犬養裕美子のお墨付き!江戸前天ぷらを守る、門前仲町「ふく庵」

連載

犬養裕美子のアナログレストラン

2017/10/22

犬養裕美子のお墨付き!江戸前天ぷらを守る、門前仲町「ふく庵」

“アナログレストラン”はレストランジャーナリスト犬養裕美子が選ぶ「いい店」。作り手がその場できちんと料理をしていること。小さくても居心地のいい空間とサービス、かつ良心的な値段。つまり人の手、手間をかけた「アナログ」で「アナ場」な店。第36回は門前仲町<ふく庵>。

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

師匠のアドバイスで、劇的ビフォーアフターを遂げる

2017年6月13日、門前仲町にオープンした「ふく庵」。昼は讃岐うどんを出し、夜はおまかせ天ぷらコースが8000円という店だった。店は富岡八幡(とみおかはちまん)の門前商店街にあるが、2階でひと目につきにくいことも災いした。「昼は入るんですけど、夜が全然ダメで」。店主・中島昭彦さん初の独立店はどうも雲行きが怪しかった。

カウンター6席、テーブル12席。一人で揚げるため、夜は満席にはしない。必ず予約をして行きたい
壁には粋な帽子がかかっている。実はこれ、師匠の店である「みかわ」ではおなじみの光景。「師匠が帽子をこういう風に置くのがかっこよくて。まねさせてもらいました」

そこで師匠に相談した。その師匠こそ「天ぷらの神様」と言われる「天ぷら みかわ是山居(ぜざんきょ)」の早乙女哲哉さんだ。「昼も天ぷらにしなさい」。もちろん師匠の言う通り、昼を天丼とおまかせに切り替えた。

目玉は早乙女氏考案の海老天丼650円(海老10本!)、穴子天丼850円(穴子2本)、穴子と海老天丼750円(穴子1本、海老5本)。お手頃な値段も魅力だが、見た目のインパクトがたちまち話題を呼んだ。

安くて旨いなら、少しふんぱつして、おまかせ定食950円で贅沢気分を味わう人も増える。「みかわ」と同じ方式で、前半(キス・エビ・イカ)と後半(穴子1本、野菜2品)の二回に分けて出すので揚げたてを楽しめる

気が付くと、昼は3回転するほどの大繁盛。そして、夜のおまかせコースも3500円に下げたところ、夜にも予約が入り出し、ようやく師匠の元で7年修業した腕前を発揮できるようになった。

ランチの人気メニュー、穴子と海老天丼750円。この値段で海老も穴子もこの通りの迫力

それにしても中島さん、貴重なアドバイスをいただきましたね。「私が『みかわ』の門をたたいたのは35歳の時。独立前に自分の苦手だった天ぷらをしっかり勉強したいと思って『みかわ』に入れてもらいました。修業を始めたら、天ぷらが面白くて、結局7年も勉強させてもらいました」と中島さんは語る。

中島明彦さん(42歳)。揚げている最中は、音で状態を確認しているので寡黙だが、一仕事終えるとホッとした笑顔で応対してくれる

そして念願の独立。ただ、スタートはなぜか讃岐うどんだった。「自分がうどん好き」というだけの理由だったが、せっかく覚えた天ぷらはうどんの添え物でしかない。早乙女さんは、中島さんの仕事ぶりを知っているからこそ、天ぷらで真っ向勝負に挑ませたのだろう。
「師匠のおかげで天ぷら屋として自分がやるべきことが見えてきました」と中島さん。中島さんが目標として掲げたのが、“安くても手を抜かない日常でも楽しめる天ぷら”だった。

安くてもおいしい。天ぷらの新しいカテゴリーを築きたい

天ぷらは寿司(すし)と並ぶ江戸のファストフードだ。庶民が気軽につまむ、立ち食いスナックだったが、時代とともに高級化し、さらに一方では安さを競うチェーン店が増えていった。高級店とチェーン店の両極化により、私たちは「プロの味」を気軽にという楽しみを知ってしまった。

茅場町「みかわ」には、長らく5000円台のコースがあったと思う。その師匠の心意気を見習って中島さんは原価をギリギリに抑えて、一人3500円のコースで勝負することにしたのだ。
「古い街なんで、この周辺には5000円前後の安い天ぷら屋さんがけっこうあります。ならばどこよりも安いけれど、うまい店でありたい。そんな思いで成功する、それが今の目標です」。

夜のおまかせコース3500円より。穴子は一本揚げだ
箸を入れると蒸気が勢いよく噴き出るほど中は蒸された状態

3500円のおまかせコースは、旬の海の幸、山の幸が15品ほど。最後は小柱のかき揚げの天茶でしめる。サクッと軽い衣の中には、うまみを封じ込めた素材の味が生きている。ほっこり甘いグリーンアスパラ。クリーミーで海の香りが広がるウニの大葉巻きなど、天ぷらだからこその味わいに驚かされる。

以下、夜のおまかせコース3500円より。ウニ。大葉でくるみ、揚げるやり方は「みかわ」独特の揚げ方
子持ちアユ。魚介はほかに海老、イカ、キスが出る。海老の芯はレアに、イカも身に包丁を入れるなど、一つひとつ丁寧に揚げる。すると、素材の食感やうまみがよりはっきりと感じられるようになる
野菜は、写真のしいたけ、アスパラ、ナス。そのほかにシシトウ、ミョウガ、オクラなど
最後は小柱の天茶でさっぱりと〆(シメ)る。これで3500円はご立派。追加は一品ほとんどが280円

調理は中島さん一人、サービスは奥さまの千彰さん、そして時々、5歳になる息子の陽大くんがカウンター席で中島さんの仕事をみつめている。将来はお父さんのように天ぷらを揚げるのが今のところの目標とか。

一つひとつの素材の音に耳を傾けながら揚げる“天ぷらの職人”がどんどん消えていく時代。安くてうまい、それを次の世代にも残していく使命を担った店。「ふく庵」は陽大くんとともに日々、成長しているように思えてならない。

未来の巨匠! 陽大くん。ただいま釣りに夢中。「この間はハゼを釣った! 天ぷらに揚げてもらうの」とうれしそう。自分で揚げられるようになる、その日が待ち遠しい
Yahoo!ロコふく庵
住所
江東区富岡1-22-26 杉田ビル 2F

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アクセス
門前仲町駅[1]から徒歩約3分
門前仲町駅[5]から徒歩約6分
木場(東京都)駅[4]から徒歩約6分
電話
03-5646-6365
営業時間
11:45~13:30(売り切れ次第終了) 18:00~22:00(最終入店21:00、21:00L.O.)
定休日
日曜日・土曜日ランチ休み
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

この記事を書いたライター情報

犬養 裕美子

犬養 裕美子

レストランジャーナリスト

東京を中心に地方や海外の食文化、レストラン事情を最前線で取材。ファッション誌から専門誌まで数多くの雑誌で連載を持ち、その店の良さ、時代性をわかりやすく解説。特に新しい店の評価に対する読者の信頼は厚い。食に関わる講演・審査員など多数。農林水産省顕彰制度・料理マスターズ認定委員。

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