今年、東京に初進出を果たした福岡・筑後のうどん。え? 筑後地方といえばラーメン? いえいえ、実はうどんもスゴイんです。うどん好きライターの井上こんが筑後の素敵なお店を3軒ご紹介します。
Yahoo!ライフマガジン編集部
実は小麦の一大産地! 濃いうどんカルチャーが息づく筑後の国
福岡の奥深いうどん文化に触れる本特集。今回は県南部に位置する久留米や大牟田、八女など「筑後地方」に根付くうどんを紹介する。
\取材するのはこの人/
井上こん
ライター
「筑後地方のうどん?」「あの辺りはうどんよりラーメンじゃないの?」と思った人もいるはず。そもそも豚骨ラーメンの発祥の地は久留米であるし、ミシュランにも紹介された「大砲ラーメン」は福岡全域のみならず他県にも進出するなど、筑後エリアが日本有数の“ラーメン区”なのは周知の事実。だから、ラーメンとうどんの店舗数が久留米だけでもほぼ同数と知って驚く人は少なくない。小麦の一大産地であるこの地では、かつては母親が打ったうどんが椀物やおかずとして食卓に上ることも珍しくなく、うどんは豚骨ラーメンが生まれるずっと前から老若男女に親しまれてきた日常食なのだ。
安心してください、手は抜いてません 「てぬきうどん まるしん」
大阪で生まれた“肉吸い”とは、カツオ節や昆布のダシに牛肉が入ったスープのこと。その由来は「肉うどんのうどん抜き」とジョーク好きの大阪らしいニュアンスが漂う料理だ。
その肉吸いにハマり、うどん店をオープンする際メニューに取り入れた「てぬきうどん まるしん」のご主人・西村進一郎さん。ガラスメーカーを脱サラ後、地元である筑後市へUターン、母親が商売に使っていたこの場所でうどん店を始めたのは2012年のこと。
- 西村さん
- 西村さん
- 「サラリーマン時代に大阪で初めて肉吸いを知り、よく食べてたんです。お店を始めるときに『そうだ、アレをやろう』と思い出して。卵とじにするのがうちのやり方です」
まず、つゆがとびきりウマい。羅臼昆布、枕崎のカツオ節、ムロアジ、さば節から引いたダシと、そのダシで煮込んだ牛肉のコクが抱き合うように融合。空きっ腹にそれはそれは滋味深く染みていく。砂糖やみりんではなく、奄美の黒砂糖を使っているのもポイントだ。
- ライター井上
- ライター井上
- 「この黒砂糖がホントいい黒子っぷり。黒砂糖を使うお店は少ないので、思いがけない出合いにびっくりしてます。(黒砂糖をそのまま舐めさせてもらい)うわ~美味しい! 瑞々しい甘さというか、普通の砂糖にはないシャープさがあるというか」
ちなみに店名には「てぬき」とあるが、ご安心あれ。元の怪しい店構えを残した、いわゆる“手抜き”で開店したため店名にそう冠しただけだという。
うどんの概念を打ち破る至極の粘りを体感するなら「太昌うどん」
筑後地方のうどんによくみられるのが、“粘り”だ。これは福岡産小麦の特長でもあるが、特に「筑後うどん」と分類されるモノであれば、箸で持ち上げると餅を思わせる伸びがあり、噛むと内側に心地いい粘りを感じることができる。その独特な質感を出すため20~30分と長時間茹でる店も少なくなく、茹で置きして柔らかくする博多うどんとは大きく異なる。
1992年オープン。ご主人・岩崎太さんは柳川の「立花うどん」出身。当時、土日に3000杯(!)を売り上げる繁盛店で15年に渡り店長を務めた。
- ライター井上
- ライター井上
- 「私、太昌さんのうどんが本当に好きで! 今年の春に初めていただいたときの感動が忘れられず、今回取材を申し込ませてもらいました」
何がすばらしいって、麺の表面がとろみを帯びているところ。“溶け”の領域にさしかかっているうどんなんて、なかなか見られない。そんなギリギリまで攻める茹で技が運んでくれるのは、ぶっちぎりの粘りと、啜るごとにブルルンッブルルンッと麺に伝わる愉快な振動と、極上のダシとの一体感だ。
- 岩崎さん
- 岩崎さん
- 「今の形になったのは5年前かな。レシピを一新したら、注文が1年で3万食も増えたんだよね」
ラストは中華×うどんの変化球 「一平」
最後に訪れたのは西鉄久留米駅から歩いて8分、かなり縮小されたもののどこか飲み屋横丁の面影を残す一角にある「一平」。2代目女将・玉置隆子さんと息子の和弘さんが迎えてくれた。ちゃきちゃきの久留米っ子の隆子さん。「今日は暑かったけんね。ホラ、お店ば飲みよって」とリードされる心地よさがたまらない。
福岡で定番のごぼう天うどんや丸天うどんを差し置き、品書きの一番上に並ぶのが名物の「中華うどん」(480円)だ。かつてこの辺りで豚骨ラーメンが今ほどポピュラーでなかったころ、「より食べやすいモノを」と先代が考案したを“うどん風ラーメン“をのようなモノだ。
女将の玉置さんはこう話す。
- 玉置さん
- 玉置さん
- 「当時は豚骨のクセがあって、食べきらん人も多かったとよ。うちはうどん屋だったし、作ってみたらしいけんね。そのころは1杯25円だったとか」
ふわりと香り高く透き通ったスープは、カツオ節やウルメ節をベースに淡口醤油で調えたもので、まさにうどんつゆのよう。なるほど、豚骨スープが苦手な人のために考案されたとあって、味わいはさっぱり淡麗。麺もぷりんっとのど越しがよく、お腹がいっぱいでもつい啜ってしまう食べやすさが長年地元の人に愛される理由かもしれない。
- ライター井上
- ライター井上
- 「拍子抜けするくらいスルスル入っていきますね! うどんでもラーメンでもない、ここでしか食べられない無二の麺料理だからこそファンが多いのも納得です」
\取材メモ/
「福岡といえばラーメンでしょ!」
福岡のうどんについて話をすると、よくこう言われます。それが久留米の話であればなおのこと。違うんですって、イヤ違くはないけどこの辺りはうどん愛も強いんですって!……ってそういえば逆に私、久留米でラーメンを食べたことがなかったような。むむ、それはそれでマズイぞ。ということで、今度足を運ぶときには必ずや!
取材・文/井上こん
撮影/小金丸和晃