雨に思いを 歌人・斉藤斎藤と行く浜離宮恩賜庭園・短歌さんぽ

特集

“雨の日”を楽しく過ごそう!

2017/06/12

雨に思いを 歌人・斉藤斎藤と行く浜離宮恩賜庭園・短歌さんぽ

雨の日はなぜこうも人を陰鬱な気持ちにさせるのか。そんな気分を「短歌」で晴らせないものか。そこで、歌人・斉藤斎藤さんにお願いし、雨の「浜離宮恩賜庭園」を散歩。雨の日を短歌で楽しむ方法を伺った。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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昔の人は雨好き? 『万葉集』には「雨」の歌が約100首あった

ご存じ「万葉集」

現存する日本最古の和歌集『万葉集』。そこには雨に関連した歌が100首程度あるといわれている。時雨、春雨、小雨……その様子や自分の気持ちによって、表現を変えて雨を楽しんだそうだ。

なんとも粋な遊び方を、この混沌とする現代でも楽しんでみたい。ならば、敢えて雨中に飛び込むのも悪くない。そうだ、散歩に行こう。

「短歌さんぽ」をお願いしたのは、気鋭の歌人・斉藤斎藤さん

歌人・斉藤斎藤さん

今回、「短歌さんぽ」をお願いしたのが、歌人の斉藤斎藤さん。ある日出会った『短歌のパラダイス』の奥村晃作さんの短歌「次々に走り過ぎ行く自動車の運転する人みな前を向く」に衝撃を受け、短歌を作り始める。その斬新な歌に注目が集まり、短歌界で異彩を放っている。

本記事では、散歩後に斉藤斎藤さんから届いた「短歌」を紹介しながら進めていく。斉藤斎藤さんが何を見てどう感じたのかを楽しみながら、お読みいただきたい。

斉藤斎藤さん

斉藤斎藤さん

歌人

斉藤斎藤さんと散歩するのは江戸時代の代表的な大名庭園 「浜離宮恩賜庭園」(汐留)

「浜離宮恩賜庭園」の「大手門口」。ここで斉藤斎藤さんと待ち合わせた

今回、散歩の場所に選んだのは「浜離宮恩賜庭園」。江戸時代には、徳川将軍家が江戸城の“出城”としての機能を果たしていたという歴史ある庭園だ。

1952年に「旧浜離宮庭園」(文化財指定名称)として、国の特別名勝および特別史跡に指定されている。都内にある江戸から続く庭園では唯一現存する海水を引き入れた池や、2015年に復元された「燕の御茶屋」など見どころが満載。緑に囲まれ、穏やかな時間を過ごせる。

\斉藤斎藤さんが語る楽しみ方!/
1.短歌とは「オーディオコメンタリー」
2.どんなものでも短歌の句になる
3.非日常だからこそ気づくこと
4.歌にすれば一生の思い出になる
5.ルーズでもいいので、まずは作ってみる

1.短歌とは「オーディオコメンタリー」である

斉藤斎藤さんと合流。スタッフのうれし涙か、雨が強くなってきた

そもそも「短歌」とは、五・七・五・七・七で詠む歌。俳句と違って季語を入れる必要がない。俳句より文字数が多いことから、恋の歌が多いのも特徴だ。

では、“革命児”斉藤斎藤さんが思う「短歌」とは何か、伺ってみた。

斉藤斎藤
斉藤斎藤
短歌はDVDやブルーレイディスクについてくる副音声だと思っていただければいいです。アジサイのように、みなさんが美しいと思うものは歌になりづらい。それは写真や映像でいいじゃないですか。だから僕は美しいものの脇にあるものを見ます」
すると、おもむろに石垣を指差す斉藤斎藤さん
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「ほら、あそこに石垣がありますよね。そこに石垣がボンとあるのがいい。あるということは、その上に何かがあったということ。何があったのかは庭園の方に聞けばすぐにわかるけど、聞くと冷めちゃうからわからないままにしたい。

『このうえに何かがあった石垣の』

これで五・七・五。上の句ができました。では、その向こうに何があったのか。それが浮かべば下の句ができて、歌が1首できるわけです」
1首目の短歌

2.短歌さんぽのはじまり
〜どんなものでも短歌の句になる〜

まだ散歩がはじまっていないにも関わらず、この視点。一体、いくつもの短歌が斉藤斎藤さんの脳裏に浮かぶのか。期待だけが大手門を通り抜けていく。

期待のあとを追うように、我々も散歩をはじめた。大手門から庭園に入り、まっすぐ歩いていくと左右から木陰が我々を覆う。ほのかに薄暗い道を歩く歩く。

大手門を抜け、薄暗い道へ向かう
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「この道いいですね。樹齢の古い木があって、そこを抜けるとスパッと明るいところに出る」
薄暗い道を抜けた先には、広々とした庭園とビル群が見えた。都心にある庭園ならではの風景だ
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「曇り空とビルの緑がいいですね。青空でもキレイですけど。このあたりに勤めていたら、年間パスポートを買っちゃうな。で、昼休みに来ちゃったりして」
明るい道の先に見えた意外なものに目をつける斉藤斎藤さん
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「あのビルの右上に書いている『日本通運』の『運』はそこそこ大きな『運』ですよね。あれ、タテヨコ何メートルあるのかな。

『近くで見たら そこそこの運』

これで七・七。下の句に使えます。こうやってなんでも音になるんですよ。職業病ですよね(笑)」

ビル群の壮観さと斉藤斎藤さんの発想に驚きながら、一行は「延遼館跡」を横目に砂利道を歩く、歩く。

「緑からちょろっとホースが出ている。こういうの見ちゃいますよね」と斉藤斎藤さんとカメラマンが盛り上がる一幕も

3.短歌さんぽの途中で
〜非日常だからこそ気づくこと〜

斉藤斎藤さん、ふと道中に咲く花菖蒲に目をやる。美しいものは写真に任せばいいと言っていたはずだが、なぜだろう? 近づいて理由を伺う。

斉藤斎藤
斉藤斎藤
「このしおれていく感じがよくないですか? こうやって枯れてるんだ。咲かれすぎると写真でいいやと思うんですけどね。花の裏側が雨に叩かれるのはなかなか見られないですよ」
「1→2→3→4と枯れていく順番がわかりますよね」と、斉藤斎藤さん
2首目の短歌

引き続き、砂利道を歩く一行。編集Aが漏らしたひと言「雨のふったりやんだりがすごい」に、「そのコメントもらっていいですか?」と思わず斉藤斎藤さんが声をあげる。

どうやら、公園や海沿いの倉庫街などを複数名で自由行動をして歌会を行う「吟行」でよくある光景のようだ。ひとりでに歩いていても、道中で仲間と遭遇するそう。その際、会話の中で出たふとした言葉で、その人が使わなそうであれば「そのコメント、使っていい?」と聞くとか。これもまた「短歌さんぽ」の醍醐味といえよう。

緑に癒やされながら、ひたすら歩く、歩く、歩く

「中の御門」が右手に見える広い場所にたどり着く。そこで、斉藤斎藤さんがある人の作業に気づいた。

さて、何に気づいたのか
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「砂利に生えている草をカットする仕事があるのか! 造園業でもいろいろありますね」

こういう何気ないところに、ヒントが隠れているのだろう。その視点に感服するとともに、非日常だからこそ“気づく”ことがあるのだと、こちらもまた“気づく”。

斉藤斎藤
斉藤斎藤
「都会だけど入場料300円を払って庭園に来る。この非日常に身を投じることで、普段よりも気づきやすい“気づきモード”に入ります。例えば、旅先だったら些細なことに気づきますよね。自販機がイチイチおもしろいとか」

見えないものが見える。だからこそ、庭園の散歩はおもしろいのかもしれない。一方で、斉藤斎藤さんは「自宅から数分のところでも気づくこともある」と言っていたことも書き添えておく。

3首目の短歌

「中の御門」方面に足を進めると、歪な形をした木を発見。一行は吸い込まれるようにその木に近づく。

枝が下に下がっている木に遭遇
あまりに珍しい木に、斉藤斎藤さんもまじまじと見ていた

しかし、斉藤斎藤さんが気になっていたのは、その前にあるベンチだった。

斉藤斎藤
斉藤斎藤
「こじらせた木の前に木のベンチがある。そこに座る木への冒涜感がたまりません」
これが冒涜感漂うベンチ

そして、ベンチから思わぬ方向へと話が進む。

斉藤斎藤
斉藤斎藤
「濡れているベンチに座るかどうか考えませんか? まず座れるか触ってみます。ちょっと濡れるかな、ジーパンだから座ろうかな、この端なら大丈夫かな。いろいろ考えて、ま、いいかと言って座る。これって立派な雨の日の楽しみ方じゃないですか。雨の日の楽しみ方は、濡れたベンチに座れるかどうかを考えることですよ!」
4首目の短歌

これには、雨の日の楽しみ方を聞きたかったライターと編集も苦笑したが、結果的に素晴らしい短歌ができていたので結果オーライ。このまま一行は、庭園の中心地「潮入の池」へと歩みを進めていった。

結局、(端だけど)ベンチに座った斉藤斎藤さんだった

「野外卓広場」を右手に、力強い根を張った巨木が見える「八景山」を抜け、眼前に広がるは「潮水の池」。斉藤斎藤さんは、「まるで、東京ディズニーランドでエリアが切り替わったようだ」と、その見事までの景色の変わり具合に感嘆。そして一行は、いよいよ「潮水の池」へ。

散歩中、あらゆる場所でさまざまな表情を見せる斉藤斎藤さん。楽しんでいただけているようだ

4.短歌さんぽの折り返し地点で
〜歌にすれば一生の思い出になる〜

「潮水の池」から「燕の御茶屋」へと向かう道中、二本の橋を渡る。雄大な景色に目を奪われるなか、「お伝い橋」でライターがつぶやいた「この橋の湿り具合がいいですね」に対して、斉藤斎藤さんがうれしそうに反応した。

斉藤斎藤
斉藤斎藤
「今の言葉すごくよかったです。『この橋の湿り具合がいいですね』と言ったことで思い出に残る。それを歌にすると絶対に忘れません。人間って何気ないひと言を覚えていたりするじゃないですか。
僕自身、忘れっぽくて普段覚えていないことでも歌だと心に残る。自分の歌集を読み返して思い出すことがあるくらいで。自分の記憶より歌の方が覚えてるんですよ
5首目の短歌
「藤棚」で見つけた、フジの豆で一同大盛り上がり。斉藤斎藤さんが「『フジって豆になるんだ!』って、みんなで話した何気ないことも思い出に残るんですよね」とポツリ

5.短歌さんぽの終わりに
〜ルーズでもいいので、まずは作ってみる〜

「潮水の池」を縦断し、「花木園」にやってきた一行。雨もあがり、大きな茶屋のような休憩処でひと休みすることにした。

「甘いもの好きなんですよ」と斉藤斎藤さん、草団子をペロリとたいらげる

そういえば、まだアジサイにお目にかかっていなかった。ふと木が生い茂る方に目をやると、アジサイが咲いていた。斉藤斎藤さんを呼び、アジサイを眺める。

通常の来園客なら行かなさそうな場所にひっそりと咲いていたアジサイ
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「このちょっと奥に入っていく場所に咲いているのがいいですね。キレイに咲いているアジサイに蜘蛛の巣がおかまいなしに張っている。そこに水滴がついているのがまたいい。ゴミさえも美しく見えます。雨に打たれているより、雨上がりの方がいい。今、この散歩している瞬間だからこそ出会えたものですよ」
確かに蜘蛛の巣はおかまいなしに張っていた
6首目の短歌

ひと休みを終えて「花木園」を出た一行は、大手門を目指して歩く。短歌さんぽもクライマックス。空からは太陽が顔をのぞかせる。歩きはじめたころ強く降っていた雨は、見る影もない。

大手門とは反対の橋にちょっと寄り道したりして
斉藤斎藤
斉藤斎藤
「ここのベンチも濡れていたのに、すっかり乾いていますね。いやあ、不思議な2時間でした。こののんびりした気分のまま街ナカに出ると、急ぎ足のサラリーマンの方に怒られそうですね。それだけ庭園は安らげる場所ということでしょう」

緑に囲まれながら、ビルが臨め、大きな池がある。確かに、なんとも不思議な時間だった。そういえば、ここまで一緒に歩いていて聞けていなかったことがあった。「短歌って、五・七・五・七・七でキッチリおさめないとダメなんですか?」

斉藤斎藤
斉藤斎藤
「いえ。字余り、字足らずでも構いません。八・八・八・八・八でもいいです。短歌は音楽でいうところの4拍子。音符が8つあって、それが5小節あればいい。だからルーズでもいいので、まずは作ってみるといいですよ」

そう言い残し、「今日はありがとうございました。楽しかったです!」と我々に満面の笑顔を見せ、都会の街へと消えていった。

短歌さんぽを楽しんだ斉藤斎藤さんは、非日常から日常へと帰っていった
Yahoo!ロコ浜離宮恩賜庭園
住所
東京都中央区浜離宮庭園1-1

地図を見る

アクセス
汐留駅[5]から徒歩約6分
汐留駅[9]から徒歩約7分
新橋駅[ゆりかもめ2D]から徒歩約7分
電話
03-3541-0200
営業時間
午前9時~午後5時(入園は午後4時30分まで)
定休日
12月29日~翌年1月1日まで
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

取材メモ/とても充実した時間でした。このままずっと歩いていられる。そんな不思議な散歩でした。でも、散歩ってそういうことなんでしょう。「お伝い橋」のことはずっと忘れません。斉藤斎藤さんもあの歌を見て思い出してくださったらうれしいなぁ。そんな斉藤斎藤さんへ。「雨強くふりにふられてペンを借り返すときには雨あがる」

取材・文/ナンバケン(リベルタ) 撮影/榊 水麗

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