吉野家の「吉呑み」で精神科医が実感した「ちょい」の素晴らしさ

特集

5月の連載記事まとめ

2017/05/29

吉野家の「吉呑み」で精神科医が実感した「ちょい」の素晴らしさ

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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「ちょい」は心を穏やかにする要素かもしれません

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

恥ずかしながら、「ちょい呑み」が広まっていることをつい最近まで知りませんでした。そして、吉野家での「ちょい呑み」は特に、「吉呑み」と言うそうです!今回はそれらを知ることになったきっかけと、それで感じた「ちょい」の素晴らしさについてお話します。

  

【目次】
1. 「吉呑み」に勇気をもらう
2. 「〜〜したい」vs「〜〜ねばならない」
3. まずは「ちょい」で、ええじゃないか


1.「吉呑み」に勇気をもらう

・ちょいっと一杯いきたいのに

改めて誰かに連絡をするほどのテンションではないけれど、なんだか真っすぐ帰りたくない気分。そんな時ってありませんか?

例えば、一生懸命働いた時。
充実感と同時に疲労感もいっぱい。パーっと盛り上がる気分にはなれないものの、せめて、ひとり酒でもして、頑張った自分にご褒美をあげたい、とか。

  

でもそういう、ちょいっと気軽にひとり酒したい時にうってつけの場所って、実はなかなかないものです。

ひとり酒できる場所自体は、いくつもありますが、そういう場所には大抵、越えなければならないハードルがあるので、実際僕はほとんど足を踏み入れられずにいました。

  

・BARも大衆酒場もハードルが高い

以前、BAR通いのススメ、の記事でも書いた通り、BARはひとり酒が出来る場所ではありますが、一方で、マスターや知らないお客さんとの「対話」が醍醐味なイメージもあります。あくまでもBAR通いに慣れていない僕のイメージではありますが。

また、大衆酒場も、一見親しみやすそうですが、BARとはまた違った独特のマナーや、常連さんの存在が気になって一人で気軽に入りやすいとは言えません。

このように、ひとり酒をしたいと思った時に浮かぶオーソドックスな場所は、「ひとりで酒を飲む」以外のハードルが結構高いのです。

  

きっとそれらを乗り越えてこそ、ひとり酒の魅力が深まるのでしょう。そしてそれにチャレンジする面白さも十分に想像できます。

  

でも、いつもそんなにチャレンジ精神旺盛なわけではないし、そもそもチャレンジするにしても、練習になるような場所があってもいいじゃないか、とも思うのです。

  

・ひとり酒の練習場所があればなぁ

それにはまず、マスターや他のお客との対話、独特のマナー、常連さんの存在など、「ひとりで酒を飲む」以外の要素がなるべくない場所が良いはずです。

その場所でまずは「ひとりで酒を飲む」という状況自体に慣れ、そのワンステップを踏んだ上でもっと本格的な酒場に行く方が、

「ハードルを超えなければならない」

という、頑張らないといけない気持ちよりも

「ハードルを超えたい」

という、積極的でワクワクした気持ちになりやすく、ハードルを越えやすくなるような気がするのです。

でも、そんな場所あるのかなぁ。。

  

・「吉呑み」、発見!

ある日も、病院で外来を終え、少しひとり酒でもして帰りたいなと思いながら

「なかなかそんな場所がないことはもう分かっているさ」

なんて、ややニヒルな気持ちで帰路についていました。

すると、いつも通る近所の吉野家の前に、あまり見たことない看板が出ていることに気づきました。

  

吉野家の前に置いてあると何だか違和感を感じるその赤いナリは、まるで居酒屋の看板のようです。

そして、よく見ると、看板に書いてある文字はなんと

小さい文字で

「ちょいと一杯」!

大きい文字で

「吉呑み」!!

  

吉野家が居酒屋化だと!?

・「吉呑み」が秘める可能性

僕は新たな可能性を感じました。

吉野家と言えば大きな牛丼チェーン店。
店内の照明は常にかなり明るく、飲み屋の雰囲気とは違い無機質な印象です。

そして、店員さんは忙しそうに動き回り、注文以外の話をする余裕は皆無。

また、チェーン店なので独特のマナーや常連さんも恐らく存在しません。

つまり、「牛丼を食らい、帰る」のに特化したお店なのです。

  

そんな吉野家で「ちょいと一杯」

  

これこそがまさに、僕が探し求めていた、気遣いやドキドキ感はなく、「一人でちびちびやる」ことだけを体験できる場所ではないですか!

  

「ひとり酒」に教習所があるとしたらココかもしれない!

  

キッザニアに「ひとり酒」の項目があったらこんなしくみ……。

  

あ、これは対象年齢的にいけません!

  

・いざ「吉呑み」!

興奮を抑えながら店に入ると、吉呑みしている「ヨシノミスト(勝手に考えました)」な先輩は意外と多く、一人で来ている人は皆、黙々とひとり酒を楽しんでいるように見えます。

  

そして、店員さんはやはりとても忙しそうで、「お客さんはお仕事何されてるんですか」など、対話が始まる可能性は限りになくゼロに近い印象です。

  

雰囲気は、慣れた吉野家なので緊張感はなく、でも目的は「ちょい呑み」!

まさに求めていた状態を手に入れました。

  

通常メニューとは別の「吉呑みメニュー」も豊富です。

おつまみは、肉系だけでなく、サラダや焼き魚など、普段の定食から応用されたと思われるメニューの他、「アニョハセヨ」というユニークな名前の、韓国海苔、キムチ、長ネギの盛り合わせや、「牛すい」というスープ、「〆の牛丼」と称したちっちゃい牛丼もありました。

そしてドリンクは、ビールだけでなく、キンミヤ焼酎を使ったサワー類、ホッピー、ハイボールや梅酒など、もはや「居酒屋」です。

  

僕はおつまみ数品と、「吉野家でしか飲めない」とうたわれた「紅生姜梅酢割り」を注文しました。

味は……。

吉野家の味!!

  

そりゃそうだ。

あの濃い味は、十分おつまみになるのです。ただ、「紅生姜梅酢割り」は、イチゲンの「ヨシノミスト」である僕にとってはレベルが高すぎました。

  

「紅生姜梅酢割り」を攻略したい気持ちを抑えて、その日はそれからハイボールを2杯飲んで、ほろ酔いで帰りました。

それ以来、既に数回吉呑みしています。

  

そして、徐々に、大衆酒場やBARなどの戦場にチャレンジしてみようかというワクワクした勇気が育ちつつあります。

  

2.「〜〜したい」vs「〜〜ねばならない」

人間の行動はすごく大きく分けると、

①「〜〜したい」から行動するパターン

②「〜〜ねばならない」から行動するパターン


の2種類です。

・①「〜〜したい」から行動するパターン

これは、自分の欲求や快楽に基づく、本能的な行動のパターンで、当然、自分にとって無理が生じにくい性質があります。

  

子供の行動はこのパターンが多いはずです。

・②「〜〜ねばならない」から行動するパターン

これは、自分の欲求とは逆だったり、自分の欲求を抑えて行動する時のパターンです。

程度の差はありますが、自分にとって無理が生じることが多い性質があります。

  

でも、社会の中で生きている以上、欲求を抑えて行動せねばならない時もあります。全ての行動を欲求の通りにすると、社会的に支障が生じる場合がありますよね。

このパターンは、育つ過程で、「〜〜しちゃダメよ」など「教育」として植え付けられる、後天的なものです。

  

・①と②のバランス

①「したい」>>②「ねばならない」の時

①は自分の欲求、快楽に従った行動なので、①が強い方がストレスは少なくなります。

でも、大人になると、ほとんどの人が②をある程度身につけています。そうでないと集団としての規律が維持できないからです。

つまり、①が強すぎると、「社会的」という枠から逸脱した困った人になってしまう可能性があります。

①「したい」<<②「ねばならない」の時

自分の欲求を抑え過ぎるというのは、とても辛いことです。

一時的であればまだ良いですが、この状態が慢性的になると、ストレスが大きくなり過ぎたり、気持ちが窮屈になってしまう可能性があります。

そうなると、色々なことが楽しめなくなったり、辛い症状が出てきたりするかもしれません。

・心の健康のコツ

誰にでも色々な欲求があります。

そして、みんなが暮らす社会があります。

適度に②を持ち、人を気遣い、社会的であるという大前提は維持できた方が良いと思います。

でも一方で、出来るだけ①の、自分の欲求に素直で心地よい状態を目指すことも大切です。

環境にもよりますが、出来れば自覚的には
①「〜〜したい」が少し強いくらいのバランスが心地よいのだと思います。

  

・どうしても辛い環境も少なくない

でも、なかなかそうはいかない厳しい環境もあるでしょう。

そういう時はまず

「本当に〜〜しなければいけないのかな」

  

と改めて考えてみるといいかもしれません。

気づかないうちに、自分で極端な方向に寄ってしまっている場合もあるからです。それが少しでも緩くなるだけで楽になることもあるでしょう。

  

それでも厳しい状況が続く時は、一度専門家に相談して、より客観的に整理してみるのも一つですね。

  

3.まずは「ちょい」で、ええじゃないか

・「ちょい」はバランスメーカー

僕ははじめ、

ひとり酒をするには、色々なハードルを乗り越え「ねばならない」と考えていました。

  

「ねばならない」が強い時は、負担を感じているサインでしたね。

テレビの酒場番組で観るような、ハイレベルなひとり酒を最初から追求し、

酒場のハードルを
乗り越え「ねばならない」


という、頑張らないといけない気分だったのです。

  

それが、「ちょい」呑みを繰り返して練習することで、同じハードルを乗り越えるにしても

  

ハードルを乗り越え「たい」

という、ワクワクした気分に変わりました。

  

これはきっと、「ちょい」を繰り返したことで最終目標の実体が掴みやすくなり、意外とイケるかも、と思えたことが大きいのだと思います。

  

つまり、「ちょい」がひとり酒に対する僕の気持ちのバランスを整えてくれたのです。

  

・まずは「ちょい」で、ええじゃないか

今回の体験を通して、大きすぎる目標に向かう時、まずは「ちょい」っと触れてみることで、その目標に対する気持ちが穏やかになることが分かりました。

これは、未知のものに対する自分の興味を広げていくことに役立つコツだと思います。

  

・ちょい呑みの場所がたくさん

それはそうと、「吉呑み」発見以降、色々なチェーン店でちょい呑みが出来ることが分かりました。

  

そして、吉野家のCMがとても面白いこともインターネットで観て発見しました。

  

知らないことってたくさんあるなぁ。

  

ちょいっとずつでも、もっと色々なことを知っていきたいものですね。

  

星野概念(ほしのがいねん)

星野概念(ほしのがいねん)

精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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