バラエティーもドラマも、テレビの現場は毎日が「学園祭」のような雰囲気。芸能人と接する機会も多い。芸能人は食通が多く、とにかく「うまいもの」をよく知っている。この連載では、他では聞けないテレビ制作の舞台裏&ちょっとしたグルメ情報をご紹介します。今回は「うまいもの」が5個!!
栗原 甚
日本テレビ・ドラマプロデューサー
ドラマならではの文化
“差し入れ”
テレビドラマの撮影現場は、朝から晩まで長丁場。しかもクランクインすると、ほぼ毎日撮影があるので、出演者やスタッフをねぎらうため、関係各所から何かと差し入れが持ち込まれる。
そして、ほとんどが抜群にうまい!(ちなみにバラエティー番組では差し入れなどほとんどない)。
そんなドラマならではの差し入れで、最近とんでもない【伝説を作った男】がいる。それは…スペシャルドラマ『天才バカボン~家族の絆』で「バカボンのパパ」を見事に演じ、世間を驚かせた…俳優・上田晋也だ。
上田晋也の差し入れはなんと毎日!
上田さんは、ちょっとした甘い物から、軽食や豪華弁当まで、あらゆるジャンルのうまい物を、差し入れしてくれた。しかも約1カ月の撮影期間、スタジオはもちろんロケ現場にまで届けた。
毎回用意されるのは、100人分!
なんと、それが毎日なのだ‼︎
ドラマのベテランスタッフ達は「こんなに差し入れをした主演は、今まで見たことがない!」と驚いていた。
ウワサにまでなった上田さんの差し入れ
うれしかったのは、気の利いた差し入れが多かったことだ。屋外でロケをする場合、寒い日には体が温まるものが欲しくなる…すると、ロケ現場に「スターバックスコーヒー」のポットが大量に運び込まれた。
さらに、ロケ弁に飽きはじめた頃、番組が用意するはずのお弁当を…上田さんが全部用意した日もあった。振る舞われたのは…お寿司!しかも、食後のデザートまで配られた‼︎
そんな上田さんの差し入れは、ドラマ界でウワサになり、瞬く間に広まった。ある日、隣りのスタジオで収録していた沢村一樹さんがやって来て、上田さんに開口一番「そんなに毎日、差し入れする必要はないんですよ!」とアドバイスしたほどだ(笑)。しかし、俳優・上田晋也の差し入れは、止まらない…いやむしろ、どんどんエスカレートしていった。
スタジオに「松屋」がやってきた!
スタッフが度肝を抜かれたのが、スタジオに「松屋」がやってきた事だ。そう、皆さんご存じ「牛丼の松屋」。
松屋のケータリングカーが生田スタジオに横付けされたのは、日本テレビの開局以来はじめての出来事だろう。牛丼やカレーライスなど、好きな物を好きなだけ選べるようになっていて、注文すると、その場で店員さんが作ってくれるのだ。豚汁までついた温かいメシに、スタッフのテンションは最高潮に!
しかし、1人だけ不満な男がいた。それは…僕だ。
普通、休憩は小一時間。短い時には、だいたい45分くらいだ。しかし上田さんのケータリングのせいで、なかなか撮影が始まらない。なんと休憩時間は、1時間半を超えた。
「この日は、まだたくさん撮影シーンが残っているのに・・・なんて日だ」と僕。
後日、その話をすると上田さんは「もう二度と差し入れなんかしない!」と笑っていた。
差し入れはすべて自腹!
芸能人の差し入れは、高価なものが多い。しかも用意する数も多いので、高額になる。だから「どうせ、事務所がお金を払っているんでしょ?」と思っている人が多い。しかし、実際は違う。
差し入れとは俳優さんが自腹を切ってするもので、事務所は全く関与していない。コレは、芸能界の古くからの風習らしい。だから今回、上田さんは数百万円もの自腹を切ったに違いない。
(ちなみに僕は上田さんに、そんな高額なギャラは払っていない)
なぜ、こんなに差し入れをしたのか?
上田さんは「ドラマが初めてなので、演技が下手でも許してもらえるように差し入れした」と言っている。
しかし、そんな事はない。
たぶん、現場のスタッフが気持ちよく撮影できる環境作りのために、毎日、差し入れをしたに違いない。
上田晋也とは…そういう気遣いの男だ。