掲示板』に『裸の現金』と書かれていたり。そういう景色も、泥臭い人間関係と相まって、なんだか昭和の光景で良いなぁ、と思えたりしますよね」

築地らしさを感じられる場所って?

©新納翔 『築地0景』より
新納さん
新納さん
22時くらいの景色ですかね。人が全然いなくてターレがずらっと整然と並ぶ。静寂の時間。日が明けたらもう市場が動き出すから、その前の瞬間です。一般の人はなかなか見られない光景ですが」
つきじろうさん
つきじろうさん
「私も好きな景色はたくさんあるのですが、まだ見られていない風景があって。浜離宮の桜が散る頃、風を伝って市場に花吹雪が舞う場所があるそうです。これも一般人はなかなか入れないエリアのようですが、目撃したくて夢にみることもあります」
新納さん
新納さん
一般の人でも入れる場所で、築地らしさを色濃く感じられる場所ってどこでしょうね。10時からの場内見学ツアーだと、もう仲卸も店じまいを始めたりしていますし」
つきじろうさん
つきじろうさん
「そうですよね。実際に業者が買い付けをしている頃合いには見学できないんです。やっぱり市場はプロが働いている場所、観光地ではないから、一般人の行動は制限されてしまいます
新納さん
新納さん
「僕が働いているときも、それは思いました。実際にターレが走ったりしてぶつかると危険だから、来訪者も節度をもって行動した方が良さそうですよね」
築地には脈々と受け継がれる味わいがあると指摘する、つきじろう氏
つきじろうさん
つきじろうさん
「そうですね。無理をして場内の奥へ足を運ばなくても、築地らしさを体感できる場所はあります。たとえば築地市場内のフライの味わい『とんかつ八千代』でラードとヘットの味が濃いフライを口にすれば、魚河岸の歴史が体感できます。この揚げ方は、今ほど保存技術が良くなかったころ 魚河岸で残った魚をフライにして食べるのが好まれたことから普及したようです。もちろんお店ではフライにも新鮮な魚を使っていますよ」
築地場内の魚がし横丁にある「とんかつ八千代」のC定食1600円。新鮮な魚介を使っているが、油の配合は昔のまま、サラダオイルにラードやヘットなどを配合する。郷愁を呼ぶ味わい
新納さん
新納さん
「食事の味わいからも、市場の歴史を体感することができるんですね」

築地は知っても、知り尽くすことがない

©新納翔 『築地0景』より
つきじろうさん
つきじろうさん
「新納さんは、警備員の仕事を辞めた今も、築地に足を運ぶことはあるんですか?」
新納さん
新納さん
「お気に入りの鳥料理店があって。毎年、クリスマスのチキンはそこで買います。なんだかんだでゆるく長く、築地との縁は続いています」
つきじろうさん
つきじろうさん
「私はもう10年以上も通いつめていますが、いまだに知らないことが多くて。驚かされることが多いです」
新納さん
新納さん
「これだけ築地に精通しているつきじろうさんでも、まだ知らないことがあるんですね」
つきじろうさん
つきじろうさん
「築地の歴史を知る古い世代の人たちは インターネットをあまりやりません。口頭で伝承したり、自分の胸に秘めているだけで、後世に語り継がれていないことも多い。それをしっかり、自分の目と耳に刻みたいと思っています」

編集部:「なるほど、まだまだ築地はラビリンスなんですね。いつかまた、2人のお話を聞ける日を楽しみにしています。本日はどうも、ありがとうございました」

©新納翔 『築地0景』より
新納さんの写真集「築地0景」。熱狂的な築地ファンには伝説の一冊である

取材メモ/写真家とブロガーの異色の対談は、着眼点が全く異なり、興味深いものだった。いまだ見えない景色と、消えていくかも知れない風景。絶対が保証されないからこそ、今、人は築地に興味をひかれるのかもしれない。

聞き書き/岡野孝次 対談・料理撮影/原 幹和


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Yahoo!ライフマガジン編集部

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