土用の丑の日といえばうな重? いやいや今年は、うなぎ串で一杯どうでしょう。創業以来69年間愛される新宿西口思い出横丁の名店「カブト」で、ライター・あちゃこがちょい飲み。うなぎの頭からしっぽまで楽しめるフルコース“一通り”も、粋なママや常連さんのお話も、味わい深すぎる!
Yahoo!ライフマガジン編集部
東京が誇るグルメ遺産でうなぎ串フルコースをいただきます!
こんにちはライターあちゃこです。突然ですが私、この夏からカナダに旅立ちます(31歳ギリホリ)。8年間の東京生活で、やり残したことは一つもない。抱えきれない思い出を脳内プレイバックしながら旅立ちの準備をしていた7月の暑い日、Yahoo!ライフマガジン編集Uさんから着信が。
「あちゃこさん。まだ『カブト』でうなぎ、食べてないんじゃないですか?」
そ う だ っ た ......!
新宿駅西口で夜な夜なのんべえが集う思い出横丁。その中でも特に濃厚なオーラを放っているのが、創業69年になるうなぎの老舗「カブト」。
うなぎの頭からシッポまでの部位を串焼きにして出していて、たしか7本の串からなる“一通り”というメニューを味わうのが基本ルールというウワサ。
これまで何度か前を通るもいつもお客さんで混んでいるし、なにより暖簾(のれん)の隙間から見える大人のムードに気圧されて行くことができなかった。あの暖簾の先にはどんな世界が待っているのか......。東京生活最後にして、ちょい飲みレポートいたします!
待っていたのは、割烹着姿のステキなママ!
やってきました「カブト」。まだ夕方4時なのに、すでに先輩方が一杯やってらっしゃいます。みなさん仲良くしてくれるだろうか......意を決して、暖簾をくぐります!
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「こんにちは〜(ドキドキ)」
\いらっしゃーい/
- ママ
- ママ
- 「いらっしゃい。“一通り”でいい?」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「はい! あと、ビール小くださいぃ!」
迎えてくれたのは大将の娘さん。なんと女子高生の頃からカウンターに立っているそうで、気さくな笑顔とキビキビとした働きっぷりがめちゃくちゃかっこいい。常連さんも「ママ」とか「おかあさん」と呼びながら、彼女との会話を楽しんでいる。
最初の注文は、うなぎ串7本で5種の部位が味わえる「一通り」(1610円)というのが暗黙のルール。というか、カブトに来たからにはこれを食べないとですよね!
さっそくビールとお通しが到着。「思い出横丁カブト」と書かれたグラスはオリジナルで、キリッと細めの明朝体がなんとも渋い。「このグラスいいでしょ。ポケットに入れて持って帰りたいよ!」と言う常連さんを、「ダメダメあげないよ!」と一蹴するママを横目にビールを注ぐ。せっかくなので、常連さんと乾杯していただくことに。
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「お邪魔いたします! 乾杯!」
- 常連さん
- 常連さん
- 「若いのが来たねぇ〜。俺は青春時代からここで飲んでるんだよ」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「おいくつくらいの時から来られているんですか?」
- 常連さん
- 常連さん
- 「学生の時だから、60年以上前。来年の4月で80になるんでね。酒ばっかり飲んで、健康にやっております。俺はここでママの顔を見ながら酒を飲むのが楽しみなんだよ。ママ、もう一杯飲んで良い? この時間だからワガママ言わせて?」
- ママ
- ママ
- 「しょうがないね〜もうこれでおしまいだよ〜? 帰るまで心配になっちゃうから。遠足と一緒で、帰るまでが大事なんだから」
カブトのルール。それは “酒は3杯まで”ということ。常連さんがちゃんと帰れるように、ママが見てくれているのだ。ちなみに酔っぱらいはそもそも入店禁止! みんなが気持ちよく飲める店を守るママはまさにこの店の守護神なのです!
「一通り」はえり焼(頭)からスタート!
そうこうしているうちに、続々と焼きあがるうなぎ串。まず最初に来たのは「えり焼」という、うなぎの頭の部分。こんがりと焼かれた串に、山椒をかけていただきます!
一種目「えり焼」
\うなぎのココ!/
- ママ
- ママ
- 「うなぎの頭をアジの開きみたいに開いて焼いてるの。蒸してから焼いたものと、生から焼いたものと1種類ずつだから、それぞれ味わいが違うでしょ」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「焼きがけっこう強めで、タレは甘くなくてあっさり。普通の蒲焼きとまったく違んですね!」
- ママ
- ママ
- 「そうね。うちのタレはご飯には合わないよね。串焼きだし、酒に合う。もちろん69年前からずっと継ぎ足し。備長炭は火力が強いし、ほとんどの串を生から焼くから、短時間でサッと焼いてサッと出す感じ。はい、次は『ひれ焼き』ね」
二種目「ひれ焼き」
続いては、うなぎのシッポと背びれと腹ビレをくるくる巻いた「ひれ焼き」2本。食べるとフワッとした不思議な食感で、脂がジュワ〜。ちびちび食べるのがたまらない!
\うなぎのココ!/
- ママ
- ママ
- 「『ひれ焼き』は常連さんにも人気が高いよ。うな重にうなぎのシッポは付いてないでしょ? それがこれ。皮とかエンガワって表現する人もいるね」
三種目「きも焼」
\うなぎのココ!/
テンポよく出される「一通り」は、早くも後半戦に突入。「きも焼き」もギュギュッとタイトな感じで串に巻かれております。うん、うん。このプリっとした食感。生臭さもなく、このほろ苦さでお酒がグイグイ進みます〜。
ママが太鼓判を押す次期大将は31歳!
お酒ってやっぱり偉大で、ひと心地ついた私。ここでやっと店内を見渡してみる。
ママの祖父と祖母が1948年に創業した時から変わらない店には、壁のメニューや焼き場の上に下がるランプなど、あちこちに69年間の歴史が染み込んでいる感じ。
扉や壁のない「カブト」の店内は、ママいわく“日本の四季を感じられる店”。つまり、夏はけっこう暑く、冬はけっこう寒い。私たちお客は冷たいお酒で涼めるけれど、一番暑いのは間違いなく、焼き場にいる若き次期大将でしょう。若干31歳の彼は、足を悪くした大将の代わりに今年の1月から焼き場に抜擢(ばってき)されたのだそうだ。69年の伝統を引き継ぐ存在……!
お酒もいい感じにまわってきたところで、話題は大将やカブトの歴史のことに。
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「焼き場のお兄さん、若くてイケメンですね。息子さんなんですか?」
- ママ
- ママ
- 「私の娘婿なのよ。もともと別のことをしてたんだけど、商売に興味を持ってくれて。父(大将)は足を悪くして、今お店に立ってなくてね。最初は私がちょっと焼いていたんだけど、“あんたやりなさい”って言って。大変だと思うよ。でもセンスがいいから、大丈夫」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「そもそもどうして『カブト』さんはうなぎの店になったんですか?」
- ママ
- ママ
- 「なんでなんだろう。でも、最初っからうなぎの頭とか出していたみたいよ。メニューは当時のまま。戦後の闇市の頃は、頭だけ売っていたみたいだけど」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「戦後……! そうか、昭和23年創業ですもんね。長いですね」
- ママ
- ママ
- 「長いよう〜。あ、ちなみに私は生まれてないからね! そこちゃんと書いといてもらわないと!」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「ママの祖父母が創業者ですもんね(笑)。大将はどれくらい焼き場に立たれてたんですか?」
- ママ
- ママ
- 「もう84歳だからねぇ。うちの父も他の仕事をやっていて途中から入ったから、50年くらいかな?」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「かっこいいお父さんだったんじゃないですか?」
- ママ
- ママ
- 「うんかっこいい父だよ。お店でもかっこよかったし、私の友達はみんな父のこと大好きだった。まぁこの子が四代目だからね。安心です」
カブトのルールまとめ&幻の「れば焼」
するとママがとってもかわいがっているという28歳のヤングな常連さん、ショウヘイさんが来店。なんでも24、5歳の時に初めてここの暖簾をくぐり、ほぼ毎日来ているというツワモノ。私ももう一杯ということで、「焼酎」(350円)をオーダー。四種目の串「一口蒲焼」と一緒にいただきます。
四種目「一口蒲焼」
\うなぎのココ!/
ここでキンミヤ焼酎を頼んだのは、ちゃんと理由があるんです。そう、卓上に置かれている「梅シロップ」を使ってみたかったから! ショウヘイさんいわく「甘いのが好きだったらおすすめ。ボクも甘党なので入れて飲んでいます」とのこと。
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「あーおいしい! 甘いんですが梅の風味がしっかりしていて、駄菓子みたいです。私はけっこう濃い目に入れるのが好きですね」
- 常連・ショウヘイさん
- 常連・ショウヘイさん
- 「気をつけないとコレ、めっちゃ酔いますよ!」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「たしかにさらにキケンだ。ショウヘイさんは強いんですね」
- ママ
- ママ
- 「強いよこの子は。へべれけになるまで飲ませないけれど」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「1人3杯までですもんね。ちなみに他にルールはあるんですか?」
- ママ
- ママ
- 「酔っぱらいは来ちゃダメ。子供もダメ。」
- 常連・ショウヘイさん
- 常連・ショウヘイさん
- 「あと、3人以上での来店もダメですよね」
- ママ
- ママ
- 「そう。3人はうちにとって団体だからね。1人で来たらいいの。最近は女子1人でも来るよ。ショウヘイにも友達連れてこなくていいって言ってるもんね」
- 常連・ショウヘイさん
- 常連・ショウヘイさん
- 「ボクの信用にも関わるので、変な人は連れて来られないです……!」
ということで、ここで「カブトのルール」をまとめます! みなさん心しておきましょう。
\カブトで楽しく飲むためのお約束/
一、お酒は3杯まで
二、子供は連れてきちゃダメ
三、お一人様推奨。マックス3人まで
四、酔っぱらい、お断り!
と、ここで常連の間でも“食べられたらラッキー”と言われる、「れば焼」がきた......!
五種目「れば焼」
\うなぎのココ!/
- 常連・ショウヘイさん
- 常連・ショウヘイさん
- 「すごい! 『れば焼』今日はもうないと思ってた!」
- ライターあちゃこ
- ライターあちゃこ
- 「私、今日夕方4時に来たんですが、それでも遅いんですか?」
- 常連・ショウヘイさん
- 常連・ショウヘイさん
- 「だいたい夕方3時にはなくなりますね。ボクも久しぶりに食べます」
そんな貴重な串なのか……! では、心していただきます。とりいそぎ、下記の写真からそのおいしさをご想像ください。
というわけで「れば焼き」は、しっかりと弾力がありながらも舌触りはなめらか。味はあっさりとしていて臭みはまったくなく、とっても食べやすいです。一串にうなぎ12〜13匹分のレバーを使っているということで、ありがたさもひとしお。
一本の価格は300円ですが、基本的には「一通り」を注文しないと食べられず、さらに早い時間でないと「一通り」でもありつくことができません! 開店直後を狙って、アタックしましょう!
おなかも心も大満足。うなぎ食べるなら、横丁へ。
これにて、丑の日「カブト」ちょい飲み終了!
たった1時間の滞在でしたが、バラエティーに富んだうなぎ串に常連のみなさん、ママとの会話が楽しくて、ものすごく濃い時間を過ごせました。こんな新参者も快く受け入れてくれる懐の大きさたるや。ビビっていた自分はどこへやら、最後には「誰よりも顔が赤いよ!」とママにツッコまれる始末。
うなぎ串は部位ごとに味わいも食感もまったく違って、こんなおいしさが詰まっていたのかと感動。土用の丑の日は、「カブト」を知るいいチャンス。暖簾をくぐれば、まだ知らない美味に出会えるはずですよ。
取材・文=井上麻子 撮影=最上梨沙
\うな重も食べたい欲張りなあなたへ/