東京とんかつ会議・山本益博が紹介、とんかつの殿堂入り店3選

東京とんかつ会議・山本益博が紹介、とんかつの殿堂入り店3選

2017/07/31

大衆的な料理であるとんかつだが、真の美味しい店というのはなかなかわからない。そこで、とんかつの名店を食べ歩く「東京とんかつ会議」発起人、料理評論家・山本益博さんにオススメのとんかつ店を3軒伺った。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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「東京とんかつ会議」の発起人が認めた、殿堂入りの名店たち

山本益博さんのライフワークとして始まった、とんかつ店の食べ歩きから立ち上げたFacebookページ「東京とんかつ会議」が、BS-TBSでのテレビ番組化や書籍化(7月27日発売)。今、グルメ業界をざわつかせている。

「東京とんかつ会議」で食べ歩いた軒数はなんと150軒超! その中から見事殿堂入りを果たしたお店の一部が登場。どれも美味しい店ばかりなので、乞うご期待。

今回山本さんには、殿堂入り店の1軒『西口 たつみ亭』にお越しいただいた
山本益博さん

山本益博さん

料理評論家

\オススメする殿堂入り店はコチラ!/
1.ロースカツからごはんまで抜かりなし!『西口 たつみ亭』(荻窪)
2.2つの鍋で揚げていく“ごちそうとんかつ”『すぎ田』(蔵前)
3.創業110年の老舗が放つ元祖「カツレツ」『ぽん多 本家』(御徒町)

とんかつ界の権威「東京とんかつ会議」結成の秘密

今やとんかつ界の権威といっても差し支えない「東京とんかつ会議」。どういう流れで結成されることになったのか。山本さんに伺った。

「とんかつは小学生のころから好きでよく食べていた」という山本さん
山本益博さん
山本益博さん
「10数年前、イベリコ豚を筆頭にブランド豚が台頭したころ『とんかつが美味しくなってきた』と聞き、あちこちお店を回り始めました。

そしたら、とんかつ店が多い上野や浅草の下町はもちろん、23区外にまで良店が広がっていることがわかったのです。

よし! と、Facebookに「東京とんかつ番付」というページを作って、横綱、大関とランク付けをしていたら、タベアルキストのマッキー牧元さんから「一緒にやりたい」と声がかかりました。情報をシェアできるし、ネット上での拡散も広がるので、ふたつ返事でOKをしました。

もう1人メンバーを増やせば、3つの主観を客観になるのではないかと考え、入ってもらったのが、グルメアナリストの河田剛さん。和食、フレンチ、ラーメンなど多岐に渡って詳しい方です。それを機に「東京とんかつ会議」と名前を変更し、始動しました」

こうしてスタートした「東京とんかつ会議」は、4年目に突入。その間に殿堂入りを果たした店は150軒中10数軒。今回は、そのなかでも山本さんがオススメする店を教えていただいた。

1.『西口 たつみ亭』(荻窪)

ロースカツからごはんまで抜かりなし!

まずご紹介するのは、荻窪にある『西口 たつみ亭』。この地で店を構えて49年。お客さんが3代に渡って訪れているという、地元民を中心に愛されるお店だ。

昔ながらの食堂を思わせる雰囲気で心地いい店内

この店で山本さんがいつも注文するのが「とんかつ定食」。豚肉は、アサヒビールの製造工程での副産物をエサに与えられた国産の「SPF豚」を使用している。

「とんかつ定食」(1450円)。部位はロース。ランチは1000円。自家製のお新香が、これまた自家製のキャベツのお新香になる

目の前にとんかつ定食が置かれた刹那、今か今かと待ちわびていた山本さんの手がスッと伸びる。その先はとんかつではなく、ソースが入った小皿だ。

山本益博さん
山本益博さん
ソースはとんかつではなく、キャベツにかけます。いきなりとんかつにソースをかけて食べると、ソースの味しかしなくてソースを食べてるように感じてしまう。

僕はとんかつは基本何もつけずに食べます。塩気が欲しくなったら、ソースのかかったキャベツで調整する。東京とんかつ会議の影響か、最近この食べ方をする人が増えているんですよ」
逸る気持ちをおさえてソースをキャベツにかける。「子どものころはとんかつにかけてたんだけどね」

ソースをキャベツにかけ終わり、待望のとんかつタイム。細かく10に切られたとんかつの中央部に箸をつける。

中央部のとんかつを箸でつかむ。「一番厚みがある右から2番目か3番目の列から食べましょう」
山本益博さん
山本益博さん
「包丁の入れ具合を見れば、お店がとんかつをどういう風にして食べさせたいのかがわかります。ここだと、さいの目に切られていてひと口サイズで食べやすくしている。肉の厚みを楽しんでほしいのが伝わってきます」
タテに5、6個に切る店も多いが、こちらはその約2倍。10個に切って提供する。食べやすいように配慮されている証だ

そう語ると、とんかつをパクリ。思わず山本さんが表情を崩す。

山本益博さん
山本益博さん
「豚さんの脂身の香りと甘みが絶妙。そこへラードの香りがスッと鼻を抜けていく。美味しいなぁ。やっぱりとんかつの脂はラードじゃなきゃ! ラードが体に悪いなんて人がいうけど、質のいいラードであれば問題なし。ラードで揚げたカツじゃなかったら食欲をそそらないですよ」
ラードでじっくり揚げている

一度とんかつに手を付けるとペースアップ。どんどん皿からカツが消えていく。しかし、ごはんは減っているものの、お新香や豚汁にはあまり手を付けていない様子。いつ食べるのだろうか……、そう思った矢先、山本さんが口を開いた。

山本益博さん
山本益博さん
「ここのごはんがまた素晴らしい。ご主人が新潟出身なのもあってか炊きたての味がピカイチ! 豚汁とお新香の3点だけを食べる時間帯を作っています。カツがなくても食べられるくらい個々がおいしいからできることですよ」
ご飯やお新香にまで気を配る山本さん。「お新香の盛り付けもすごく丁寧」と見た目の重要さも教えてくれた

そう、このごはんやお新香も「東京とんかつ会議」では欠かせない要素のひとつ。同会議では、お店の評価を8つの項目から採点。各3点満点でつけていく。3人全員が20点以上をつけた店には半年から1年後、今度は3人で再訪。そこで改めて20点以上がつけば殿堂入りとなる。

その項目とは……。
・肉
・脂
・衣
・キャベツ
・ソース
・ご飯
・味噌汁
・お新香


それに加えて「特記」項目があれば、+1点。25点満点の評価となる。山本さんがこの店に与えた特記点は「ポテトサラダ」だった。

「ポテトサラダ」(450円)
山本益博さん
山本益博さん
「夜に来たら必ず注文します。じゃがいもの味がしっかりしていて、塩加減が絶妙。ポテトサラダの美味しい店がなかなかないから貴重ですよ。

これに串カツを頼んでビールをキュッとやる。4人くらいいたら、さらに『上カツ』を頼みます。お腹いっぱいになって大満足で帰れますよ」

「上カツ」とは、ロースの最上質の部分を使った希少な逸品。1本で2、3人分はあり、非常に大きい。テレビ版の「東京とんかつ会議」で紹介されて以降、注文増。人気メニューの一角を占めている。それだけの大きさで定食2950円はお得といえる。

店主の荒木さんと談笑する山本さん。はじめて来てから10年来の付き合いだ

書籍『東京とんかつ会議』によると、山本さんが『西口 たつみ亭』につけた点数は24点。ほぼ満点の高評価だ。

山本益博さん
山本益博さん
「当時西荻窪に住んでいたのですが、この店は知りませんでした。ある日、女性に教えてもらって昼に行ったのが最初。あまりに美味しかったから、またその日の夜に来て同じものを食べました。そんなことをしたのはこの店だけですよ」

それ以来、足繁く通うようになり、山本さんのお嬢さんもこちらのとんかつに魅せられたそう。地元の常連さんと同じように、山本さんもまた親子2代で通うお客さんのひとりだった。

2.『すぎ田』(蔵前)

2つの鍋で揚げていく“ごちそうとんかつ”

続いては、今年で創業40周年を迎える、『すぎ田』。明治時代に魚屋さんとして商売を始めるも、先代が「大衆食のとんかつだからこそ、ごちそうのとんかつを出したい」と、とんかつ専門店を開業。そのコンセプトを引き継ぎ、現在は2代目店主の佐藤光朗さんが腕をふるう。

店は国際通り沿いにある

こちらでいただきたいのは、ロースのとんかつ。「薄い肉のカツがあるけど、カツの肉の大きさがキッチリあることを知らせたい」と、豚肉は厚く切られている。その量は、グラム数にして160。

「とんかつ ロース」(2100円)。「ごはん」(300円)、「豚汁」(200円)

ひと口噛めば、柔らかな肉質と豚肉の脂の甘さに驚くことだろう。職人芸ともいえる衣の薄さがまたそれを際立たせる。「最近のとんかつは衣が厚すぎる」と佐藤さんは言うが、それに慣れている側からすれば、驚くべき薄さだ。

なんとも美しいとんかつ。下味がついているので何もつけなくても十分おいしい。または素材を活かす塩でぜひ

この名品のとんかつができるまで、先代から続く熟練の技が光る。なかでも特筆すべきは揚げ具合。ふたつの銅鍋で温度差を利用してじっくり揚げている。

高温170℃の鍋にカツを入れる
1、2分で隣の130℃の鍋へ移す
ここからはじっくりと揚げていく

注文を受けてから揚げるため、ピーク時は待つこともある。しかし、カウンターから臨める佐藤さんの妙技を見ていれば、そんな時間もあっという間に過ぎていく。待ち受けているのは至福の時間だ。

2代目店主の佐藤光朗さん。父の味を守り続けている

「先代の味から何も変えていません」と断言する佐藤さん。それには長年同じ場所で店を構えるからこその理由があるという。

店主・佐藤光朗さん
店主・佐藤光朗さん
「常連さんが世代を超えて訪れてくださいます。おじいちゃんに連れてきてもらったお孫さんが大きくなってやってきてくれる。そんなときに味が変わっていたらイヤですよね。

僕は思い出とともに食事があると思っています。だから変えられないし、変えたくない。今の店にはそういうことはできませんから。長いことやってるからこそ成し得ることなので大事にしたいですね」
店には先代の写真が飾られ、佐藤さんを見守っている。「変わったのはお酒の種類が増えたことかな」と笑う佐藤さんのオススメは、日本酒「神亀」(1合850円)。「真夏でも燗酒でぜひ」

先代の時代から訪れているという山本さん。下町の店ならではの視点で『すぎ田』を絶賛する。

山本益博さん
山本益博さん
下町×家族経営=美味しいのお手本のような店。そして、飲食店は清潔が一番というのを体現している店でもあります。カウンターの銅鍋を見てくださいよ。いつもピカピカですから。

本人は謙遜するだろうけど、僕は言うよ。盛岡を越えたねって。あ、先代(仙台)を越えたというダジャレだからコレ」
佐藤さんが「和食における最終型」と語る、白木のカウンターが特徴的。奥には掘りごたつの座敷がある

3.『ぽん多 本家』(御徒町)

創業110年の老舗が放つ元祖「カツレツ」

山本益博さん
山本益博さん
「創業から100年経った今もトップを走り続けている。これは驚くべきことです!」

山本さんが声を大にして話すのが、『ぽん多本家』。明治38年に創業。長年、上野・御徒町界隈に住む人々の胃袋を満足させ続けている。

中央通りから少し入ったところに店がある

とんかつを最初に出した店といわれる『ぽん多本家』の「カツレツ」。最大の特徴は赤身しか揚げていないこと。脂は身から外して細かく刻み、ラードにする。明治時代から一貫してこのスタイルで提供しているが、あまりに手間がかかるからか、追随するフォロワーはなし。元祖にして唯一無二の存在になっている。

「カツレツ」(2700円)。「ご飯・赤だし・おしんこ」(540円)

しっとりとした肉質にふんわりと広がる甘い香りがスッと鼻を抜けていく。ジワジワッと余韻を残す豚肉の旨みもたまらない。衣はとんかつを切る段階でサクッサクッと小気味良い音が聞こえるほどで、非常に軽やかだ。

脂を“掃除”したロースをたたき、そこに塩コショウ、小麦、卵につけ、最後にパン粉をつける
自家製のラードが入った鍋にカツを投入
衣がサクッと揚がるまで丁寧に揚げていく

長きに渡り、自家製のラードを使う『ぽん多本家』。4代目店主の島田良彦さんは、その大事さを熱く語る。

4代目店主の島田良彦さん。とんかつの地位向上を願うひとりだ
店主・島田良彦さん
店主・島田良彦さん
揚げ油はその店の味。うちは、赤身から外した脂を細かく刻み、じっくりと大きな寸胴にかけて、自家製のラードを作る。生の脂が揚げ油に変身します。そのラードが赤身に少しコクをのせてくれるんです」

島田さんの脂に対する思いは止まらない。

店主・島田良彦さん
店主・島田良彦さん
「そもそも脂がついている赤身と、身だけでは揚げ時間が違います。巷のとんかつは脂が赤身についているから、身が揚がっていても脂まで揚がりきっていないはず。そしたら脂が悪い状態で提供されたり、脂が重く感じる。一緒に揚げていいはずがないんですよね」
ひと口サイズに切られたロースカツ。衣が赤身から剥がれない。「肉質を吟味して、火の入れ方に気をつけるので」と島田さん
店主・島田良彦さん
店主・島田良彦さん
うちはどこを食べても“真ん中”。よくあるとんかつで同じように切ると端っこがほとんど脂になってしまうからタテにしか切れない。それじゃ食べにくいですよね。ですからひと口サイズに切っているので、年配のお客さんたちにも好評です」

とんかつに対して自信があるからこそ、最近のとんかつにも厳しい目線で話す島田さん。110年以上続く老舗『ぽん多本家』の看板を背負う者だからこそ説得力がある。

店主・島田良彦さん
店主・島田良彦さん
「トンカツ=ガッツリのイメージがあるけどそうじゃない。本来はあっさりしていて、豚肉の香りや甘みを楽しむもの。そもそも、とんかつはごちそうでしたから。

とんかつも寿司や天ぷらのようにレベルを上げていかなければ。中に何も入っていないシンプルなものこそ、これが日本のとんかつです。と、もっと日本人が胸を張って出さないと。おもしろくないからといって中に挟んだり、いろいろな味の濃いソースを付けて食べたりしているのはいかがなもんですかね」
1階はカウンターのみ。「カツレツ」が目の前で揚げられる“特等席”だ

冒頭で同店を大絶賛した山本さん。はじめて行ったのは45年前だったという。

山本益博さん
山本益博さん
「当時は値段も書いていなくてね。勇気を振り絞って扉を押したことを今でも覚えています。扉をくぐったら「いらっしゃいまし」の声。世界が一変しました。

手厚くしないけどぬかりはない。しつこくないけどさりげない。ほどよいおもてなしは、東京のおもてなしそのもの。すべて詰まったお手本です。ぜひ、お店で居心地のよさを感じてほしいです。とんかつ100年の歴史を感じられますよ」
2階のテーブル席。3階には座敷席もある

以上が「東京とんかつ会議」の発起人・山本益博さんがオススメする殿堂入りの3軒。いずれも各店が自信を持って提供する逸品揃い。ちょっと高級? と思った人もちょっと待ってほしい。食べてみると、これまでのとんかつ観が変わること間違いなし。損はしないだろう。

東京とんかつ会議

東京とんかつ会議

(1512円/ぴあ)2017年7月27日発売

とんかつを愛する3人のグルマンが、東京中を食べ歩いて、採点した記録がここに。 殿堂入りした名店をはじめ、高得点を獲得した人気店を多数掲載。さらに、「とんかつお作法」「とんかつ経済学」などコラムも充実。

取材メモ/どの店からもその味を“守り続ける”思いの強さ、名店の底力を感じました。そして、シンプル・イズ・ベストとはよく言ったもので、どのとんかつも何もつけなくても十分に美味しかった。もうこれからはソースはキャベツにかけることにします。ただし、美味しい店に限る。

取材=文/ナンバケン(リベルタ) 撮影/五十嵐鉱太郎

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Yahoo!ライフマガジン編集部

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