犬養裕美子のお墨付き!伝説の食堂、よみがえる「東京パリ食堂」

連載

犬養裕美子のアナログレストラン

2017/09/06

犬養裕美子のお墨付き!伝説の食堂、よみがえる「東京パリ食堂」

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第33回は早稲田<東京パリ食堂>。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京ビストロのレジェンド。今も健在!

早稲田鶴巻町界隈(かいわい)、早稲田大学正門から伸びる並木道は散歩するには気持ちのいい場所だ。ある日、早大通りを歩いていたら、遠くにフランス国旗が目に入ったので近づいてみると「東京パリ食堂」とある。これはかなり昔、飯田橋にあったビストロでは? 

昔を知る人は懐かしくなる雰囲気。赤いひさしはパリのビストロの象徴。「東京パリ食堂」は1992年にオープンだが、徳田シェフ最初の店は1980年、亀戸に開いたレストランだった!

店の外に置かれたチラシを読むと「1992年、飯田橋“東京パリ食堂”、1995年、神楽坂店、1998年水道橋店開店。その後いろいろあって閉店したが2016年、この場所に再び『東京パリ食堂』を開店した」とある。見た目にはけっこう歴史を重ねた店に見えるが、オープンしてまだ半年だ。

それにしても驚いたのは料理の値段。ランチは本日のスープ、2~3種類のオードブルサラダ、メインディッシュ(4種から選べる)にカフェか紅茶がついて1200円! それこそ以前のままの安さだ。

そして夜はアラカルトとコース3020円、3880円の2種類がある。本当にこの店はこんな値段で出しているのだろうか? そして最大の興味は「90年代と同じ味なのだろうか?」ということ。それとも、もっと前、徳田正彦オーナーシェフが修業した1970年代なのか? 

右がオーナーシェフの徳田正彦さん。右がマダムの加代子さん。「うちは量が多いけど、シェアしたり皿を回して食べるのはちょっと……」。その皿のすべてを味わってほしいという。お二人の食欲も衰え知らず!

後日改めて伺った。店内に入ると、オープンキッチンの中ではシェフが料理に集中している。眼光鋭いシェフの前に、新参者が座れる雰囲気ではとてもない。2席×5卓のテーブル席が一般席だ。最初はちょっと驚く。カラオケスナックだったという店内にはフランスの地図やポスター、写真、葉書や本など、この店の歴史を語る品が飾られている。

時には全卓一人ということも。「ちょっと異様。会話しないで携帯いじっているでしょ。レストランでは会話もごちそうなんだけどね」そんな時は、マダムの加代子さんが相手になってくれる

しかし、この店がただ思い出にひたっているわけではないとわかるのが、ぎっしりと書かれたメニュー。スペースいっぱいにきっちり並んでいる、その勢いある文字からは「どれも間違いない!」というシェフの声が聞こえてくる。

料理人になって半世紀? 原則は一皿に3種の味まで

夜のコース3880円の前菜、5~6種類の盛り合わせ。この日は鰯(イワシ)の燻製(くんせい)、焼きナスのマリネとアンチョビのソース、キッシュ、赤ピーマンのムース、トマト。この一皿でおなかが満足する

この日、私は前菜に“3種類のおいしい鰯づくし”、メインに“定番! 鴨大根”をオーダーした。

最初の皿が出てきて、すっかり感心してしまった。鰯燻製、焼きナスに鰯のムース、鰯のオイル漬けのタルティーヌ(フランス風ピッツァ)。温冷、形も全く違う3種の鰯にレタスや赤キャベツなど葉物が山盛り! 量が多いだけではない。主役の鰯料理も、ドレッシングも、塩味・酸味のバランスがいい

定番! 鴨(カモ)大根。大根は水、フォン、バターと砂糖で味を含ませ、最後に温める。すると大根そのものの甘みも出てびっくりするほど素材の味が際立つ

つづくメインの皿はさらに安定した味だった。鴨のコンフィ(脂で揚げ煮にしたビストロの超定番)と大根、そしてラタトゥイユの組み合わせなのだが、この大根が驚きのインパクト。ほんのり甘めに味を含ませている。
コンフィは脂、塩とも控えめ、すごく上品に仕上げてある。そして夏野菜の酸味が口休めになるラタトゥイユ。「28歳の時、パリのビストロで出会った料理。これを自分なりにバランスを考えて今の形にしている」と徳田シェフは語る。

デザートもしっかりと量があり、甘みもコクある
ワインは飲みやすい3000円台から高級品まで幅広い。右がムスカデ3200円、左がポルタデルアルト2400円

ビストロ料理は「脂と塩が強いもの」が昔のビストロの常識なら、この店の料理はきちんと時代をへて、現代東京のフレンチ好きに焦点を合わせた“ネオビストロ”スタイルといえる。そんな料理を、もうすぐ料理人歴半世紀になろうとする徳田シェフが一人で作り続けていることに敬意を表したい。何より、きちんと食べて記録と記憶を伝え続けなければと思う。

Yahoo!ロコ東京パリ食堂
住所
新宿区早稲田鶴巻町568 大元ビル 1F

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アクセス
早稲田(東京メトロ)駅[1]から徒歩約6分
江戸川橋駅[1b]から徒歩約7分
早稲田(都電荒川線)駅[出口]から徒歩約10分
電話
03-6205-6513
営業時間
12:00~13:30(L.O.)、18:00~20:00(L.O.)
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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