盲目的にネコを愛してはいけない 丸屋九兵衛が語るネコの生態

特集

猫が大好き!

2017/11/13

盲目的にネコを愛してはいけない 丸屋九兵衛が語るネコの生態

ネコ関連スポットもネコ愛を標榜する人も数あれど、ネコを愛でつつあらゆる方向からネコを語れる人は数少ない。今回は水道橋博士さんに「NEXT荒俣宏」との異名をつけられるほどの博学の人・丸屋九兵衛さんに、ずばりミュージアムにてネコについて多方面からお話を伺った。

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

今回、ネコ愛と博識を披露してくれたのはこの方

丸屋九兵衛さん

 
丸屋九兵衛

丸屋九兵衛

bmr編集長

東京駅直結のヴンダーカンマー

各種標本が大量に陳列されている「インターメディアテク」館内

ライフマガジンのための特別トーク会場となったのは、丸屋さん行きつけというJPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」。東京駅から直結するKITTE内にあるミュージアムだ。日本郵便株式会社と東京大学総合研究博物館によって運営されており、公式サイトによれば「東京大学が1877(明治10)年の開学以来蓄積してきた学術標本や研究資料など、「学術文化財」と呼ばれるものの常設展示」が隅々までぎっしり詰まった、驚異の部屋=ヴンダーカンマーそのものといえる施設だ。

丸屋さん
丸屋さん
「インターメディアテクの魅力は、そもそも博物学というものがそういうものなのかもしれませんが、理系的なものと文系的なものが同居しているところですね。見渡す限りずらっと並ぶ展示には、骨格標本から剥製、ミイラもありますし、バイキングが使った道具や、安田講堂の時計針とか、文化人類学的なアイテムまである。さらにそれらが完全に分類されて並べられているわけではなく、無脊椎動物の標本がここにあると思ったらしばらく進んだところにも再び現れたり、爬虫類と両棲類の剥製がごっちゃに置かれていたり。これによってイモリとヤモリの区別がつかなくなる人がまた増えそうですが(笑)、分野を越境して見ていくことの大切さも感じられます」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「専門化しすぎて他の分野が見えないのは危険ですもんね」
左上に展示されているのは安田講堂の時計針。越境にもほどがあるのもこの施設の魅力
丸屋さん
丸屋さん
「最近ひどい本があったんですよ。ある分野で功績のある方が自分の専門外のことを書いてるんですが、せめてもうちょっと基本的なことは調べようよと言いたくなるトンデモ本。専門化しすぎた人が付け焼き刃で越境を試みた失敗例ですね。あんなのが普通に出版されていて大丈夫かなと思いましたね。私はフランス文学者で作家、評論家として越境的な活躍をした澁澤龍彦のファンなんですけど、インターメディアテクは彼の趣味と共通するものを感じさせてくれる。正しく越境している、めくるめく博物学的な空間ですね」

全ての哺乳類の頂点はネコ!?

東京大学に相当古くから保管されており、正確な出処は不明というヤマネコの剥製。完成度的にイマイチなのは製作年代が古いためと、猛獣であることをアピールする演出が流行していた時代のもののためと推測される

それではいよいよ丸屋さんにネコについて本格的に語っていただこう。

丸屋さん
丸屋さん
「最近ではネコ目とも呼ばれていることからもわかるとおり、食肉目はネコ型の動物がその起源とされています。ネコから派生してイヌ科が生まれ……本当はイヌって言いたくないんですよ。なぜならイヌは本来オオカミの亜種なんですね。オオカミのくくりの中にイヌがいるのに、オオカミがイヌ科と呼ばれる。私は大学で文学部人文専修だったんですが、本当なら人文学の中に文学があるのに、名称が逆転していた。オオカミがイヌ科の中に入っているのもそれと同じで納得いかないんですけど、分類上そうなってるから仕方ないですね。そのイヌ科からクマが分かれ、クマからアシカやオットセイなどに分かれていったんです」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「そんな繋がってるんですね」
ネコの頭骨。周囲には各種動物たちの頭骨も並んでいるが、ネコはとりわけ小さい
丸屋さん
丸屋さん
「ネコの頭骨を見て判断できるのは、イヌなどと比べて顔がすごく短いということです。視界に鼻先が入ってこないので、立体視に非常に適している。獲物に照準を合わせるときに、邪魔なものがないんですね。ハンターそのものだな、と。ただ、ネコはスタミナがないんですよ。すぐにバテちゃう。そのため、基本的に一撃必殺なんですね。獲物に静かに近づいて一瞬で飛びかかって相手を仕留める。それに対してオオカミは群れになって走り、相手を追い詰めて、疲れさせたところで襲うんです。だからオオカミとネコの肉球は全然違う。ネコは音をたてないよう、ステルス用のすごく滑らかな肉球なんです。ステルス戦闘機のF-22のように」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「ほうほう」
丸屋さん
丸屋さん
「そういえばF-22の愛称は『猛禽類』という意味の『ラプター』なんですが、かつてのアメリカ軍には『グラマン社のネコシリーズ』と呼ばれる戦闘機の系譜がありました。ワイルドキャット、ヘルキャット、タイガーキャット、ベアキャット、パンサー、クーガー、ジャガー、タイガー。どんどん強くなっていきながら、なぜかその次がトムキャットと突然弱そうな名前になる。これはたまたまその時期のアメリカ海軍にトーマスという名前の将軍や提督が数名いたので、おそらくグラマン社が採用してもらうためにゴマをすったんじゃないかと思います」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「それがまんまと採用されたわけですね。そういえばマッキントッシュのOSもちょっと前までネコの名前がついていましたよね」
丸屋さん
丸屋さん
「そうですね。チーター、ピューマ、ジャガー、パンサー、タイガー、レパード、スノーレパード、ライオン、マウンテンライオン。ここまでか。でもですね、ネコ好きから言わせると、ライオンってネコの中では裏切り者なんですよ」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「なぜでしょう?」
丸屋さん
丸屋さん
ネコというのは本来、群れない生き物なんですよ。ところがライオンは群れを作る。しかもリーダーのオスが交替すると、群れの中の子どもたちは皆殺しにされてしまう。私がネコに惹かれるのは、オオカミなんかと違って単独で生きているところなんですね。そういう意味でライオンはちょっと気に入りません
ライオンは裏切り者だと語る丸屋さん

人間のネコ愛は一方通行

ベンガルヤマネコの剥製。先ほどより完成度アップ
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「とはいえネコも、イヌのように人間と一緒に暮らしていますよね」
丸屋さん
丸屋さん
「人間との共生については、オオカミとネコとで成り立ちが全然異なるんですよ。もともと我々の先祖は採集狩猟生活をしていたでしょ。獲物を奪い合うという点で人間とオオカミはライバルだったんですが、オオカミは群れを作る本能があるため、人間の集団も「群れ」と認識することができた。これによってオオカミは人間の狩猟生活の協力者となり、人間の生活に入ってくるようになったわけです。今でも、イヌにとっては飼い主の家族が「自分が属する群れ」なんですね。ネコもハンターですけど、彼らは協力なんてしないですからね。採集狩猟生活の時代には、人間とネコの共生なんてありえなかった
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「それがやがて変化していくわけですか」
丸屋さん
丸屋さん
「農耕がスタートしてからようやく、ですね。農耕生活の時代になると、食料の貯蔵も可能になってくる。すると貯蔵庫を狙うネズミが現れる。すると今度はネコが、あそこにいけば容易にネズミを獲れると気付き、人間の集落に自然と入り込んでくる。人間にとってもネコがネズミを排除してくれるなら助かる。ということで、人間とネコの共生がスタートしたんですね。ちなみにそうやって入ってきたのはリビアヤマネコです。リビアヤマネコというのは、ヨーロッパヤマネコのうち西アジアから北アフリカにかけて分布する亜種。これがやがて今のイエネコになった」
後ろに完成度が高い方のベンガルヤマネコの剥製。上にあるのはコヨーテの骨格標本
丸屋さん
丸屋さん
「なぜリビアヤマネコだったかといえば、メソポタミアからエジプトにかけてが文明の発祥地の一つだったからですね。そこに穀物が大量に貯蔵されていたためネズミが現れ、そこを生息地としていたリビアヤマネコが入ってきた、ということになります。そのおかげなのか、西アジアから北アフリカにかけてのネコ愛がまた激しいんですね。イスラム教の開祖のムハンマドがネコ好きだったというのもありますが、彼の友人にアブー・フライラという人もいて、直訳すると『ネコのお父さん』という意味のあだ名なんですよ。いわば偉人『ネコのお父さん』。古代エジプトに話を戻すと、当時のネコ愛の激しさを表すものとして、エジプト軍が籠城しているところに敵軍がネコを投げ込んで『お前たちが抵抗するとネコが死ぬぞ!』と脅したら、エジプト側が事態を重く見て降伏したなんていう、卑劣なんだかいい話なんだかわからないエピソードもあります」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「それだけ人に愛される生き物なのに、ネコは人間と群れているとはいえないわけですか」
丸屋さん
丸屋さん
「イヌが品種”改良”されていろんな形になっているのに対して、ネコはそこまで異常な”改良”をされてはいないので、基本的には野生の本能を残しているんです。私がネコに惹かれるのもそこ。人間の近くにいるけど、決して飼いならされていない。同居してあげている、という感じ。気まぐれで何を考えているかわからない。もちろん問題はあって、あいつら単独主義のくせに、自分が獲った獲物を持ってきて自慢したりするでしょ。朝起きたら枕元に小鳥の死体が置いてあったり」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「それはしばしば聞く厄介な話ですよね」
丸屋さん
丸屋さん
「あれのせいでどれだけ無駄に生命が奪われていることか。自分が飼って可愛がっているからといって、その本能をなめちゃいけません。ネコはいつでも野生に戻りかねませんし、下手したら生態系を壊す可能性もありますからね。私はネコが大好きですけど、ネコがやることなら全部許しちゃう、みたいな無批判なネコ愛はいけません
ネコが好きだからこそしっかり対応すべし!

ネコを題材とした作品群(の、ほんの一部)

ミュージアムにて博物学的視点から丸屋さんのネコ愛、ネコ博学をお聞きしたが、音楽や映画、文学などでもネコを題材としたものは多い。また、メタファーとしてネコを使うケースもあり、そのあたりもいくつか伺ってみた。

どんな話題をふっても打ち返してくれる丸屋さん
丸屋さん
丸屋さん
「『dog』は親しみを表すときに使われますね。特にアメリカでは、親しい男性を指すときに『dog』と言うことが多い。『That s my dog.』と言ったら、『俺の友だち』みたいな意味になります。ただしあくまでこれは男性であって、女性は『dog』にはならない。ヒップホップやR&Bのコンサートのお約束としては、『Where my ladies at ?』で女性客が歓声を上げ、続いて『Where my dogs at ?(犬たちはどこだ?)』と言われると男性客が盛り上がる。男女でいえば男がイヌ、女がネコという使い分けもありますが、この場合のイヌに対するネコは距離がある感じを含むので、『Where my cats at ?』とはなりません」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「距離があるのがネコですか?」
丸屋さん
丸屋さん
「そう、謎めいて近寄りがたい存在の比喩としてネコが使われるケースが多いですね。だから今は亡きプリンスは常にネコでした。彼をイヌと呼んだ者は誰もいません」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「いい話ですね」
丸屋さん
丸屋さん
「ネコを題材としたフィクションもキリがないほどありますが、映画ですと最近なら『キアヌ』ですね。話題の映画『ゲット・アウト』を監督したコメディアンのジョーダン・ピールが、相方のキーガン・マイケル・キーと主演した、気のいい黒人コンビが誘拐されたネコを取り戻すためギャングに挑む、というコメディです。タイトルのキアヌは登場するネコの名前で、その声をキアヌ・リーブスがやっている。この映画、内容的にもキアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック』のパロディにもなっているんですね。『キアヌ』は日本では劇場未公開ですが、ソフトがリリースされているので2本あわせてぜひ。とにかく出てくるネコが可愛いのが最高ですし、生物学的にもネコがジャンプして敵を仕留めるシーンがあるのもいいですね」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「観ます!」
連想的に次々関連事項が挙がり、話題は尽きることがない
丸屋さん
丸屋さん
「タッド・ウィリアムズの『テイルチェイサーの歌』というファンタジー小説は、ネコ版『指輪物語』といった趣きの作品で、これも好き。来年あたりアメリカでアニメ映画化されることになったんですが、残念ながら絵柄があんまり可愛くない。ジブリが映画化した『ゲド戦記』でおなじみのアーシュラ・K・ル・グインが書いた児童文学『空飛び猫』シリーズも傑作ですね。羽が生えている猫の物語。私、上半身のいろんなところにタトゥーが入っているんですが、右肩がまだ空いているので、そこに羽の生えたネコちゃんを入れたいと思っています」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「タトゥーの図案は原作の挿絵などを参考に?」
丸屋さん
丸屋さん
「吉田ルイ子という写真家がいて、この人は1960年代にマンハッタンのハーレムに暮らしてそこの日常を撮り『ハーレムの熱い日々』という本にまとめた人なんですが、彼女が帰国後にネコを拾って育てた実話を書いた『わたしはネコロジスト』というフォトエッセイがあるんですね。この本の寅之介ちゃんがとにかく可愛くてですね、この写真に羽を生えたものを肩に彫りたいと思っています。これが完成したら、私の右肩は私のネコ愛を示すものであり、アーシュラ・K・ル・グインへの愛を示すものでもあり、吉田ルイ子へのトリビュートを示すものにもなるわけです」
ライフマガジン編集部
ライフマガジン編集部
「今回の記事に間に合わないのが残念ですが、完成したらぜひ見させてください!」

話を向ければあらゆるベクトルで話題の尽きそうにない丸屋さんだが、今回はここまで。「ネコ」というキーワードでここまで横断的に語るには、ミュージアムという場はまさに打ってつけ。東京駅に立ち寄った際には、ネコへの興味に限定することなく気軽に足を運んでみよう。常連レベルで訪れているという丸屋さんを見かけることがあるかもしれないぞ(ただし館内ではお静かに)。

 
Yahoo!ロコJPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク
住所
東京都千代田区丸の内2-7-2 KITTE2・3階

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アクセス
東京駅[東京中央局方面出口]から徒歩約1分
東京駅[丸の内中央口]から徒歩約3分
二重橋前駅[4]から徒歩約3分
電話
03-5777-8600
営業時間
開館時間:11:00-18:00(金・土は20:00まで)入館は閉館時間の30分前まで*上記時間は変更する場合があります。
定休日
月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)、年末年始、その他館が定める日
口コミ・写真など

※この施設の情報はYahoo!ロコから提供されています。

取材・文/田中元
撮影/川村将貴

この記事を書いたライター情報

Yahoo!ライフマガジン編集部

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