精神科医が「一蘭」の「味集中システム」にみた、「枠」の効能

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9月の連載記事まとめ

2017/09/27

精神科医が「一蘭」の「味集中システム」にみた、「枠」の効能

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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「枠」があると、人は安心できるようです。

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

はじめて「一蘭」という博多ラーメン屋に行きました。そこには「味集中システム」という独特で面白いシステムがあり、それを体験して、診察室のことを連想しました。そして、改めて「枠」は重要なのだ、と思ったので、今回はそれをお話します。

  

【目次】
1.「一蘭」での驚きの連鎖
2.心理臨床における「枠」の重要性
3.「枠」のあるラーメン屋の安心感


1.「一蘭」での驚きの連鎖

・放っておけない行列の出どころ

行列にはあまり並びたくありません。だから、お店に人が並んでいるのをみてもあまり気に留めないことが多いのですが、新宿の街中で、どうしても気にせざるをえない行列がありました。

  

気になるのは、まずその長さです。常に、少なくとも10mくらいは行列が続いている印象です。

  

そして、長さよりもさらに気になるのは、行列を構成する人々の多国籍具合。

  
  

新宿は他の街よりも多国籍感が強い気がするので楽しいなと思うのですが、そんな新宿の中でも特別に思えるほど、その行列は外国の方々の比率が高いのです。

  

色々なお店がしのぎをけずるこの東京の真ん中で、こんなにも多国籍な行列ができるなんて、国境を超えて放っておけないお店ということですよね?

  

そんなことを考えながら何度かそこを通るうちに、その行列が気になって仕方なくなり、ある時ついに、行列の出どころを確かめに行きました。

  

するとそこには

「一蘭」

という有名な博多ラーメンのお店がありました。

  

・放っておけない行列に並んでみた

これには正直面食らいました。

  

多国籍な行列がすごいので、僕はてっきり「すきやばし次郎」のような、カリスマ店主のいる、日本の伝統料理屋だと思いこんでいたのです。

しかし「一蘭」と言えば、ラーメン屋に詳しくない僕でも名前を知っている、チェーン展開までされている有名店。

  

チェーン店に、常に行列ができるなんて、あまり聞いたことがありません。

  

いや、待てよ。

  

博多ラーメンは博多のラーメン。つまり、日本独自の料理です。

  

もしかしたら、ここには小野二郎さんのような国宝級のラーメン職人がいて、その人がつくる国宝級の博多ラーメンが食べられるのではないでしょうか?

  

そう考えると、多国籍な行列が常にできるのも納得できる気がします。

  

考えれば考えるほどそんな気がしてきました。

これはもう、並ぶしかない!

  

僕は衝動的に行列の最後尾に向かい、この長い行列を乗り越えて国宝級のラーメンを食べることを決意しました。

  

しかし、行列は長い……。

  

ツイッターも

  

フェイスブックも

  

インスタグラムも全て一通りチェックしました。

  

うーん、まだまだ入店は遠い……。

  

Yahoo!ライフマガジンのオモシロ記事たちも日をさかのぼって読み終わりました。

  

でもまだ全然。
はぁ、国宝まで、一体あとどれくらいなの?

  

意を決し、行列を一時離脱して、お店の入り口に立っている店員さんに、入店までどれくらいかかるか聞いてみました。すると

「平均50分くらいです」

ご、50分!!

  

NBAの試合だって、48分なのに(タイムアウトとかがなければ)!

  

この瞬間、僕の脳内で試合終了のブザーが鳴り響きました。

  

その日は結局、行列に戻ることはなく、好きな居酒屋に飲みに行ってしまいました。

・「一蘭」への興味が消えなくて

しかし、酒に酔っても、「一蘭」への興味はつのるばかり。

  

小野二郎さんのような国宝級の職人がつくる博多ラーメン……。

今考えれば、国宝級の職人さんが各店舗にいるわけはないのですが、その時の僕は、熱病にうなされたように「国宝級の博多ラーメン」と脳内でつぶやき続けていました。

  

でも、50分も並ぶなんてどうしても無理です。

  

僕は途方に暮れかけた時、ついに閃きました。

  

チェーン展開しているということは、並ばないで入れる店舗もあるのではないか!?

  

即座にヤフり(Yahoo!で検索することを「ヤフる」と言うと、小宮山雄飛さんの記事に書いてありました)、たった3分たらずで、並ばないで入れる「一蘭」がある街を見つけました。

  

・いざ、「一蘭」へ

新宿から全く遠くないその街ですが、確かに多国籍感は新宿と比べてかなり少なく、これは期待できます。

  

数日後、仕事を終えて一目散に目的の地へ。降り慣れた下北沢の駅ですが、いつもとは違う新鮮な気持ちです。

  

駅から歩いて5分、たどり着いた「一蘭」には、全く行列はありませんでした。

「……。」

  

うーん、何となく行列がないと拍子抜けします。

まるで、鬼ヶ島についたら鬼がとても穏やかで、全然成敗する必要がなかった時のようです。

  

いやいや。

とはいえ、鬼は鬼。

「一蘭」は「一蘭」。

行くと決めたら行くのです。

  

・店内は無人?

ラーメン替え玉の食券を買い店内に入ると、なんと店員さんが見当たりません。

  

そのかわりに座席表があり、

「空」のマークの好きな座席に座ってください

と書いてあります。

  

なんだこれ、と思いつつ、座席を探しに行くとビックリ!

  

座席は全てカウンター席なのですが、それぞれの座席がパーテーションで区切られています!!

  

その区切られた座席に座ってみると、目の前には小窓のようなスペースがあり、その下に「ご注文」「一時退席」という2つのボタンがありました。

目の前にボタンがあれば、押してみるのが男、そして、漢というものです。

早速「ご注文」ボタンをプッシュ。

  

すると、小窓のところにエプロンをつけた人の下腹部が!!

  

えぇ!店員さんの顔が全然見えないの!?

  

驚きすぎて何を言われたか忘れましたが、何かしらの丁寧な挨拶とともにそのまま食券は回収されていきました。

これだと、仮に、国宝級の職人がこの店舗にいたとしても顔が見えません。

  

まぁ、いないでしょうが……。

  

それにしても、こんな秘密クラブみたいなシステムがチェーン店に導入されているなんて!

  

僕はこの時、きっと恥ずかしいくらい面食らった表情をしていたと思います。

  

でも、いくら変な顔をしていたとしても周りは気になりませんでした。なぜなら、その空間はパーテーションで仕切られているので、誰にも見えないからです。

かつて僕は、ラーメン二郎で注文のタイミングを間違えて、周囲の視線に耐え切れず、トラウマになりかけたことがありました。

今回はそういった心配はなく、自分のペースで安心して食事に集中できます。

  

また、パーテーションにはメニューなどが貼られているのですが、その中にシステム案内というものがあり、そこにも

① 注文 How to Order
② 味に集中 Focus on Taste
③ 追加注文 For Extra Ordering


と書かれていました。

やはり多国籍だけに英語は必須。

  

そして、味に集中!!

  

集中するための究極の環境が、意図的に整えられていたというわけです。

・最後にホラー

やがてラーメンが運ばれてきました。待ち焦がれていただけにとても美味しく、無事に替え玉も達成して、大満足で食べ終えました。

  

ただ、ここで予想していなかった難関が待ち受けていました。

どうやって帰ればいいのだろう……。

  

普通だったら「ごちそうさまです」と言いながら出て行けばいいのですが、店員さんとは下腹部しか見えない小窓でのコミュニケーションしかできません。

  

しかも、食事中はその小窓にもすだれがかけられて遮断されます。

つまり、なんとなく出て行ったら、出て行ったことに店員さんは気づかないのではないか、と心配になったのです。まぁ食券でお金は払っているので問題がないと言えばないのですが、なんとなく何も言わず出て行くのも気が引けます。

考えた末、僕は「ご注文」ボタンを押しました。

そして、再び現れた下腹部に向かって

  

「食べ終わったらこのまま帰っていいんでしょうか」

と聞くと、とても爽やかな

「大丈夫です。ありがとうございました!」

という声とともに、その店員さんが中腰になってくれました。

  

その時、ついに小窓から少しだけ顔が見えたのですが、中途半端に下顎だけ突然小窓から現れる形になってしまったため、若干のホラーな後味が残りました。

  

でも、総じて、安心して食事ができて、とても満足できました!

  

2.心理臨床における「枠」の重要性

・「心理臨床」とは

「臨床」とは、医療現場で実際に患者さんと接して医療行為をすることを言います。

なので、「心理臨床」とは、精神医療の現場で、実際に患者さんと接して医療行為をする、ということになります。

・診察室という「枠」

診察室というのは特殊空間です。そこには、独特の「枠」があります。例えば、

① 守秘義務があるので、診察室で話したことは、患者さんの許可なく口外されることはない。

② 患者さんの悩みの解決が目的なので、医療者は悩みごとを受け身の態度で「傾聴」するのが基本。

③ 1人あたりの診察時間は概ね区切られている。ということは、その時間内はその患者さんとのみ向き合うのが基本。


などです。

これらの、無言の約束のような「枠」があるからこそ、患者さんは安心して、あまり人には言えない悩みも話すことができます。

  

また医療者側も、限られた空間限られた時間、という「枠」があるので、その枠内で集中してその人と向き合うことができます。きっと、この「枠」がないと、色々な人の悩みを聞いて、それが区切れず、頭が混乱してしまうことが増えると思います。

  

・特殊な検査や療法にある「枠」の例

① 風景構成法

心理検査の中で「描画法」というものがあります。これは患者さんに絵を描いてもらって、それを分析することで、その人のパーソナリティを評価するというもので、色々な種類があります。

その中で、「枠」が特徴的なものとして、日本で考案された「風景構成法」という検査があります。

この検査の特徴は、患者さんの目の前で、画用紙に「枠づけ」をしてから絵を描いて頂くというものです。

この「枠づけ」の効果の一つとして、保護された空間が保証されている感じになって、自由に描きやすくなるというのがあります。

② 箱庭療法

また、箱庭療法というものがあります。これは絵を描くわけではなくて、木箱に入った砂の上にミニチュアを並べたり、砂をいじったりして行う心理療法の一つです。

この箱庭療法においては、木箱自体が保護された空間となっていて、自由な表現が促進されると言われています。

①にしても、②にしても、限定された
安心できる空間がある
というのは、人をのびのびと自由にさせるのでしょう。

  

3.「枠」のあるラーメン屋の安心感

「一蘭」にも「枠」がありました。

パーテーションで区切られ、小窓も食べる時にはすだれで閉じられます。

・「味集中システム」

個室があるお店は他にもあると思います。でも、店員さんの目にもふれないお店ってなかなかありませんよね。

  

調べたところ、これは「味集中システム」という、「一蘭」が特許を取得しているものだそうです。

特許!!

  

そりゃ、他にないわけです。

  

あの独特な「枠」によって、恐らく女性でも全く躊躇せずひとりラーメンを楽しめるのではないでしょうか。

  

50分並ぶのはとても大変だと思いますが、並ばないお店も、ヤフれば3分で見つかります。

  

食欲の秋です。

  

レッツ 味集中!!

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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