精神科医が回想した「あそこ寿司」気づきに始まり気づきに終わる

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10月の連載記事まとめ

2017/10/28

精神科医が回想した「あそこ寿司」気づきに始まり気づきに終わる

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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「いまここ」を体験することによって、自分の知らない自分と出会うこともあります。

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

ひょんな事から、10年以上前の記憶を思い出し、夢に見ました。そこに出てきたのは「あそこ寿司」と言う八丈島のお寿司屋さん。その思い出し体験を通して、なんとなく自分と向き合うことができました。今回はそんなお話です。

  

【目次】
1.「あそこ寿司」、夢か現実か
2.気づきに始まり気づきに終わる
3.「あそこ寿司」を回想してみて


1.「あそこ寿司」、夢か現実か

  

・「あそこ寿司」

  

「あそこ寿司」

  

いま、数行連続で出てきた「あそこ寿司」という文字を読んだ多くの人は、小学生の男子が喜ぶような、少し下世話な想像が湧いてきたのではないでしょうか。

  

でも実はこれ、八丈島に実在するお寿司屋さんの名前なんです。

  

多分……。

  

なぜ多分、なのかというと、僕がここを訪れたのは、10年以上前の学生時代だからです。

  

・八丈島の記憶

つい最近、勤務先の同僚が伊豆諸島に旅行に行ったと話しているのを聞いて、そういえば学生時代にアルバイトで貯めたお金で八丈島に何度か行ったことがあったな、とふと思い出しました。

  

その夜には、八丈島を舞台にした、比較的リアルな夢を見たほどです。

  

八丈島には、仲の良かった友人と毎回2人で行きました。

  

目的は釣りです。しかも、ヒラマサを釣ること。

  

ヒラマサといえば、アジ科魚類の最大種。海釣り初体験の大学生が簡単に釣れる獲物ではないことくらい、今考えればすぐに分かります。

  

しかし、当時は無鉄砲というか考えなしというか、

  

世間知らずというか、そういう感じだったので、

  

僕たちは何のためらいもなく釣り宿を予約し、約1時間のフライトを経て八丈島に降り立ちました。

  

・壮絶な海釣り初体験

朝は日の出前に起床し、宿の女将さんがつくってくれたおにぎりを食べて船に乗り込みます。

  

高鳴る鼓動。

「待ってろよ、ヒラマサ!」

心でそう叫びながらいざ出発!

  

しかし、出発してしばらくすると、高鳴る鼓動を抑えて圧倒的優位に立った身体症状は、吐き気でした。

  

もう、釣り船の揺れること、揺れること。

そう、船酔いです。

  

当然、その身体症状は弱まるわけはなく、先ほど女将さんに頂いた朝のおにぎりは全てトイレに……。

  

この時の心の中のセリフは

「お、おのれ、ヒラマサ!」

  

でも、実際は出会いもしていないので、ヒラマサからしたらいい迷惑です。

結局最後まで、ヒラマサの影さえ見ることはできませんでしたが、意地で、ヒラマサと同じアジ科魚類のムロアジなどは釣り上げました。

あぁ、思い出すだけで辛い……。

うっ

  

・島寿司が食べたい

宿に戻って何とか回復し、ブラブラしながら、八丈島ならではの「アシタバソフトクリーム」を食べたりして過ごしていたら、

  

当然、八丈島名物の島寿司が食べたくなります。

  

あ、ちなみに、アシタバはセルライト対策にとても良いという情報を教えてくれたソフトクリーム屋さんのおばちゃんが
「ほら」と言いながら見せてくれた二の腕には、セルライトが結構存在していました。

  

多分……。

まぁ、それはさておき島寿司です。

その頃はまだ、お店を十分に探せるサイトなどがなく、検索することができませんでした。

なので、釣り宿の女将さんにオススメを聞いてみると

「あそこなら間違いないね」

  

と言うのです。

「あそこってどこですか?」

と聞いても店名は教えてくれず、

「ここ真っ直ぐ行くと、10分であそこだから。行ってみればいい」

と、いくら話してもロールプレイングゲームでヒントをくれる町の人のような謎めいたことしか教えてくれません。

  

仕方がないので言われた道を真っ直ぐ歩いてみると、簡単に見つかりました。

「あそこ寿司」!!

  

なるほど。

まさかの店名だったというわけです。

・美味!あそこ寿司!

島寿司というのは、醤油ベースのヅケのお寿司を辛子で食べる八丈島の名物です。

  

ただ、確か「あそこ寿司」における「島寿司」は、地元で獲れたネタを使った、ヅケではない普通のお寿司を指していて、一般的に「島寿司」と言われるヅケのお寿司は、「あそこ寿司」では別の名前のメニューだったと思います。

  

なぜそんなややこしいことを覚えているかというと、僕らが食べたかったヅケのお寿司は予約が必要だったのですが、女将さんの「あそこに行くべし」というアドバイスに従っただけの僕らは予約をしていなかったので、翌日わざわざ再訪してヅケのお寿司を食べに行ったからです。

  

今考えると、その旅行で1番の贅沢だったと思います。

そして実際、間違いなくとても美味しいお寿司でした。

  

でも、僕らがまだ、考えなしの男子学生だったからか、その旅行の記憶の鮮やかさ第1位は、島寿司の美味しい味ではありません。

  

あの時、「あそこ寿司」という名前ばかりに気をとられ、店員さんの股間をチラ見して無駄に笑ったりしていた記憶。

  

その、愉快さ以外は本当に何も残らない、青く、くだらない思い出が、残念ながら最も印象に残っています。

はぁ、若さゆえの無知、強いですね。

  

・夢か現実か

そんなわけで、目的のヒラマサを釣れず、島寿司を堪能もせず、でもただただ楽しかった旅を最近思い出し、夢にも見たのでした。

  

というか、学生時代のことなので記憶が曖昧で、この記憶自体が夢のような気もしてきます。

  

でももし夢だったとしても、ファンタジーだったとしても、何となく学生時代の青さを再体験できた気もするし、自分の至らない部分にも触れることができたような気がしたので、良かったです。

  

2.気づきに始まり気づきに終わる

・夢の話

夢占いのサイトや本などを見たことがある人も多いのではないでしょうか。

それらは大きくまとめると、自分の見た夢が「何か」を暗示していると考え、その「何か」を解釈していく行為です。

  

その解釈によって、自分でも意識できていない自分の部分、自分の無意識の部分を知っていくというわけです。

  

これらは、心理臨床の偉人であるフロイトユングも行なっていたことです。

ただ、解釈の仕方はフロイトとユングでは異なり……

なんてお話を今回始めてしまうと、膨大な文字量になってしまうので、このお話はまたの機会にしようと思います。

・夢を解釈しない療法

このように、精神分析を開発したフロイトや、その弟子の1人であるユングは、夢を解釈することによって、治療に生かそうとしました。

一方、解釈する、つまり「あなたの夢は、実はあなたのこういうところを表現しているかもしれません」ということを、セラピストが相談者に伝えることで治療が成立する、という形ではない療法も存在します。

・ゲシュタルト療法

例えば、ゲシュタルト療法というものがあります。

「ゲシュタルト」というのは、ドイツ語で「全体性」とか「かたち」などを意味します。

  

上の図形は「ルビンの壺」といいます。この図形を、「壺の図」と認識する場合、背景に見える「向かい合う横顔」は「図」として認識はされません。
その逆、「向かい合う横顔の図」と認識する場合は、「壺」を認識できません。

このように、認識される「図」に対して、認識されない部分を「地」と言います。
そして、この「ルビンの壺」のような図形を「図地反転図形」と言いますが、全体としては「図」も「地」も一つの図形ですよね。

これを人間にあてはめると、心も身体も認識できている部分(図)と出来ていない部分(地)がある。でも、「全体」として捉えると、一体であると言え、その「全体」を自ら感じられるようにする、というのがこの治療法の指針です。

このゲシュタルト療法の特徴は

「気づきに始まり気づきに終わる」

  
  
  

という言葉で表されます。

「いまここ」で自分は何を感じ、体はどんな感じがしているのか、そして、「図」と「地」をひっくり返すようなイメージをしたら何を感じるのか、などを気づけるような働きかけをするのです。

・夢のワーク

このゲシュタルト療法の技法の一つとして「夢のワーク」というものがあります。

  

これは、先ほどお話していた、自分が見た夢をセラピストに解釈してもらう、というものではなく、自分がみた夢を現在進行形で、いまここで体験しているかのように話す、というものです。

  

「今、八丈島の地に降り立ちました」

「船酔いでとても辛いです。泣きたいです」

「あそこ寿司なんて名前、笑いが堪えきれません」


などといった感じでしょうか。

こういった方法で、夢を再体験して、自分で夢のメッセージに気づいていくことを目指すのです。

  

セラピストは、その作業を支えるにとどめます。

  

なので

「あそこ寿司という名前は、あなたの性的な欲望があらわれているのかもしれません」

などの解釈は行いません。

  

僕自身は、このゲシュタルト療法の現場をほとんど体験したことはありませんが、この「夢のワーク」の他にも、

・椅子に座り、対面する場所にも椅子を置いて、座席を移りつつ、自分や他者を想像しながら一人で対話を行う「エンプティチェア」

・イメージで、未知の自己や他者に出会う旅を行う「ファンタジートリップ」

・身体の一部となって対話をする「ボディワーク」

などが行われているそうです。

最後の「ボディワーク」、漫画「寄生獣」みたいですね。

  

ミギー!

  

3.「あそこ寿司」を回想してみて

今回、同僚の旅行話がきっかけで、遠い学生時代の出来事を回想し、再体験してみました。

  

その結果、「夢のワーク」のように、特別に「いまここ」を強く意識したわけではないものの、なんだか昔の感覚に少し触れられたし、普段あまり意識しない自分の部分とも出会えたような気がして、とても豊かな時間でした。

  

今に思えば笑ってしまう、青くさい思い出などを回想してみることって、時には良いのかもしれません。

・あそこ、再訪の決意

そして、近い将来、必ず「あそこ寿司」を再訪し、

  

今度はしっかりとお寿司に集中して楽しんでみたいと強く思いました。

  

みなさんも是非、旅行先の候補に、八丈島はいかがでしょうか。

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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画家

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