花火発祥の地と言われる、隅田川で7/29(土)に開催される隅田川花火大会。アクセスのいい都心で行われることもあり、毎年95万人以上の見物客が訪れる関東有数の花火大会だ。そんな誰しもが知っている花火大会の公にされていないエピソードを聞くために、大会運営事務長へインタビューを試みた!
Yahoo!ライフマガジン編集部
隅田川花火大会の裏側を徹底調査! 驚きと感動のエピソードが満載
下町風情が残る向島から両国エリアの夏の風物詩、隅田川花火大会。今年は同花火大会の前身である「両国川開き」が1978年に「隅田川花火大会」と名前を改め、復活をしてから40回目の開催を迎えるアニバーサリーイヤー。そこで、隅田川花火大会の裏側を徹底調査するため、大会に何度も携わっている大会運営事務長さんを直撃。隅田川花火大会にまつわる逸話や苦労話をはじめ、花火コンクールの裏側や予算の話まで、知っておけば花火大会をより深く楽しめるヒミツを聞いてきた!
大会運営事務長の飯野秀則さん
東京都台東区 文化産業観光部 観光課長
\隅田川花火大会10のトリビア/
その1/始まりは江戸時代! 280年以上の歴史を持つ花火大会
その2/打ち上げ会場が2つ? その理由は花火にあり
その3/花火コンクールは専門家が審査!
その4/大会準備は365日前から開始
その5/運営スタッフはなんと約1万人!
その6/花火のために首都高速を封鎖?
その7/大会予算は1億9800万円
その8/残った花火は水槽に!? 2013年大会中止の裏話
その9/協賛席の抽選倍率は4.48倍
その10/ポスターは職員さんの手描き
花火大会のヒミツ10
その1/始まりは江戸時代! 280年以上の歴史を持つ花火大会
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「隅田川花火大会のルーツは、江戸時代に行われた『両国川開き』から始まります。当初は、今よりも隅田川の河口付近で行われていて、船の上から花火を打ち上げていたそうです。その後、時代の移り変わりとともに、何度も中断と復活を繰り返しています。第二次世界大戦の影響で1938年に中断し、1948年に復活したものの、1962年に交通事情などの理由で再び中断していました。そして、『隅田川花火大会』と名前を新たに復活したのは1978年のことになります」
--江戸時代から続く花火大会だったなんて驚きです! 日本人の花火好きは昔から変わらないんですね。1978年の再開のきっかけを教えてください
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「地元の方から復活を希望する声が上がったことが一番の理由ですね。そこから3年ぐらいかけて、区長さんや都知事さんにも声が届いて再開に至ったそうです」
--江戸時代から地元の人に親しまれている隅田川花火大会ならではのエピソードですね
\耳寄り情報/
今回の取材のために、昔の隅田川花火大会の写真を提供いただいた「すみだ郷土文化資料館」では、特集展示「隅田川の花火」を開催中(2017年9月3日まで)。日本の花火大会の400年間にわたる歴史を、浮世絵やパンフレット、写真資料を中心に紹介している。この機会に足を運んでみては。
すみだ郷土文化資料館
その2/打ち上げ会場が2つ? その理由は花火にあり
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「諸説ありますが、『両国川開き』時代に2つの花火業者が2つの会場で上げていたのを、現代も引き継いでいるというのが理由かもしれないですね。当時は鍵屋(現在は宗家花火鍵屋)と玉屋という2つの花火業者が腕を競い合っていたそうですよ。そのほかにも、観客が分散して花火が見やすいというのもあるみたいです」
--歴史のある花火大会ならではの理由ですね。ちなみに、現在は何社の花火業者さんが花火を上げているんですか
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「現在は、鍵屋の流れを継いでいるホソヤエンタープライズと、丸玉屋小勝煙火店にお任せしています。実は、花火を上げる会場は毎年交代制になっているんですよ。今年はメイン会場の第一会場を丸玉屋小勝煙火店、第二会場をホソヤエンタープライズが担当します」
その3/花火コンクールは専門家が審査!
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「隅田川花火大会の花火コンクールの審査は、各社、自分たちで定めたテーマに沿った花火を上げているか、表現しているかということを基準にしています。また、色彩や形なども評価のひとつですね。私も花火コンクールを担当したことがあるんですが、いい花火っていうのは、観客席から『オー!』と歓声が上がるんですよね。それも審査に反映されているんじゃないかな(笑)」
--花火コンクールの前にプログラムを読んでおくと、より花火大会を楽しめそうですね。ところで、審査員はどのような方がいらっしゃいますか
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「審査員は10人以上お呼びしています。例えば、花火好きで知られる東京芸術大学学長を務めていた宮田亮平氏(現・第22代文化庁長官)や、火薬学会理事で火薬専門の研究をしている東京大学の教授を審査員として招いています。さまざまな分野の方々によって、あらゆる角度から花火を審査しているんですよ」
--錚々たるメンバーによって審査されているんですね! 花火コンクールのレベルの高さが伺えます
その4/大会準備は365日前から開始
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「大会準備は、毎年4月に実行委員会を立ち上げて、開催日を決めるところからスタートします。ただ、もっと詳しく言うと、翌年の準備はその年の花火大会が終わった時から始まっているんです。大会の翌週から、翌年の花火大会をより安全なものにするために、警備の体制や防護柵を付けたエリアが適切だったかなど、さまざまな反省点を関係各所から報告をしてもらい、改善点をきちんと整理します」
--安全な大会を開催するためには、毎年の改善が大切ということですね。そのほかの作業などはいつから始まるのでしょうか
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「街中の花火大会なので、早めに準備を行うということが難しいんです。ただ、橋の欄干に付ける防護柵などは、約2~3週間前から設置し始めます。橋の防護柵は、飛込防止のために、橋の欄干のところとその内側と2重に設けているんですよ」
--7/13に両国橋へ訪れた時には、すでに外側の防護柵が張られていました。早めに動けるところから、準備を始めているんですね
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「花火は火薬が入っているので、当日にしか打ち上げ準備ができないんです。前日の夜に工場を出発し、早朝に桟橋へ運んできます。そこからは、海上作業用の台船という輸送用の船に花火を積み込み、隅田川の上流までけん引するんです。そして、輸送用の台船から打ち上げ用の台船へ花火を移動して、やっと打ち上げ準備が始まります。ここまでの作業を当日の昼過ぎまでに行うんですよ」
--大きな花火大会なので、もっと早く打ち上げ準備をしているものだと思っていました。花火師さんはそのまま台船の上に滞在するんですか?
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「花火師さんは、花火の積み込みから、打ち上げが終わった空の筒を下すところまで台船に乗ったままです。ご飯なども全部台船の上ですませてもらうので、1日で真っ黒に日焼けしてしまうと聞いています」
--暑い中、川の上で丸一日過ごすのはすごく大変だと思います。花火師さんのプロ意識の高さを感じますね
その5/運営スタッフはなんと約1万人!
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「花火大会には、約1万人が携わっています。内訳は、実行委員、町会、都や区の職員、ボーイスカウトの合計で約6400人。さらに、警察官約3000人、東京消防庁約700人と続きます。なんせ、会場では10m間隔で警備員が立っていますからね。駅周辺にもボーイスカウトの人たちがいて、案内をしてくれたり。みんな役割を分担して、大会を安全に進められるように協力してくれているんですよ」
--さすが、都会の花火大会! 約1万人の方の協力で見物客の安全が守られているんですね
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「実は、この人数でも減った方なんです。1978年に復活した時は、なにが起きるか分からないんで、台東区役所の職員はもちろん、東京都の警察が総出で警備に当たったそうです。今でも花火大会の件で警視庁や警察署に行くと、第一回目の警備をした人たちから『第一回目の隅田川花火大会に機動隊として携わっていたんですよ』なんて話を聞くことがありますよ」
--第一回目の花火大会は、来場者数なども予想ができないだけに大変そうです
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「船を浮かべてアドバルーンを上げて、どこまで花火が見えるのかなど、さまざまな試験を行ったと聞いています。規制区域のエリアから花火の大きさの限度まで、あらゆる可能性を想定し、何年もかけて全部調べたそうです。その流れは現在も受け継いでいて、私たち職員は交通規制区域になっている場所は、大会2か月前から歩いて安全確認をしています」
--歩いて確認をするのは大変だと思いますが、それを続けている理由を教えてください
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「開催場所が市街地なので、街の状態が変化しやすいというのが理由です。なので、年間を通じて開催エリアの交通や工事について情報を集めていますよ。出先で、工事中の道があればその期間が花火大会とかぶっていないかなど、担当部署へ確認を行います」
--確かに、車や自転車だと見逃してしまいそうです。常に開催エリアの安全を見守っているんですね
その6/花火のために首都高速を封鎖?
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「花火を上げる時間は街の明かりをできるだけ暗くして、花火がよりきれいに見えるようにするんです。川沿いの目立つ看板やネオンサイン、さらに首都高速も通行止めにして、全部電気を落としてもらっています。また、隅田川を利用している定期船についても、当日の昼から通行止めにしてもらうんです。それらの下調べや事前のお願い、終了後のお礼のあいさつまで、区の職員が役割分担して行っています」
--写真で見ると確かに明るさが全然違いますね。職員さんたちの努力で私たちはこんなに素晴らしい花火を見ることができるんですね!
その7/大会予算は1億9800万円
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「隅田川花火大会の予算は、1億9800万円です。これは警備の資材や花火業者さんにかかる金額です。資材の値上がりなどで必要経費が年々増えてきているので、協賛金を集めるのも大変ですよ」
--すごく大きなお金が動いているんですね。想像以上の額に驚きました
その8/残った花火は水槽に!? 2013年大会中止の裏話
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「2013年は大会途中で中止になり、その時に残った花火は全て廃棄処分になりました。花火はその大会用にプログラムを組んで筒に玉を詰め、点火の線も付けている状態なので、別の会場で打ち上げることができないんですね。解体するにも危険が伴うため、筒に入ったまま工場に持ち帰り、玉を水槽の中に沈めて水を染み込ませ、引火の可能性がない状態にしてから処分するそうです」
--花火は再利用ができないんですね。ちなみに、今までに天気が理由で延期になったことはありますか?
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「1998年に台風の影響で翌日へ順延になったことがありますね。その時は、延期の問い合わせが役所に殺到して、私も電話対応に駆り出されたんです。当時はネット環境も整っていなかったので、連絡が行き渡らず、朝から『大会はやるんですか?』という問い合わせで電話が鳴りっぱなし。最終的に、受話器を頭にハチマキで巻いて手で電話のフックをおさえて対応していましたよ(笑)」
その9/ 協賛席の抽選倍率は4.48倍
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「昨年の協賛席の平均抽選倍率は4.48倍でした。全部で4種の席があり、募集枠は4000口用意しているんですが、それに対しての応募者数は1万7923口。一番人気の台東区側の台東リバーサイドスポーツセンター野球場団体席だと20.65倍でしたね」
--平均であれば意外と当たりそうな倍率ですね! 値段も団体席であれば1人約2300円からとお手頃なので、来年は応募してみようと思います
その10/ポスターは職員さんの手描き
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「実行委員会の事務局は、台東区と墨田区が毎年交代で担当していて、ポスターの絵は、それぞれ決め方が違うんです。台東区の場合は、職員のOBが描いた絵を使っています。よく見ると、ひまわりの葉っぱに作者の名前『正』という漢字が入っているんですよ。墨田区は専門学校の生徒さんに書いてもらって、コンペで決めているそうです。皆さんボランティアで協力してくださっているので、すごくありがたいですね」
--なるほど! これは素晴らしいですね。職員さんの隅田川花火大会への愛情があふれています
隅田川花火大会の必見ポイント
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「隅田川花火大会は歩きながら見てもらうのが一番。都会の街並みと花火、そして東京スカイツリー(R)の競演をゆったりと楽しんでください。また、オープニングから連続して打ち上がる2万2千発の花火は迫力満点ですよ!」
今大会の見どころはココ!
- 飯野秀則さん
- 飯野秀則さん
- 「今年の見どころは、40回記念のお祝い花火です。各会場、オープニングの5分間に1000発の花火を打ち上げます。開始直後から例年以上の玉数で打ち上げるので非常に見応えがあると思います」
都心で開催される隅田川花火大会は、職員さんをはじめとする関係者の努力と工夫の賜物だということが分かった今回の取材。花火を打ち上げる1時間30分のために、1万人もの人達が関わり、約1年の時間をかけて準備するというのは、大変な事だと飯野さんが何度も言っていたのが印象的でした。また、大会後は清掃スタッフが夜通し会場の掃除をして街を元の状態に戻しているという話には、頭が下がる思いでした。これから先も隅田川花火大会が続いていくように、私たち見物客は、マナーとルールを守って花火大会を楽しみましょう!
取材メモ/飯野さんから伺う隅田川花火大会のエピソードに、取材スタッフ全員が驚きの「えっ!?」を連発。また、一番印象に残っている花火を聞いたところ「大会中は花火よりも人の安全を見守っているからあまり覚えてないんだよ(笑)」という、実行委員の鏡のような回答が! 今後は大会運営に携わっている人に感謝をしながら、花火大会を楽しみたいと思います。
取材・文=和田麻里(エンターバンク)、撮影=菊池さとる
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