精神科医のケンタッキークリスマス、アイデンティティの話と共に

特集

11月の連載記事まとめ

2017/11/28

精神科医のケンタッキークリスマス、アイデンティティの話と共に

精神科医として総合病院に勤務する傍ら、文筆、音楽、ラジオなどマルチに働く星野概念が「食べに行く」という行為を通して、「こころ」に関する気づきをひも解く。

Yahoo!ライフマガジン編集部

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人は10代で「自分らしさ」、つまりアイデンティティを確立しようと試行錯誤します。試行錯誤の過程は……、大変でした。

こんにちは、精神科医の星野概念です。

この連載は、日常の食生活の中から僕が感じたり考えたりしたカウンセリング的要素をみなさんにご紹介するものです。

クリスマスが近づくと、必ず思い出される10代の苦い恋愛の思い出。そこにはケンタッキーフライドチキンが大きく関係しています。今年もそのことを思い出していたら、ふと、アイデンティティにまつわる発達心理学の理論とひもづきました。今回はそんなお話です。

  

【目次】
1.アンチクリスマスになった過程
2.アイデンティティについて
3.クリスマスに対するアイデンティティ


1.アンチクリスマスになった過程

・もうすぐクリスマス!

さぁ、もうすぐクリスマスです!

僕は声を大にして言いたい。

「ふーーーーーん」

  

・・・・・・・・。

そりゃ、僕だって祝祭ムードになれるものならなりたいです。でも、それを邪魔する高校時代の恋愛の思い出があります。

  

・中学時代の恋愛

自分の10代の頃の恋愛を思い出すと、今でも胸がキュン、ではなく、ズン、とします。

  

まず中学時代。

共学校だったこともあり、2度、交際に発展した恋がありました。

一緒に通学をするとか、当時の中学生らしい交際だったと思いますが、2度とも同じ形で、3ヶ月で振られました。

  

とても悲しく、どちらの時も自宅の床につっ伏して泣いたのを今でも思い出せます。

  

当時、太っていたのですが、太った中学生が自宅でつっ伏して泣く姿を想像すると、我ながら面白く、かわいく、でも悲しいという、複雑な気持ちになります。

  

まぁしかし、そこは中学生の男子。ほどなくケロリと健やかに立ち直れました。

  

・高校時代の恋愛

高校は男子校でした。学校生活自体は楽しかったのですが、やはり女性との出会いはかなり少ない3年間でした。

それでも、友人の紹介で出会った他校の女性と1度交際したことがありました。

  

・原宿でたった1度のデート

初デートは原宿。

ドキドキしながら歩いたキャットストリートには、何軒かフィギュアを売っている露店が出ていました。

  

当時、僕はフィギュアを集めることが趣味だったので、どうしても興味が抑えられず、その露店に寄ってしまいました。すると、そこで出会ったアメリカの製粉会社のマスコット「ドーボーイ」のフィギュアが僕の心を撃ち抜きました。

ズキュン!

  

確かに、今みてもかわいいキャラクターではあります。ただ、その時は、それにしてもそこまで? という程、魔法でもかけられたようにドーボーイに惹かれてしまい、迷うことなく購入しました。

ハッ!!

  

ふと我にかえると、彼女が真顔になっています。いや、もともと真顔だったような気もするのですが、明らかに雰囲気が硬質になっていたのです。そしてその直後、

「キモい」

と静かに呟き、キャットストリートを原宿方面に走って行きました。

  

自分の人生で「呆気にとられる」を最も体現したのは、あの瞬間だと思います。

  

結局、その日はもう会えず、仕方なくドーボーイとともに帰宅しました。

ただ、それが最初で最後のデートになるなんて、その時は考えもしませんでした。

  

・そしてクリスマスがやってくる

あの時携帯電話を持っていたら運命は変わっていたのでしょうか。

そんなことは誰にも分かりませんが、彼女の学校は離れていたし、試験勉強のタイミングのすれ違いなどもあって数ヶ月は会えず、どんよりした関係のまま気づくと12月。

  

学校では、恋人のいる友人たちが、クリスマスの予定を話し合っていました。

それを聞いて、僕はクリスマスに挽回を試みることを決意しました。

  

・お願い、カーネル・サンダース

と言っても、クリスマスにデートをした経験がなかったので、どうしたらいいか全く分かりません。

雑誌で紹介されているデートスポットをたくさん調べましたが、なんだかどこも大人っぽくてハードルが高いような気がしました。

そんな時、地元の商店街の入り口に立っていたカーネル・サンダースが目に入りました。

  

このおじいさんだったらきっとどうにかしてくれる!

  

恐らく、デートプランが決まらず追い詰められていたという状況と、カーネル・サンダースの「優しくて包容力がありそうな白髪のおじいさん」という見た目が化学反応を起して、ケンタッキーフライドチキン(KFC)で食事をすれば全てがうまくいくと思えたのです。

  

店頭に置かれているカーネルさんの置物にここまで信頼を置いていたなんて、今考えると我ながら危険を感じます。

  

でもその時は、クリスマスにチキンを食べるというパーティ感で、間違いなく彼女との関係は挽回できると確信していました。

  

それから数日間は、1人で自主練をしました。

色々なメニューを試した結果、チキンもコールスローもアップルパイも美味しかったのですが、何よりも僕の心を打ったのは、今はレギュラーメニューにないフライドフィッシュでした。

あの魅惑のタルタルソース。

これで彼女の胃袋は掴んだ!

  

自信満々でワクワクしながら、クリスマスイブの3日前に彼女に電話をしました。

・きっと君はこない、いや、確実にこない

  

「もしもし、クリスマスなんだけどさ」

「・・・・」

「クリスマスには久々に会おうよ」

「・・・・」

「あれ、もしもし? 聞こえてる?」

「・・もう、ダメなの、ごめん・・・・」


頭の中は真っ白です。

  

カーネル・サンダースのスーツよりも真っ白。

「あ、そうなんだ」

と自動音声のようなトーンで言った後は多分1分くらい言葉が出ず、電話の向こうで泣いてる彼女を気遣うこともできずに電話を切ってしまいました。

  

その後、さすがに床につっ伏して泣くことはしませんでしたが、その年は山下達郎の「クリスマス・イブ」をクリスマスが終わってからも何度も聴きました。

  

ケンタッキーフライドチキンのCMソング「すてきなホリデイ」が山下達郎の妻、竹内まりやの曲だというのを知って、「奥さんがいるなら、ひとりきりのクリスマス・イブなんて嘘じゃないか!」と、大好きな山下達郎にまで意味不明な八つ当たりの気持ちを抱いたこともありました。

  

恋愛は、人を狂わせるんですね。

  

・アンチクリスマスでも、KFCは好き

そんなわけで、翌年以降、僕はクリスマスを無視することにしました。

  

「そもそも日本でクリスマスを祝う意味がわからない!」
「そういえば、母はお寺の娘だし、いとこは僧侶になるらしい。家系的にもクリスマスは関係ない!」

  

など、紋切り型や、無理やりなこじつけを駆使して、アンチクリスマスなマインドコントロールを自ら行いました。

  

でも、それとは関係なくKFCには、フライドフィッシュを求めて定期的に行くようにもなりました。

  

我が食欲、たくましい!

  

さらに数年後、ツイスターが登場してからは行く頻度がさらに増え、今でも時折ツイスターをかじりながら、高校時代の失恋を思い出して苦笑いをしています。

  

2.アイデンティティについて

「アイデンティティ」って色々な場面で使われる言葉だと思います。

心理学的な側面からみると、それは
E.H.エリクソンという人が提唱した
「心理社会的発達理論」もしくは
「漸成発達論」と言われるものと関連します。

・エリクソンの言ったこと

エリクソンは、人が生まれてから死ぬまでを8段階に分けて考えました。

具体的には、
① 乳児期、② 幼児期、③ 就学前期、
④ 学童期(思春期)、⑤ 青年期、
⑥ 成人前期、⑦ 成人後期、⑧ 老年期

です。

キャァ、漢字ダラケ!!

  
  
  
  
  
  
  
  

エリクソンはこの各発達段階において、社会との関連で達成すべき「発達課題」と、それが達成されない場合に人格形成に影響を及ぼす可能性のある「危機」について言及しています。

これ、全てを解説しようとするとパンクしてしまいそうなのですが、一つ例をあげます。例えば「学童期(思春期)」

  

これは、小学生くらいの、「学校」という社会で生きはじめた時期をさします。

この時期の「発達課題」は「勤勉性」です。それが達成されないと「劣等感」という「危機」を抱くと言われています。

「勤勉性」を達成しないと「劣等感」という危機が訪れる。

なんとなくニュアンスが分かるでしょうか。

アイデンティティはこの次に出てきます。

・青年期において

青年期とは学童期の後、小学校を卒業してから20歳前後くらいまでの時期を指します。

  

この時期の達成すべき「発達課題」がまさに「アイデンティティ」です。

これは「同一性」とも言われます。

「自分は何者か」
「自分の目指す道は何か」
「自分の存在意義は何か」


といった、自分を社会の中に位置づける問いかけに対して、

「自分はこういう自分だ」

という回答を確立させることが、アイデンティティ(同一性)を確立させるということです。

・アイデンティティが確立することによって

人は、「自分」というものをある程度確立させてから社会に出ます。

それはつまり、次の発達段階である「成人前期」に突入するということです。

  

「自分」というものを確立させた者同士が相手を思いやったりしながら、成人前期の発達課題である「親密性」を達成していくのです。

・発達心理学、面白い

さて、エリクソン「心理社会的発達理論」を部分的にご紹介しました。

これは、発達心理学という学問にカテゴライズされます。つまり、人ってこうやって成長していく、ということを定義していく分野です。

僕はこれを知り、自分を省みて、「自分はここらへんの発達課題があまり達成されてなくて少し危機ってるなぁ」と自分自身を俯瞰できたような気がしました。

これって面白いな、と思うんです。

3.クリスマスに対するアイデンティティ

・高校生は青年期のまっただ中

そう、高校生は青年期のまっただ中です。

  

つまり、「自分」がまだ確立されていない、「自分とは何か」と追求をしている時期です。

  

もちろん個人差はありますが、「自分」がまだ確立されていない、未熟とも言える時期に恋愛をすれば、相手のことを思いやれずにフィギュアに夢中になってしまったりもするのではないでしょうか。

  

なーんて。

  

・恋愛はいいけどクリスマスは・・・

でも、幼児がよちよち歩きをしながら歩行の練習をするように、「自分」が確立されていなくても恋愛をするのは大事なことなのだと思います。

それで人間関係を学ぶ部分もたくさんあるでしょう。

  

ただ、僕自身においては、その副作用としてクリスマスに対して、「アンチ」なアイデンティティが根づいてしまいました。

  

先日、森見登美彦 著「太陽の塔」を読んだ時も、登場人物たちのユーモアのあるアンチクリスマスっぷりに強く共感しました。

その模様は、12月15日発売の雑誌「BRUTUS」での僕の連載「本の診察室」に情熱をもって書いたので、ご参照ください。

まぁただ、毎年この季節になると、頭の中で竹内まりやがリピートし始めて、

  

ケンタッキーフライドチキンに足が向くんだよなぁ。

  

みなさん、幸せなクリスマスを!

  

僕もチキンをいただきます。

  

ええじゃないか!!
(森見登美彦「太陽の塔」を参照)

  

文・構成:星野概念
イラスト:権田直博


星野概念(ほしのがいねん)

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精神科医

権田直博(ごんだなおひろ)

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