100周年目前!カツカレー発祥店の末裔が作る「河金丼」とは?

特集

今日はどうしてもカツカレーが食べたい!

2017/09/07

100周年目前!カツカレー発祥店の末裔が作る「河金丼」とは?

諸説ある「カツカレー」の発祥店。その中でも、とんかつとカレーの相性にいち早く気づき、メニュー化した店舗が浅草にあると知った取材班。そこで日本に並び、カレーを国民食とするイギリスに在住経験を持つ日独ハーフのマックス江崎氏が、日本のカツカレーの原点に迫る!

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

マックス江崎

マックス江崎

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「昔住んでいたイギリスは、大航海時代にインドから直接カレーのスパイスを輸入していたこともあり、中華街ならぬインド街があり、いつでも本場のカレーが食べられるんです。今回は外国の食事情も紹介しながら、日本のカツカレーを楽しみたいと思います!」

“カレーONとんかつ”スタイルを貫く「河金丼」

こちらが「河金」千束店。暖簾にあの名物メニューの名前が!

\河金のカツカレー秘話/

1.東京の娯楽場・浅草生まれ屋台育ちのファーストフード「河金丼」800円

2.手に入る材料は変われど、受け継がれる河金の調理法

3.外国人も思わず「食べたことがある」とつぶやく「河金丼」はアレで食べる

4.河金丼のルーツはとんかつ。戦後に生まれたビッグメニューとのコラボも


1.東京の娯楽場・浅草生まれ屋台育ちのファーストフード「河金丼」

色合いに歴史を感じる、「河金」本店で使用されていた看板

1918(大正7)年、浅草。初代、河野金太郎氏は苗字の「河」と名前の「金」を取って「河金」という屋号で開店。しかし「河金」は店舗を持たずに、屋台で営業をしていた。当時のメニューは、狭い屋台の中で早く簡単に提供できるようにと、とんかつ、コロッケ、カレーと至ってシンプル。

当時の浅草は東京都内でも随一の娯楽街として知られ、人通りも多くにぎやか。芸人や役者に丁稚奉公する人など、少しの隙間時間に食事をしに来店することが多かったという。

ーーお客さんが忙しく入れ替わる中で、お客さんが早く食べたいがために「とんかつにカレーをかけてくれ」という客の要望から生まれたのが、今回取材する「河金丼」800円です。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「そうなんですね。ヨーロッパの屋台は基本軽食ばかりだから、忙しい中でもきちんと食事をとろうとするのが日本の文化なんでしょうね」
千束店にも漂う老舗の風格

「河金丼」が生まれ、看板メニューとして定着したのはオープン間もなくの頃。多少の誤差があったとしても、約100年も前にカツカレーという料理は、浅草で生まれていたのだ。

カウンター上にあるのは、「開店祝いにいただいた」という看板

1929(昭和4)年には同じ浅草、ガラス湯という銭湯が入るビルの一階に12、13坪程度の店舗を本店として構え、その後、国際劇場の隣へと移転した。

国内では美空ひばりから、海外からはジャズのサックスプレーヤー、ルイ・アームストロングまで訪れた有名店だったが、後継者が継ぐことがなかったため1987(昭和62)年に惜しまれながらも閉めることとなる。

ーー今回の取材先は初代・金太郎氏のひ孫、河野貴和さんが店主を務める千束店で、本店の姉妹店にあたるそうです。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「1983(昭和58)年にオープンということは、お店は僕とほぼ同い年? 代々家族で守り続けてきた味を早く食べてみたいですね!」

2.手に入る材料は変われど、受け継がれる河金の調理法

店主にお願いして、調理風景を見学させてもらった。屋台が開店してから1世紀もの時間が経つため、大正時代に出回っていた材料を踏襲することはできないが、調理法は当時の流れをそのまま守り続けている。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「家族で経営してきたということですが、小さい頃も手伝っていたんですか?」
店主 河野さん
店主 河野さん
「小学生の頃から皿洗いをしていましたね! 中学・高校は『ほかで働くんなら、うちでアルバイトしろ』って千束店や姉妹店の入谷店を手伝わされましたよ(笑)。だからレシピが残っているというよりも、ずっと目で見てきた調理法なんですよね」
100年受け継がれてきた調理場での作業

オーダーが入ると、作り置きしてあるカレールーに水分を含ませて火にかける。ものぐさなように思えるが、寝かせたカレーがおいしいことを日本人なら誰でも知っているだろう。

「河金」のカレーは、タマネギと豚肉を2時間ほど煮込んだ後、小麦粉をラードで炒めてつくったルーでとろみをつける。そしてカレー粉をベースに砂糖、ソースなどの隠し味を仕込み、7〜8時間置いて冷ます。水分が抜けたルーをさらに一日寝かせることで、やっと店頭に出すことができるのだ。

食べやすいよう豚肉の筋を切り、横から切り込みを入れる

今日の肉は茨城県産・常陽牧場の「SPF麦豚」。硬い肉筋を切ったら、肉叩きで厚みを均し、順に小麦粉、溶き卵、そして細かなパン粉をつける。

粉の量が毎日のオーダー数の多さを物語る

パチパチとはねる油はラード100%。サラダ油よりも動物油脂特有のコクが出て、味に深みが出るという。ラードから黄金色に揚がったカツを取り上げ、余熱で中までしっかりと熱を通した後、包丁を入れる。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「カウンター越しでも衣を切る『さくっさくっ』って音が聞こえてくる! これは我慢できない(笑)」
完成まであと一工程。このままでもいただきたい黄金色のとんかつ

白米の上にキャベツの千切りを敷いてとんかつを乗せたら、その上からソースのようにカレーをかける。これはカツカレーではなく、まさしく河金丼だ。

河金丼(並)は丼ぶりでサーブされる。

3.外国人も思わず「食べたことがある」とつぶやく日本の伝統的カレー

「丼ぶりで出てくるカツカレーは初めて!」とはしゃぐマックス江崎さん

ーーいよいよ河金丼の登場です。お目当てのカツカレーの前に、まずはイギリスで食していた思い出のカレーについてお願いします。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「日本のカレーって小麦粉を炒めたとろみのあるルーのイメージだけでしょ? 当時滞在した家はインド人とのシェアハウスで、毎日必ず1回はインドカレーを食べていました。でも本場のカレーってバリエーションが多くて、辛さも半端じゃない。なんかもう、トゲトゲしい(笑)。チャーハンやスクランブルエッグのような見た目のものもあるんだけど、一口食べるとやっぱりカレー味で裏切られるという……(笑)」
イギリス在住当時インドカレー店で食事する江崎氏
一人一皿という日本カレーのルールはインドでは打破される
店主 河野さん
店主 河野さん
「日本のカレーはマイルドですよね。文明開化のときに入ってきたものだから、和食しか食べていない子供でも安心して食べられるように、日本人に向けた味へと変えていったんでしょうね。では見た目を裏切らない、日本のカレーを食べてみてください!」

「河金丼」は箸で食べるのが正解!

昼はこれにさらにから揚げがつくという豪華ぶり

ダシと白味噌、定番の具材であるワカメと豆腐が入った味噌汁。ダイコンと福神漬けの添え物が加わり、「河金丼(並)」が配膳される。

そして渡されたのは、箸だ。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「あ、スプーンでもフォークでもないんですね」

店ではどちらも用意があるらしい。しかし日本人でさえも感じた「カツカレーに箸」という新鮮さを、そのまま楽しまないわけにはいかない。

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「日本のカレーは白米の上にかかっているけれど、向こうではチャパティというバターをふんだんに敷いて、フライパンで焼いた平たい小麦パンで食べていました。ライスの場合もあるけど、別盛りでしたね」
丼ぶりにカトラリーは似合わない!なんてことは言っていない

カレーにまみれたカツを一本取り上げ、カメラマンに見せびらかして口に頬張る。目を閉じて堪能しているかと思いきや、衝撃的な一言を放った。

「う〜ん、あ、わかった!」とマックス江崎さん。なにが分かったのだろうか?
マックス江崎さん
マックス江崎さん
食べたことがある味だ

なんて失礼なことを言うのだろうか。どうやら江崎氏が昔ロンドンで訪れた日本食のテイクアウトチェーン店「わさび」で出していたカレーライスと似た味らしい。

店主 河野さん
店主 河野さん
「カツカレー発祥の店と言われると、過剰な期待を寄せて来店してこられて……食事された後に『普通じゃん』って言われることも実は多いです(笑)」
江崎氏を怒るかと思いきや、笑ってくれた河野氏。これぞ老舗の余裕
店主 河野さん
店主 河野さん
「でもどこかの記事でお客さんが書いていた言葉に、なるほどって思いましたね。『この味は大正時代の味であり、100年という長い時間をかけて私たちにとって普通の味になったんだ』って書いてあったんですよ。その言葉はうれしかったですね」

確かに河金丼は、どこか懐かしい味がする。いつもどこかで食べている、とろみのついた少し辛みのある日本のカレー、そしてルーが染み込んだ元・サクサクの衣をまとったとんかつ。ただ、この味を自宅で再現することは難しい。しかし脈々とどこかで受け継がれている日本の味なのだ。

河金丼の(並)は丼ぶりだが、ロースかつ・ヒレカツは高級仕様の重箱で出される
マックス江崎さん
マックス江崎さん
「確かに、イギリスでも日本人が『わさび』のカレーを食べて、満足そうに頷いていました(笑)。まさか自分が同じことをするとは思わなかったけど。こんなに幸せな気持ちだったのか」
店主 河野さん
店主 河野さん
「いわゆる『お母ちゃんの味』ですよね。大正時代には家庭で作られていた味をベースに、いろいろなお店やメーカーが試行錯誤したことで進化して、今の時代のカレーができたんだと思います」

4.河金丼のルーツはとんかつ。戦後に生まれたビッグメニューとのコラボも

もう1つの名物「100匁(もんめ)とんかつ」用の分厚い豚肉。「匁」とは尺貫法の質量の単位、1貫の1000分の1で100匁は375g

ーーヨーロッパではなく、インドからの刺客のように本場のインドカレーについて語ってますが(笑)、とんかつについてはどうですか?

マックス江崎さん
マックス江崎さん
「ドイツには豚肉を叩いて平らにしたものを揚げたシュニッツェルがあるけど、とんかつほどカツレツ感がない。そういえば、イギリスでもチキンナゲット以外、肉を揚げたものを見たことがありませんね。インド人はベジタリアンが多いから、カレーに入れるのもラム肉がほとんどです。もちろん、揚げた豚肉とカレーを合わせた料理もヨーロッパでは出会ったことがありません」
インタビュー中も出前の電話がいくつも入り、慌しく厨房に入る
店主 河野さん
店主 河野さん
「まだ食べたことのない人に食べさせてあげたい。豚肉は、本店の時代から信頼を寄せる肉屋から仕入れています。店の味を知る肉屋に任せているからこそ、常に河金の味を引き出せるベストな状態の肉を提供してもらっています」
マックス江崎さん
マックス江崎さん
「河金丼の味を守ろうとするのは、河野家一族だけでなく、タッグを組んでいる肉屋さんも一緒なんですね」
店主 河野さん
店主 河野さん
「そうですね! 正直、肉のことは彼らに任せています(笑)。肉屋との付き合いが長いからこそ生まれたメニューもありまして……。戦後の話なんですけど」
取材は終わっているのに浅草談義に盛り上がるふたり

戦後は肉の調達が難しく、馬肉のカツやコロッケを代わりに販売したという。そんな中、店に出入りしていた肉屋が進駐軍に下ろしていた大きな豚肉塊を見て、2代目(清光氏)は「元気をなくした日本人にも大きなとんかつを食べさせたい!」と一念発起し、河金のもう一つの看板メニュー「100匁とんかつ」(ロースカツ1600円、ヒレカツ2200円)を生み出した。

1匁=3.75g、つまり「100匁とんかつ」とは皿からはみださんばかりの375gのとんかつだ。そしてメニューには記載されていないが、今でも常連さんの中には100匁とんかつを使用した「100匁河金丼」(ロースカツ2200円、ヒレカツ2800円)を頼む猛者がいるという。

店主 河野さん
店主 河野さん
「河金丼に並ぶ、もうひとつの看板メニューの100匁とんかつ。それを使った裏メニューの『100匁河金丼』もぜひ味わっていただきたいです」

普段われわれが見慣れているカツカレーは、カレーがメインで、とんかつは付属しているものだ。しかし、100年ほど前に「河金」にあったお客の要望は「かつにカレーをかけてくれ」というものだった。とんかつが主役であり、これこそがほかのカツカレーと河金丼が一線を画す理由だ。

1918年開店ということは、来年の2018年は「河金」100周年。メディアが押し寄せる前に、日本人の血肉になった河金丼をゆっくりと味わってみてはいかがだろうか。

日本の伝統味を堪能させていただき、ありがとうございました!

河金 千束店

住所:東京都台東区浅草5-16-11
アクセス:浅草(TX)駅[A2]から徒歩約10分、入谷駅[3]から徒歩約11分、三ノ輪駅[1b]から徒歩約14分
電話:03-3872-0794
営業時間:11:00~20:00
定休日:土曜日

口コミ・写真など

※この情報は取材時の情報です。ご利用の際は事前にご確認ください。

取材メモ/月に一回は食べたくなるほど、カツカレー好きの筆者にとって夢のような取材でした。当たり前のように食してきたメニューに隠れた歴史を噛みしめることで、カツカレー沼にはまってしまいそうです。

取材・文=小林有希(リベルタ)/撮影=筒井”Nick”智子/モデル=マックス江崎

\あわせて読みたい/

この記事を書いたライター情報

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

グルメ、おでかけ、イベントなど、ライフスタイルを豊かにする情報を編集部が厳選して紹介します。

RECOMMEND

SPECIAL

SERIES