今宵は歓楽街で読書 歌舞伎町&吉原で愛の専門書巡りをしてみた

特集

いま、個性派本屋がおもしろい!

2017/11/21

今宵は歓楽街で読書 歌舞伎町&吉原で愛の専門書巡りをしてみた

かねてより歓楽街として知られる歌舞伎町と吉原。実はこの街に、それぞれの街の特色が反映された本屋が存在するのをご存知だろうか。というわけで今回は、愛について現在進行形で勉強中というライターの小山田滝音が、それぞれのお店へ赴き、愛とは何かを知るための“愛の専門書巡り”をしてみた。

Yahoo!ライフマガジン編集部

Yahoo!ライフマガジン編集部

愛の専門書巡りをする人

どうも、僕です
小山田滝音

小山田滝音

ライター

その1 吉原の遊郭専門書店へ行ってみたの巻

まず小山田が訪れたのは、吉原(台東区千束3〜4丁目付近)にある書店「カストリ書房」。ってなんで吉原スタートなんだ……というツッコミはさておき、小山田的には吉原は愛が溢れる場所なのである。

吉原といえば江戸時代、遊女屋が集まる江戸屈指の遊郭の街で、現在でもいわゆる本格的な風俗店がある街である。そんな東京を代表する大人な街に、昨年9月にオープンしたのがこの「カストリ書房」だ。そう、絶対に愛を学ぶならこの本屋しかない、と小山田は判断したのである。

初めて吉原に足を踏み入れたという小山田。心なしかそわそわしている

この日小山田を迎えてくれたのは、店長の渡辺豪さんだ。

もともと遊郭に興味があり、全国を旅していたという渡辺さん
ライター小山田
ライター小山田
「こんにちは。今日は『愛』について教えてほしくてやってきました(唐突)。こちらはどんなお店なんですか?」
渡辺店長
渡辺店長
「いらっしゃいませ。こちらでは遊郭・赤線・歓楽街に関する、全400タイトル以上の本を取り揃えております。新刊のほか、古書や中古本なども扱っています」
ライター小山田
ライター小山田
「遊郭ってまた特殊な分野だとは思うんですが、何でまたこういったお店をやろうと思ったんですか?」
渡辺店長
渡辺店長
「もともとIT系の企業に勤めていたのですが、その傍ら遊郭にとても興味があって、全国にある遊郭やその跡地などを巡って独自に取材をしていたんです。それをずっとやっているうちに仕事にできないかなと思い始めて、ついに会社を辞めて2014年に出版社を立ち上げました。ネット販売が中心だったのですが、実店舗を開こうと思ってオープンしたのがこの店です」

筋金入りの遊郭マニアである渡辺店長。こんな方がやっている遊郭専門の本屋さんが薦める一冊とは?

それがこちら。

写真家の伴田良輔さんが手がけた『ダッチワイフ』(2160円、皓星社)
渡辺店長
渡辺店長
「タイトル通り、ダッチワイフ(ラブドール)に関する一冊。ダッチワイフが登場する作品群を、伴田良輔氏が小説・詩・漫画・脚本から精選している本です。最近ではダッチワイフに対して愛情を抱くことが徐々に認められているようになってきています。テクノロジーの進化によってダッチワイフはどんどんと“人”に近付いていっているわけですから、当然起こり得ることです。そうした状況下で、この本を読むと『愛とはなんだろう?』と考えさせられますね」
ライター小山田
ライター小山田
「速攻買います! あぁぁ、すぐ読みたいよぉぉぉ!」
渡辺店長
渡辺店長
「ありがとうございます。奥に喫茶室がありますので、そちらでお読みください。コーヒー(350円)も用意していますので良かったら是非」
店内奥にある喫茶室。購入した本はここで読める
そして愛を学ぶライター小山田
ライター小山田
ライター小山田
「(読書を一通り終えて)う〜ん、愛って難しいですね…。あの、渡辺さんは全国の遊郭や関連スポットを渡り歩いて、どんな取材をされていたんですか?」
渡辺店長
渡辺店長
「そうですね、そもそも遊郭って昔はどれくらいあったと思いますか? 大正時代くらいは全国に550か所もあったんですよ」
ライター小山田
ライター小山田
「550か所もですか」 
渡辺店長
渡辺店長
「ここ吉原や大阪の飛田新地は有名ですが、無名といいますか、もうどこへ行ったかもわからない遊郭の方が圧倒的に多いんですよ。もし遊郭にご興味があれば、こちらの本を読んでみると少しは分かると思いますよ!」

そう言って差し出してくれたのが、こちらの作品!

渡辺店長が次におすすめしてくれたのは『全国女性街ガイド』(5400円、カストリ出版)
渡辺店長
渡辺店長
「『売春防止法』が公布された昭和31年の以前、日本全国に点在していた遊郭の様子を追っていた人物がいらっしゃったんです。当時こういった活動をしていた人はこの方くらいしかいなかったんですが、その後なぜか消息不明になってしまった。それで私が2〜3年前にこの方の家族を見つけ出して取材し、それを本にしたのがこの作品なんです」
同作品も即購入して読む小山田。これは深い世界だ…
渡辺店長
渡辺店長
「遊郭の世界から生まれた建築物や着物、歌舞伎など、遊郭から生まれた文化は今もなお残っているものもあります。それらはきっと、時代の結晶の一部なのかなと思ったりもします。今、遊郭に興味を持つ人は多くなっているのですが、なかなか情報源に当たれない。どこに行って当時のことを知ればいいかわからない。そこでこういった本屋を開くことで、そうした遊郭に興味を持つ人のためにもなると思ったんです」
ライター小山田
ライター小山田
「なるほど、遊郭やそうした文化を知りたいという人が増えているという背景がこのお店の誕生を後押していたんですね。ちなみに渡辺店長は、遊郭のどんなところに、特に魅力を感じているんでしょうか?」
渡辺店長
渡辺店長
「それが、実は自分でもよくわかっていないんです(笑)。当初は“怖いもの見たさ”というか、そこに魅かれる気持ちもありましたが。ただひとつ言えることは、遊郭には、負の側面も忘れてはいけないのですが、そこにはとても魅力的な文化もあるわけです。見てはいけないものとして目をつぶるのではなく、積極的に知ることで、当時の日本の社会や風俗、文化を学ぶきっかけにしてもらいたいと思います」
キーホルダー(972円)、Tシャツ(1080円)など遊郭にちなんだグッズもあり、ここでしか手に入らないものもある
渡辺店長
渡辺店長
「当店では今月から喫茶室で、遊郭に関する創作活動をしている人のためのギャラリーを始めました。今後も定期的にやっていくつもりです。そこでは創作活動をしている人はもちろんのこと、研究者の方も足を運びに来ることもあるので、そこで交流が生まれてまた新しいものができたら面白いですね!」
ライター小山田
ライター小山田
「すばらしい! 出会いがあるってステキですね。ここに通えば『愛』についても、より深く学べそうだし、考えられそうな気がします。また遊びに来ます!」
「遊郭」に関するあらゆることに触れられる「カストリ書房」。ぜひ一度訪れてみては?

その2 歌舞伎町のど真ん中にできた愛専門書店へ行ってみたの巻

夜。小山田が訪れたのは、新宿・歌舞伎町にある「歌舞伎町ブックセンター」。歌舞伎町といえば説明不要、アジア最大の歓楽街である。この街に今年の10月6日にできたのが「歌舞伎町ブックセンター」だ。

ホストに間違えられたことがあるライター小山田。歌舞伎町がよく似合う

小山田を迎えてくれたのは、オーナーの手塚マキさん。ホストクラブ、BARなど16軒を歌舞伎町で展開しているSmappa!Groupを経営しており、ホストの世界で知らない人はおそらくいない人物だ。

ホストであり経営者でもある手塚さん。歌舞伎町商店街振興組合理事も務める
ライター小山田
ライター小山田
「手塚さん、今日は宜しくお願いします! ぜひ僕に『愛』について教えてください(前のめり)」
手塚さん
手塚さん
「もちろんです。愛のない人なんてこの世にはいません。ここには『愛』をテーマにした本を約400冊並べています。ぜひゆっくりご覧になっていってください」
ライター小山田
ライター小山田
「ありがとうございます。ふとした疑問なのですが、手塚さんはホストなわけじゃないですか? 何で本屋を始めようと思ったんですか?」
手塚さん
手塚さん
「もともとここはうちの事務所の1階で、そこにカウンターがあってハンバーガーやお酒を提供していたんです。さらに、酒屋さんの免許も持っているので、店の奥ではワインを原価で販売していました。それと、よくイベントなんかも開催していました」
店内にはカウンターが設置してあり、購入した本はここで読むことができる
手塚さん
手塚さん
「そもそもですが、僕は経営者として10年以上前から、従業員であるホストたちには教養を身に着ける為に、座学ではなく、本や映画を勧めてきたんです。僕らは接客業。お客様が悲しいときに一緒に同じように悲しくなれて、嬉しいときに嬉しくなれる。そういうホストになることを目指していたからなんです。だからうちでいう教養というのは、国語算数理科社会ではなくて、感性を磨く本なんです」
ライター小山田
ライター小山田
「すごい、僕も感性を磨きたい…。ホストのみなさんは実践していったんでしょうか?」
手塚さん
手塚さん
それが正直全然で…(笑)。『本を買って読んで、ブログに感想を書いたらその本を会社が買い取る』といった“本買い取りシステム”とかもやったりしたんですけどね。そうこうしている中で出会った編集者の草彅洋平さんがこのバーを見て、『ここを本屋にしませんか』と言ってくださったんです」
ライター小山田
ライター小山田
「そんな経緯があったのですね。ところで…愛初心者の僕に何かおすすめの本ってありますか?」

すると手塚さんは、一冊の本を取ってきてくれた。

田亀源五郎氏によるコミック『弟の夫』(670円、双葉社)。『月刊アクション』で2014年11月号から2017年7月号まで連載されていた作品だ
手塚さん
手塚さん
「タイトル通り、弟が同性愛者だというお話。弟が亡くなってしまい、『夫』を名乗る外国人の男が主人公のもとを訪ねてくるんです。ここで、弟が同性愛者であること、“義理の弟”も同性愛者である事実を目の当たりにする。この作品に触れることで、家族とは何か? 同性愛とは何か? 愛とは? そもそも自分の価値感とは? 自分とは? と言った具合にいろいろと考えさせられるので、自分と見つめ合うにはとても良い作品です。さっきも言いましたけど、愛のない人なんていませんから」
ライター小山田
ライター小山田
「コレ、買いますわ!」
早速読み始める小山田。しかし、目が点になる

そんな小山田を見かねたのか、手塚さんは優しくも2冊目も差し出してくれた。愛情で溢れている。

手塚さん、やっぱラブっすよね
オススメしてくれたのは写真家の荒木経惟氏による写真集『愛のバルコニー』(1620円、河出書房新社)。1983年から2011年までの荒木家のバルコニーの様子を撮影し続けた内容となっている
手塚さん
手塚さん
「この作品は、ベランダをずっと撮っているだけ…なんですが、夫婦である二人の生活を見ることができます。夫婦が長年暮らすという、一つの愛の形が分かるわけです。人の愛を見られるという意味では初心者にはとても良いですね」
ライター小山田
ライター小山田
「もちろん、即買いで!」
「他人の愛」を目の当たりに、再び目が点になる小山田
手塚さん
手塚さん
「ゆっくり読んでいってください! 僕はこの場所を最初から、『歌舞伎町の文化的サロン』にしたいなと思っていて。歌舞伎町界隈で働いている人たちともそう話していたんです。紀伊國屋書店創業者である田辺茂一さんはもともと紀州備長炭を商っていたんですが、新宿で文化的な場所を作りたいと考えて本屋を始めた。僕も彼を見習って、そういう場所にしたいなって思ったんです」
ライター小山田
ライター小山田
「なるほど。いろんな話が重なってこの歌舞伎町ブックセンターができたんですね」
手塚さん
手塚さん
「そうなんです。僕も本が好きで本屋をやりたかったですし。そんなタイミングから草彅洋平さんと校閲者で神楽坂の書店『かもめブックス』店主の柳下恭平さんの3人でオープンするに至ったんです。そうやって文化的な発信を続けることで、歌舞伎町で働く人たちが集まれる場所になり、“愛のラビリンス”であるこの歌舞伎町自体の民度が上がればいいな、なんて思っています」
ライター小山田
ライター小山田
「ここがハブになって、さまざまなつながりを生み出していくと」
手塚さん
手塚さん
「はい。本屋ではありますが、ただ本を売る場所ではなく、本をきっかけに、コミュニケーションが生まれてそこから、まさに愛が生まれても良いですし、友達ができても良いし、仕事が生まれても良い。飲み屋を紹介してもらうだけでも良い。本屋のはずなのに、本を一冊ここで読んだだけなのに、いろいろな可能性が手に入る。そんな場所にしていきたいです」
ライター小山田
ライター小山田
「もはや歌舞伎町全体を舞台にした、新たな文化のはじまりですね。ここに通えば僕も愛についてもっと知れそうだぞ。ちなみに、手塚さんは『愛』ってなんだと思います?」
手塚さん
手塚さん
「そうですねぇ、人と生きること…『共有』とか『喜びを分かち合う』とかが近いのかもしれませんね!」

愛の書店を巡ってみて

今回小山田が取材した「カストリ書房」と「歌舞伎町ブックセンター」。どちらもただの書店ではなく、文化的な発信をしていく素晴らしいスポットだった。愛や遊郭に興味がある人はもちろん、ぼんやりと何かに触れたい、何かを手に入れたいと思う人はぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。


取材・文 小山田滝音

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